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幼馴染みはハイスペック

 ────八年後。

 イヴァルタール王国郊外北東中部、アールトス村。


 十五歳となったカリーナは、変わらず村で過ごしていた。代わり映えのしない生活ではあるが、特に不満もなく、今日ものんびりと生きている。


「……よし! 水やり終わり!」


 家庭菜園にある薬草の世話は基本的にカリーナの仕事だ。家族や村の人たちに褒められるくらいには、上手く育てることができる。

 薬を作る才能には悲しいくらいに恵まれなかったが、植物を育てる才能だけは持って生まれたようだった。

 

 薬は何回か作ったことがあるのだが、なぜか全く違うものが出来上がったり、毒物に変わったり、挙句の果てには調合釜を爆発させて一つお陀仏にしたので、カリーナは調合禁止になっている。

 世知辛いが才能がないので仕方がない。家の屋根を吹っ飛ばす事態になる前に、早いところ諦めるのが吉だ。


「良くよく育てよ~~……。あ、ローリカス草、もうそろそろ開花かな」

「リィナー?」

「ん、アデル!」


 幼馴染みが自身を呼ぶ声に、カリーナは薬草から視線を上げる。 


(うーん、相変わらず眩しい)


 声変わりの最中にある声がする方へ視線を向ければ、そこには田舎に似つかわしくない超弩級の美形がいる。端正な造形の男の子は、背景を合成しているのかと思ってしまうほどに周囲の景色から浮いていた。


 異様にキラキラしく爽やかなこの男の子こそが、カリーナの幼馴染み──アドルファス・クインである。


 幼馴染みであるアドルファス・クインは、隣の家に住む男の子だ。年齢はカリーナの一つ上の十六歳。両親を幼い頃に亡くして、祖父母と共にここに移り住んできた。これがカリーナが五歳の頃の出来事で、以来、二人は一緒に過ごしてきた。


 五年前にアドルファスの祖父が、四年前に祖母が続けて他界し、それからはずっと一人で住んでいる。


 当初、アドルファスの一人暮らしは反対されていた。

 いくらご近所同士どころか村人全員が仲のいい村だとしても、当時十二歳の子どもを一人暮らしさせるのはいかがなものか、と話し合いになったのだ。


 隣であるカリーナのウィロー家で引き取ろうかという話も出たのだが、アドルファスは一人で暮らせるから大丈夫だとやんわり断った。

 結局、毎日誰かしらが様子を見に行くので、特に問題はなく、アドルファスも家事が一通りできたのでそのまま一人暮らしをしている。


 それでもカリーナは、たった一つしか年齢が違わない幼馴染みが心配だったので、毎日アドルファスの家に押しかけた。ただひたすらに迷惑な行為でしかないのだが、アドルファスは喜んでくれたのでカリーナも意気揚々と家を尋ねるようになる。

 そのうち、朝に様子を見に行くのが日課となったのは完全なる余談だ。


 この幼馴染みは、カリーナの中で一番際立(きわだ)つ人物である。


 アドルファスは頭がよく回り、常に冷静沈着で焦っているところは滅多に見ない。田舎者にしては諸々の能力が高く、切れ者で、言い表しようのない風格がある。そして顔が整っているため、余計に田舎者感がない。


(どこの主人公様だ、君は)


「リィナ、昨日ハイウルフを狩ってきたんだ。ウィロー家にも分けようと思うんだけど、食べる?」


 これである。


 ハイウルフを単独で狩る十六歳。もうただの田舎者という感じがしない。


「うん。ありがとう、アデル。怪我とかしてない?」

「リィナはいつもそれ聞くよね。大丈夫、どこにも怪我してない。」


 もう何年も前から狩りしてるし、バークおじさんにもお墨付きを貰ってるって言うのに、リィナは心配性だよね、なんて笑っているが、カリーナの心配は当然ではないかと思うのだ。


