表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/25

勇者は幼馴染み過激派

 やっと出ました。勇者アドルファスsideです。

 今代の勇者であるアドルファス・クイン。

 今をときめく彼には、結婚の約束をした最愛の幼馴染みがいる。


 昔。頭が人よりは良いと言えども、世間知らずの餓鬼だった頃。


 アドルファスは、いつかカリーナと一緒にいられなくなることがあると理解していれど、それを実感してはいなかった。ましてや、カリーナが他の誰かと寄り添って、人生を歩んで、幸せになるなんて。考えもしていなかった時期があった。


 そんな折、カリーナの結婚相手の話題が出た。

 小さな狭い村だ。同年代なんて己とカリーナの二人しかいない。ただの軽い、子どもたちの将来を予想して語り合うような、世間話として登った話題。


 けれども、それを通りがかりに聞いたアドルファスにとっては大きな出来事だった。


 結婚相手。カリーナの。


 その話が耳に入った時、頭を鈍器で殴られたような強い衝撃を受けた。あまりにも、理解したくなさすぎて。想像すらも、したくなくて。


 幼い頃から傍に居た、常にどことなく冷えている心に温かなものをくれる、可愛らしい女の子。誰よりも、何よりも、己の近くにいる彼女。

 そんな存在が、他の誰かと、結婚?


(....いやだ)


 この先もずっと一緒にいると思っていた。

 しかし、それに明確なものはない。愚かにも、微塵も疑うことなく、無くなる可能性も考えず、お互いが心の最も近くにいる関係が続くのだと。


 一番側に居てくれるひとじゃ、なくなる。

 他のだれかの物になる。

 お互いがお互いの何よりも近しい存在じゃなくなる。


 耐えられるか。


(──────無理だ、そんなの)


 一丁前に独占欲だけはくっきりとしていた、アドルファスがカリーナに向けていた感情が、明確な形を成した瞬間だった。


 その時、アドルファスは村に同年代の男がいなかったことに心の底から感謝した。


 例えいたとしても、絶対に譲らないし、何がなんでも振り向かせてカリーナと結婚するが。彼女の心を得るために手段は選ばない。

 ……否、やはり嫌われない程度には選ぶことにはなるだろう。嫌われてしまっては本末転倒なので。


 そうやって、アドルファスは緩やかに、じわじわとカリーナを囲ってきた。ひとまず、アールトス村の人達は、彼女の両親も含めて全員がアドルファスとカリーナが結婚すると認識している。


 そうなるように、アドルファスはしてきた。

 でなければ、いくら勇者になったといえども、軽く旅に出ることはできなかっただろう。少なくとも、結婚の意思がきっちり確認できるまでは絶対に。


 カリーナ・ウィローは、可愛らしい女の子だ。


 彼女は自身の持つ色を地味な色合いだとよく言っていたが、アドルファスはそうは思わない。


 カリーナのマロングレーの髪は、陽の光に透けるとはちみつを溶かしたような、とろりとした色になるし、初冬の湖面を切り取ったようなブルーグレーの瞳は、光の入り方によって様々な色に変化する。


 その変化はよく見ていなければ気がつけないほどに微々たるものだが、まるで万華鏡のように色が揺らめいて変わるのだ。それをこっそり眺めるのが、アドルファスは好きだった。


 それに、これは村を出て初めて知ったが、ブルーグレーの瞳はそうそういない。いたとしても、カリーナのような透明さを持っている人はいなかった。

 彼女の透き通る目は稀有なのだと、アドルファスは離れてから気がついた。


 その宝石のような目がアドルファスを写すのが好きだ。アドルファスが声を掛けたとき、パッと華やぐ笑顔が好きだ。本を読んでいるときの、その伏せらせたまつ毛の長さまで好ましく映る。


 日焼けしたうなじも、丸っこい爪も、深く笑うと出てくる片方だけのえくぼも、花弁を押し付けて作ったみたいな唇も。


 本と植物には目がないところも、考え事をし始めるとなかなか反応してくれなくなるところも、想像力が豊かなところも、突発的に出てくるギョッとするくらいの行動力も、なにかに夢中になっているときの表情の鮮やかさも。


 全部独り占めしたいくらいに綺麗で、カリーナを構成する何もかもが愛おしかった。


 離れて旅をしている今だって気持ちは微塵も変わらない。


(早く、リィナに会いたいな)


