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聖木の 力って すげー!

 今回少し長めです。

 目的の国まであと少し。そんな気持ちで足取り軽く歩いていたカリーナは、血の気が引いていくのを感じていた。手足の震えも最高潮だ。


「またかよ」


(嗚呼、どうしてこんなことに───)


 一難去ってまた一難。カリーナは魔物に囲まれていた。


 もう国が近いというのに、この有様である。魔王がいるからだろうが、魔物の活動がかなり活発なようだ。


 道なりに進んでいるだけなのに、この短時間で二回も魔物に会うだなんて運が悪い。エンカウント率が高すぎる。カリーナは青ざめた顔でそんなことを思った。

 そんなに何か悪いことでもしただろうか、と最近の己の行動を振り返る。


(してないはずなんだけどなぁ)


 もちろん現実逃避などしている暇はないのだが、あまりにも現実を直視したくなさすぎて思考が若干横に逸れる。精神的ストレスがえぐい。


 お次は犬型の魔物に遭遇したカリーナだが、状況は先程よりも悪い。


 さっきは一匹だったのに、今回は六匹である。冗談ではない。こちとら戦い慣れていないただの村人だというのに、どうしろと。


 羊型の魔物を撃退した後に、体に振りかけるタイプの魔物避けを被っていた。そのお陰で、今のところは距離を取って睨み合うだけになっているが、数匹もいるとそれもいつまで持つか分からない。


 全方向を警戒しながら、バッグの中を漁る。当然その間も目線は隙なくそれぞれを見たままだ。


 どちらかというと比重的には前方の方にいるのが救いだ。斜め後ろにもいるけれども、幸か不幸か、完全に視界の外にいる個体はいない。


 緊張から来る酸素不足か、瘴気による影響か、思考がうまく纏まらない。トラウマのせいもあってか、段々と頭が回らなくなってきた。

 冷や汗がたらりと背中を伝っていく。


(今度こそ詰んだかも)


 万事休すか。


 その時、すぐ側に生えていた木がぼんやりと光った。その弱々しい光に、まるで怯えたかのように魔物たちが僅かに後退した。


 今にも消えそうなたどたどしい光を発している木に視線をやったカリーナは驚きに目を見開いた。魔物を刺激しないように漏れかけた声だけは必死で抑えたが、驚きは大きい。


(えっ、この枯れ木っぽいのって聖木なんじゃ?!)


 カリーナが横に立っている木。まさに枯れかけといった、全く生気を感じられない木。まさかだが、もしや聖木なのでは。


 いつか図鑑で見たのとは風貌が異なっていたためすぐには分からなかったが、よくよく見てみれば確かに聖木である。割と重要な植物であるはずの聖木が枯れかかっているのは、やばいのではなかろうか。


 魔物に囲まれているのは、魔物が数匹いるところにカリーナが出てしまったからだ。迂回するにも気が付かなかったのだから、避けようがなかった。


 何故、魔物が六匹もいたのか。犬型であるため群れることを考慮しても、こんな道の近くに来るだろうか。魔物はどこだろうと基本的に考慮しないが、それにしたってである。何か理由がある。


 辛うじての光を灯した枯れかけの聖木───もしかして、これを目標にしていたのか。


 まるで引き寄せられるように、何かへと群がっているような印象を受けたのは恐らく間違っていなかった。


 聖木が重要であるとされるのには当然理由がある。


 聖木は、名前が表すように聖なる木だ。聖属性の魔力──聖魔力を多量に内包する木であり、常から仄かに聖魔力を帯びている。

 様々な理由から、どの図鑑や本でも詳細は伏せられているものの、聖木が特別なのは木自体に聖魔力が満ちているからだ。

 そして、最もたる特徴は、魔物避けになるところだろう。


 聖魔力は魔物や魔王が持つ瘴気を払い、清めることができる。

 聖魔力と瘴気は言わば真反対のものである。聖魔力は魔物などが持つ瘴気を相殺し、瘴気による穢れを清めて綺麗にするのに相応しい力だ。


 この枯れかけの聖木が元気になれば、この状況を脱することができるかもしれない。


 空論だ。根拠はない。だが、やってみる価値はあるだろう。

 一か八か。どうせ死ぬのならば、やれることはやってみてからの方がいい。


 カリーナは手にした栄養剤を聖木に振り掛けた。


 今起こったことを一文で説明しよう。


 お手製の栄養剤で聖木を元気にしたら、六匹もいた魔物が一気に散っていきました。


(いや……すごいな??? 聖木)


 すごいわ、聖木。ただ普通の木と同じく植わっているだけで軽いものではあるが、結界効果があるらしい。浄化作用も強烈だ。すごい。


 カリーナはこれ以上なく感動していた。命の恩人ならぬ恩木である。

 何を言っているのか自分でもよく分かっていない。だが、この命の危機を脱したことと目の当たりにした聖木の凄さに、テンションははるか高くまでぶち上がっていた。


 どこか関心にも似た感情のまま、目の前の聖木を眺める。


(それなんてチートアイテム?)


