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撃っていいのは、

 あの後も幾度となく襲撃され、ついにブチ切れたカリーナは、最終的に襲撃者を完膚なきまでに叩きのめし、締め上げて雇い主を吐かせた。


 雑草を抜くときは根っこから。土いじりをする人間なら誰だって知っている常識だ。根っこが残っていると、雑草はいくらでも増えて全くいなくならないのだ。


 どこからか湧いて出てきて、いくらでも襲いかかってくるこの襲撃者たちも、雑草と同じである。


 こういうのはどうせ雇われている。そして大体、裏で糸を引いているのは貴族。物語でもそれが定石だ。

 雑草の根っこを綺麗に引っこ抜くように、元凶をきっちり潰さなければ、これが終わらない。


 そう思ったカリーナは、襲撃者共のバックにいるだろう元凶を突き止めることにした。


 疲労と怒りで思考のネジを溶かしていたカリーナは、身分が己よりも上である貴族ということを知った上で、家に乗り込むことにした。


 そもそも行動を共にしていたのは皇帝様だ。貴族だなんて、それよりも身分的には下である。それよりも下層のカリーナは不味いだろうが、そんなものは関係ない。この国での最上位であるアストラがいるのだから、もう感覚が麻痺していた。


 吐かせたところ。どうやら貴族の中でも上の方にいる人物が元凶らしいことが判明した。襲撃者が吐いた名前に、アストラが侯爵だな、と呟いたので。


 どうやら男爵なども使い、いくつも人を経由して、指示役を分かりにくいようにしていたことも芋づる式に分かった。

 正体を悟られぬように色々と利用していたようだが、痺れを切らしたのかそのまま直で暗殺依頼をしたようだ。それだけ焦っているのだろう。


 何故これらが分かったのかというと、カリーナが締め上げたのが、ちょうどその直で依頼された人間だったからである。非常に運が良かった。


 侯爵を真っ直ぐ潰しに行くのが理想的だ。それまでを経由した男爵や子爵なども潰せると楽だが、まずは元凶が先だろう。どうせ、下の立場の者たちは捨て駒に違いない。

 そいつらを潰したとて、元凶が逃げる時間ができるだけ。


 こちらが相手のことを知ったと相手側に悟られる前に、とっとと潰しに行かねば。ここまで煩わされたのに、逃げられるなんてそんなの腹が立つので。


 撃っていいのは撃たれる覚悟のあるやつだけ。


 暗殺を目論んで幾度となく襲撃者をけしかけてくるなら、逆にそちらが潰されることだって当然覚悟の上だろうな。


 再三言うが、カリーナはブチ切れていた。


 アストラに侯爵邸の場所を聞き出し、連れ立ってその標的の家の前まで来たカリーナは、その立派も立派な邸宅を見上げた。


 門の向こうに見えるのが、元凶の家である。アストラに聞けば恐らく在宅とのこと。


(さて、どうやって潰そうかな)


 方法を考えるが、疲れているせいか特に思いつかなかった。


(まぁいいや)


 全部ボコボコにすればいいか。


 まるで蛮族の思考だが、仕方がない。兎にも角にもカリーナは疲れていたのだ。疲れている人間に、まともな思考回路は残っていない。


 そして、本来なら報復する権利のある命を狙われていた張本人───アストラも全く止めることなく、そのままカリーナの好きにさせているのだから止まるわけがない。


 むしろ、彼はカリーナの背後でニヤニヤと笑っていた。やけに楽しそうだった。


 そうして、何故かしれっと裏口を知っていたアストラに案内され、すんなりと侯爵邸に侵入した二人は直接元凶を叩いたわけである。


 家にいた護衛などは、向かってきた者たちだけ伸した。様子見していそうなら放置、攻撃してくるなら反撃。余計な被害を出すつもりはなかったので、手を出してこなければ手を出さないことをルールにした。


 元凶の侯爵は私室にいた。


 ノータイムで扉を蹴破り、ダイナミックお邪魔しますを実行したカリーナを見て、初めは勢いよく怒り狂っていたが、その背後から爆笑しながら悠々と続いて入ってきたアストラを見るや否や沈黙した。