 帰れば結婚だ。


 そこまで好きな相手を置いて魔王退治になんて出たのは、ひとえにその当人──カリーナのためだった。


 世界のためでもなんでもなかった。

 アドルファスは他でもない、最愛の彼女のためだけに勇者として魔王討伐に出たのである。


 カリーナは小さい頃、魔物に大きな傷をつけられたことがある。


 幸いにして、彼女は聖魔力が多いことに加えて、内向者だったために自己治癒力が強く、傷跡は残らなかった。

 だが、暫くは外に出たがらなかった。本人は平気そうにしていたが、やはり無意識のところではトラウマになったのだろう。

 その内、再び外に出て遊ぶようにはなったが、少なからず心の傷となっていることは確かだった。


 目の前で最愛を傷つけられたとき、殺してやると思った。


 実際、アドルファスはその時カリーナを傷つけた魔物を殺した。怒りであまり覚えていないが、自分がそれなりに戦えることが分かったのはその時だ。


 何をどうやって倒したかは分からない。ただ怒りに任せて体を動かしていたとしか言いようがない。当然、不慣れもいいところな魔物討伐は、少々手こずった。負った怪我は多かったが、魔物を倒すのは初めてだったのだから仕方がなかったと言える。


 傷だらけで、痛みもあるはずだったが、そんなのは気にもならなかった。

 カリーナを傷つけたものは許せない。それを消すためであれば、何も躊躇などなかったのだ。


 まぁ、そのカリーナ自身は、アドルファスの怪我の具合をひたすら心配していたが。なんだったら泣きかけてしまった彼女に、アドルファスが焦ったほどである。


 兎にも角にも、カリーナの安息を脅かす魔物、ひいては魔王は確実に仕留めさせていただくことにしている。


 そんな彼女は、年齢こそアドルファスの一つ下だが、非常に賢い。


 カリーナ・ウィローは女の子は読書家だ。

 ジャンルを問わず、様々なものを読むからか、出会った頃から既に大人顔負けの知識を持っていた。


 彼女は知的好奇心も強いから、一度気になると色々試したがり、諸々のことでアドルファスは手を焼いたがそれはまた別の機会に語ろう。


 アドルファスは頭がいいと、彼女は事ある毎に言っていたが、アドルファスからすればカリーナこそ頭がいい。


 例えば、大人と対等に話をするのは案外難しいものだ。けれど、カリーナはそれを普通だと思っているし、実際に平然と大人同士の会話に混ざっていた。


 彼女の本を読む速さは、多分、贔屓目抜きでとんでもなく速いし、その記憶力だって目を見張るものがあった。


 どちらかと言えば、カリーナは外で遊ぶよりも本を読む方が多かったので、彼女と一緒に過ごしたいアドルファスも自然と本を読むことになる。そこで培われてきた知識には、旅をしてからというもの大いに助けられている。


 そんな背景を全く知らない他人に、その知識量を褒められることが時折あるが、今のアドルファスがいるのは、どれもこれもカリーナのお陰なのである。


 なので、アドルファスからすれば特別凄いことではない。何故なら、今持っている知識の全ては彼女からの恩恵に過ぎず、アドルファス自身の努力ではないので。


 そうして、本を読んでいく中で幼い頃のアドルファスは知ったのだ。

 魔物が増えたのは、魔王という存在が生まれたからだと。


 つまり、魔王を殺せば、カリーナを脅かすものが消えるのだ。

 とはいえ、世界のバランスを保つために、魔物が完全に消えることはないらしかったが。それでも、危険が減るのなら魔王を殺す価値がある。


 どうにかして殺せないだろうか、と考えていた時、都合のいいことに勇者として選ばれた。


 巡ってきた、と思った。好機だと。

 大手を奮って、魔王を殺せる。


 カリーナの傍を離れるのはかなり心気がいったが、それよりも彼女の未来の安全性を高める方が重要だ。

 ずっと傍にいて守っていられる自信はあるが、未来予知の能力もない以上、この先何が起きるか分からない。


 死ぬつもりは毛頭ないが、やはり離れなければならない瞬間は多々あるわけで。それならば、やはり不安要素は潰せるだけ潰しておくに限る。


 カリーナは約束を覚えていると言った。


 だから、村を出てきたのだ。

 例え覚えていなかったとしても、その場合はもう一度約束をきっちり結び直したが。まぁ、頷いてくれるまで待つので、その分、出立は伸びたかもしれないけれども。


(リィナは今、何をしているのかな)


 魔王討伐の旅は主にアドルファスの事情──早く帰ってカリーナに会いたい──により、かなりの強行軍の為、手紙を出すことができていない。

 よって、アドルファスは彼女の現状を知ることができない。


 願わくばどうか、他の男と仲良くなっていませんように。


 離れてもどかしいのは、早いところ終わりにしたい。

 その想いは、勇者一行の旅路をますます早くし、そして力量を強くしていった。


 まさか、その最愛の幼馴染みであるカリーナが村で待っておらず、あまつさえ旅をしているなど知る由もなく。


 こうして、互いを想い合っているにも関わらず、決定的に噛み合わなかった認識の齟齬により、幼馴染み同士のすれ違いは人知れず加速していくのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