 前世ではありえなかった世界の神秘に感動しすぎて語彙力が低下したが、これを凄いと言わず何というのか。


 聖木という植物は、今世も前世も植物好きなカリーナの興味を大いに引いた。


 いや、本で存在を知ったときから割と興味があったのだが、今起きた現象によって俄然興味は強まった。できることなら年単位で張り付いて、いろいろと観察して手を加えて、研究をしたいくらいだ。


 とはいえ、聖木は大抵が国の管理下にある。なにせ、その名の通り”聖木”なのだ。聖書などにも載っているような神聖な木なのである。


 個人には所有権は到底無く、国単位での所有物となるのが一般的、というか、個人で聖木を所有しているという人は恐らくいない。


 とどのつまり、おいそれと手を出していいものではないのだ。なので、研究対象にするならば、それなりの研究機関などに所属しなければ到底無理だろう。


 そこまでの財力もなければ能もないカリーナには難しい話だ。ついでにそういったものに繋がるような縁もないので、残念だが、研究するのは諦めるが吉である。


 そこまで考えて、待てよ? と冷静になったカリーナは気がついてしまった。

 個人がひょいと手を出してはいけないようなものに、たった今自分は手を出さなかったか?、と。


 状況が状況だったので仕方がなかったとはいえ、自分お手製の改良栄養剤を聖木にふっかけた。


 これは、手を出したことになるのではなかろうか。


「……まずいのでは?」


 しかしそう思っても既にやってしまったのだ。もう後の祭りである。


「なかったことにしよう」


 そうだ、そうしよう。ここには何も無かった、いいね?


 なんかよく分からないけど、自然的に聖木が超元気になった、ということにして早いところこの場を去ろう。誰も見てなかったし、誰もいないし、私しか知らないし。


 カリーナが誰かに口を滑らせなければ、このことは闇に葬り去られるはずだ。神に許して下さいと祈りつつ、カリーナはその場を後にした。


 早く犯行現場から離れたいカリーナは、魔物にもう会いたくないのもあり道を爆走していた。疲れようが構うものか。

 疲労回避よりも安全な場所に行くのが最優先である。


 やがて見えてきた大きい石造りの建造物に足を止める。


「はぁ、やっっっと着いた〜……」


 緊迫した状況に見舞われながらも、やっとのことで目的地の入国門に辿り着いた。


 ここまでの割と短い距離で魔物に二回も出会った。精神的な疲れが半端ない。認識が甘かったのが悪いとはいえ、不運が重なったので、入国門まで来た喜びもひとしおである。


「いやほんと良かった、無事に着いて」


 何か一つでも違っていたなら、今頃道半ばで死体になっていた。


 商人などの大型の馬車やら貴族っぽい装飾の綺麗な馬車が通っていくのを横目に見ながら、入国門の端、一般旅行者の列に並ぶ。当然ながら、入国には手続きがいるのだ。


 順番が来たので一つ前の街で入手した通行手形を差し出す。 手形に書かれている街の名前を見た門番のおじさんは目を丸くした。


「おや、もしかして歩いてきたのかい」

「そうです。乗合馬車が動かなくって」

「ああ、故障だろう? こちらにも情報が来ていたよ。でも、よくここまで歩いてきたね?」

「割と足には自信があって」


 なにせ、こちとらド田舎育ちなもので。


 徒歩で来たのは田舎育ちのカリーナにすれば近かったのと、門番のおじさんが言った通り、乗合馬車が故障で走らなかったからである。


 これは時々あることなので、急いでいる人は馬を借りるし、余裕のある人は歩くか、直るまで街に滞在するかなど、それぞれに代替案を考える。


 乗馬ができる人は馬をレンタルをして、いくつかの箇所にあるいずれかの預け口に返す。

 もちろん、乗馬ができない人もいるので、乗馬ができる人に乗せてもらうこともある。乗合馬車が何らかの原因で動かないときは、乗合馬車を運営している人たちが乗馬して利用客を運ぶ役割に回っているらしい。


 一人ずつの運搬になるので一度にたくさんの人を運べないが、そうすることで運営をスムーズにしているのだとか。


「魔物とは会わなかったかい」

「会いました……」


 しかも二回も。


「よく無事だったね?! 怪我はしていないかい?」

「大丈夫です」


 その過程で国家単位で管轄されている聖木に手を出し、あまつさえ枯れ木寸前から青々とした木へと劇的ビフォーアフターを遂げさせてしまったカリーナは、こちらを気にかける門番からそっと目を逸らした。


 いや、不可抗力ではあるのだけれど。

 ワンチャン罪に問われるようなことをしでかしたのに変わりはない。


 心配してくれるのはとても心に沁みるのだが、なんというか、後ろめたい。ごめんなさい。


「怖かったし、大変だっただろう。さぁ、手続きも終わったし、通っていいよ」

「ありがとうございます!」

「ようこそ、ラツェド帝国の玄関口、ヴェルフェアへ」


 カリーナは遂に最初の目的地──────ラツェド帝国へと足を踏み入れたのだった。


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