 ハイウルフは割とレベルの高い魔物で、基本的には普通の冒険者が二人組になって討伐すると聞いた。これは商人のおじさんからの情報だが、その人は色々なところに出入りしているらしいので恐らく合っている。


 それをアドルファスは一人で狩ってくるのである。しかも、ハイウルフだけでなく、同じくらいのレベルの魔物をばかすか狩ってくるので、カリーナはいつもハラハラしている。


 アドルファスが並外れて強いことは知っているが、それとこれとは別なのだ。


(だって、いくら強くたって、怪我をする時はするでしょうに。痛いものは痛いじゃんか)


 しかし、心配するのが烏滸がましいほど、カリーナの幼馴染みは人並み外れている。


 アドルファス・クインは非凡だ。

 絵に描いたような平凡さを持つカリーナとは違い、アドルファスは持ちうるスペックが全て平均の上をいく。


 まず特筆すべきはその容姿だろう。

 一言で言うと、アドルファスはとんでもない美形である。

 一等神が手を掛けて作ったとしか思えないほどの眉目秀麗さ。多分、その気になれば顔で世界を狂わせることができるのではないだろうか。


 夜を溶かし込んだような黒髪は、田舎なのもあって大して丁寧なケアをしていないのにも関わらず、天使の輪が眩しいくらいに艶やか。

 バッサバサの長いまつ毛に縁取られた金色の瞳は、角度によって、蜂蜜を溶かし込んだようにも、インペリアルトパーズを嵌め込んだようにも見える。

 シャープな目付きをしているため、まるで狼のようだ。


 薄い唇に、高く筋の通った鼻梁、形のいい眉。

 左右対称の涼やかな顔立ちは、笑顔になると爽やかさをも感じさせる。歯並びも綺麗で、珍しいことに犬歯がかなり鋭い。付け加えておくと八重歯ではない。


 笑うと少しだけ犬歯が覗くのが、なかなか可愛く思えて、カリーナは気に入っている。

 それも相まって、カリーナは幼馴染みのことを狼みたいだと思っていた。

 動物に当て嵌めるなら、アドルファスは狼で、カリーナは猫である。


 成長期に入ったというのに身長があまり伸びていないカリーナに比べ、アドルファスは身長をグングンと伸ばしている。成長期真っ只中なため、まだ数センチは確実に伸びることだろう。


 齢十六にして、もう既に体は引き締まっていて、細身ながらも均整のとれた身体をしている。これでもまだ発展途上なのだから恐れ入る。

 筋肉のついた長い手足は一部の歪みもなく綺麗に伸びていて、爪の形すら整っているのはもう笑うしかない。一体どこに欠点があるのだろうか。


 ちなみに幼い頃は、本当に天使のように可愛らしかった。今ではもう男だと分かるが、当時は女の子と見紛うほどの可愛さだったのだ。


 もう文句のつけ所などどこにもないような容姿を持っているが、そこからさらにスペックを上乗せしてくるのがアドルファスである。


 何をやらせても、一度見聞きしただけですぐに習得するし、状況把握が速いので何かトラブルが起こっても冷静に最もベストな方法で対応し、解決してしまう。

 端的に言えば、問題解決能力が高すぎるのだ。


 かと思えば、全て一人で熟してしまうわけではなく、適宜人に助けを求めることができるため、抱え込んでしまって潰れるということもない。さらには、そこで人との関わりをもいっぺんに構築してしまうという有能ぶり。


 適材適所という言葉があるが、人の個性や能力を見極めて、上手くタスクを割り振りする姿は、どこの完璧上司かと言いたくなる。こんな上司がいれば、企業は非常に円滑に回るに違いない。


 カリスマという言葉が似合いすぎる幼馴染みのハイスペックさは、到底こんなものでは語り尽くせないが、彼が出来ることはありすぎるため、割愛した方が良さそうである。


 だって本当に長くなってしまうので。


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