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痴話喧嘩の規模がデカすぎる

 明らかに身分差があるのに、えげつないほどのフランクさで会話する謎の二人組というインパクトの強い印象を与え、店員側に混乱だけを残して宝石店を出た二人は、そのまま歩き出す。


 完全に常人の外側のような関係性と会話を平然と行う二人は、非常に緩やかな空気だった。

 周囲の視線など何処吹く風である。


「そういやさっきの身体強化はかなり強かったな。魔力の量はそれなりと言っていたが、大体どのくらいだ?」

「そうですかね? う〜ん、私もどのくらいかよく分かってないんですよね」


 そう言えば、アストラは不思議そうな顔をした。


「魔力計測は余っ程何かなければ、誰でも受けられるようになってるはずだろう。測っていないのか?」


 アストラの言う通り、魔力計測は貧富の差は関係なく、誰でも受けられる。身分差も関係ない、万人に与えられている権利だ。

 が、これには少し語弊があったりする。


「私、出身がかなり辺鄙な村なんです。その、魔力計測器は使ったんですけど、どの魔力属性かが分かるくらいのものでやったんです。なので、詳しい数値は知らないんですよ」


 魔力計測器にはグレードがある。


 どの属性を何種類持っているかのみを表示する簡易型と、属性と種類だけではなく、魔力量の正確な数値までを表示する数値算出型だ。


 数値まで分かる魔力計測器となると、高い。性能が良ければ良いほど高価になるので、平民では裕福な家庭でなければ個人で所有しない。裕福な平民でも持っているかどうかといったところだ。


 では平民はどこで魔力を測定するのかと言うと、もっぱら教会である。教会には数値算出型の魔力計測器が必ずある。


 ウィロー家も魔力計測器は個人所有していない。

 なので教会で測ればいい話なのだが、生憎とカリーナの村には教会がない。隣街にはあるが、ちょっと遠いし、魔力量の数値を知るためだけにそこまで行くのはめんどくさい。


 両親は隣街の教会まで行こうか、と言ってくれていたのだが、面倒くさがった(というか、丁度その時読み進めていた本の展開がとても良いところで、他のことに時間を取られたくなかった)カリーナの魔力属性さえ分かればいいという主張により、それはなくなり。


 行商のおじさんが持ってきた簡易型の魔力計測器で測ったのである。


 量がそれなりだとカリーナが思っているのは、使ってみた感覚で捉えたものだ。

 加えて、村の人が多めだろうと言っていたからそうなんだろうと思っているだけであって、正しい数値で見たらどれくらいあるのかは知らない。


 魔力量が多いに越したことはないが、多かろうが少なかろうが、平民のカリーナにはあまり関係がない。

 有名になりたい欲もないし、大量の魔力が必要な状況になることもあまりないので。


 ちょうど角を二つほど曲がり、宝石店の並びが見えなくなった頃。


「お出ましか」

「え、またぁ?!」


 言いながら、二人は間に来た剣撃を避けた。


 宝石店を出た途端にこれである。


 暗殺紛いの襲撃もこれで三回目。二度あることは三度あると言うが、それにしたって多すぎないか。しかも今度は強そうな人が来てしまった。なんなんだ。こんな一日に一斉に来ることってありえるのか。


(え何、流行りかなんか?)


 だとしたら、そんな流行りは早く撤廃して欲しい。

 どいつもこいつも皇帝暗殺を同日に実行するんじゃない。


 狙われている張本人は、戦闘はほぼカリーナに任せて自分は避けたりするだけ。まぁ、今のところカリーナ一人でどうにかなるような相手しか来ていないので、いいのだけれど。


 しかし今回の襲撃者は何となく強そうである。

 カリーナが無理そうであれば恐らく参戦してくれるだろう。多分。そんなに冷酷ではない....と思いたい。


 攻撃が当たらなかった襲撃者は一旦距離を取った。そのまま静かに右手を上げる。すると、路地やどこかの屋根からゾロゾロと出てきた。

 多分、お仲間なのだろう。みんな一様に容姿が分からない服装をしている。


「うわ増えた........」

「大量だな」

「あんたずっと呑気なのどうにかならないんですか?」


 割とピンチな状況だと思うのだが。


「ううん見掛け倒し......」


 強そうだと思ったのだが、外見だけだった。前言撤回。全然ピンチではなかった。

 一番最初の襲撃者(仮)よりかは攻撃動作が早いし、威力もありそうだが、当たらなければ意味が無い。正直、拍子抜けである。


 このまま地道に攻撃され続けるのも面倒なので、もう手っ取り早く全員ボコボコにしよう。そう考えたカリーナは身体強化のギアを一つ上げる。


 カリーナはいい加減疲れていた。


「これも痴話喧嘩の産物なんですか?」


 "これ"というのは、何度も襲撃されていることである。流石にこうも向かってくるものが多いと、何かあると検討がつく。


 もしこれもこのノーブルな方々の痴話喧嘩の範疇なら、喧嘩の範囲がデカすぎる。


「まぁ......そうだな。そういうことにしておこう」


(どっちやねん)


 フワッとした返答に、そうなのかそうでないのかハッキリせい、と思いつつ、カリーナはそれ以上詮索するのをやめた。お貴族様のゴタゴタなぞ、平民は知らない方がいいので。

 しかも貴族社会のトップザトップな王族のゴタゴタともなれば、ろくなものではなさそうだ。


「こんなもんかなっと。はぁ、疲れた」


 全員ボコボコにしたカリーナはパンパンと両手を払う。カリーナの周りでは襲撃者達が地面で沈黙していた。誰も例外なく意識を刈り取られている。


 十から百まで、とまでは行かないが、まぁ原因は恐らく自分であろう騒ぎの真ん中で、アストラは一つ頷いた。


 カリーナがとんでも性能を誇る身体強化にものを言わせて向かってきた者たちを薙ぎ倒し、ケロッとした顔で次どこに行くんですか? なんて聞いてきたからである。図太くて大変よろしい。


 さて、そんな知らぬ間にアストラの関心を買ったカリーナは、一見そうは見えないが、やけくそで動いていたので無敵のスター状態だった。つまりは吹っ切れていたのである。もうどうにでもなれ、だ。

 目下の行動方針はガンガンいこうぜである。


 目的の為に突き進むあたり、カリーナも勇者となったアドルファスも似ている。似た者幼馴染みである。


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