 さっきまでの活きのいい態度はどうした、と言いたくなるほどの変わりようだった。


 その態度すら目に付いたカリーナは、疲労による怒りが相当深かった。


 暗殺しようとしたくせに、いざ暗殺対象と対面したら弱腰ってどういうことだ。舐めてんじゃねぇぞ。


 何やら泡を食ったようにカリーナに向けて喚いていたが、カリーナは大して内容を聞いていなかった。アストラの存在から逃げるように、カリーナ"だけに"怒号を浴びせているその顔を見て、怒りのボルテージは一気に最高潮まで上った。


(一から十まで気に入らねぇなこの小物)


 皇帝暗殺なんて大それたことを実行したのに、まさか今更ビビっているのか。


 何回も殺されかけている(危ない瞬間は一つとしてなかったが)のだから、それのみが事実である。理由なぞどうでもいい。それはアストラにでも聞かせればいいだろう。カリーナは他国の平民なので、一切関係ないのである。


 関係ないのに巻き込まれていたのだから、お話にならないが。


 キレッキレだったカリーナは、もうお前に用はないと言わんばかりに、何事かを喚き続ける侯爵へ一瞬で距離を詰め、なんの躊躇もなくハイキックを決めた。

 何か薄い壁のようなものが展開された気がしたが、ハイキックの際に一緒くたになって割れたので、特に問題は無い。


 なお、カリーナはよく分かっていなかったが、護身用の魔力防壁が展開されていた。腐っても侯爵位の持つ護身用魔力障壁である。割と硬い代物だったのだが、そこらの身体強化よりもよほど強い強化をかけているカリーナには無意味だった。


 アストラは、その光景に驚きつつも、笑っていた。身体強化が他よりも強いのは分かっていたし、それを考えれば納得だ。まさかここまでとは、少々思っていなかったが。


 無自覚ながらも規格外の身体強化をしたカリーナの前に、侯爵など無力である。瞬時にノックアウト。侯爵が意識を失う前の最後の記憶は、真顔のカリーナと残像となった。


 ここに至るまでも、アストラは終始爆笑していた。


 何故って、尽く自分の暗殺に失敗していて、全て阻止されていることが滑稽で笑えるし、それを成したのが全くのノーマークである、他国の平民で? しかも、本人まで辿り着いて、瞬く間にぶちのめされているのである。

 愉快極まりない。


 アストラは非常に満足していた。こいつは面白い拾いものした、と。ただ、いくら傍若無人と称される彼でも、ここまで巻き込んでしまったことには、少し申し訳なくも思っていた。


 一方、カリーナは、自分が好きに行動しただけなので、特になんとも思っていなかった。いや、巻き込まれ型の不運だったことは否めないが、それはそれとして。

 一緒に行動するのも、襲撃者をいなすのも、元凶を潰しに行くのも。全て自分で決めてそうしていたのだ。


 ここまで来たら一蓮托生である。覚悟は初めの方に完了していたので、今思うところは別段なかった。


 そうして、侯爵はアストラが呼んだ騎士団に連行された。気絶したまま。

 侯爵の家族は逃げ出していたが、それもすぐに捕まるらしかった。侯爵だけではなく、一家総出の計画だったのか、よく分からないが。


 依頼書などの証拠品も押収された。他にも不祥事の証拠がゴロゴロあったようだが、平民のカリーナには関係のない話だ。


 まぁ、素晴らしく悪い顔をしていたアストラが、非常に迫力があったことだけは明記しておこう。


 さて、以上が昨日の出来事である。振り返ったカリーナは思った。一日に詰め込んでいい量じゃない。


 旅に出てからそんなに経っていないというのに、こんな感じのことばっかりだ。旅に出ると皆こうなるのだろうか?


 そして、問題が解決したと思ったら、そうは問屋が卸さなかったのである。

 そう、ここまでは回想だ。


 カリーナの受難は更にもう一段階あったのである。


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