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主人公すぎる幼馴染み様

 魔王討伐を成すため、ひいては世界を救うために村を出ていったカリーナの幼馴染み──アドルファスは、一を聞いて十を知る人間だった。神童というのはこういう人間のことを言うのだろうと常々思っていた。

 端的に言って頭が良すぎる。


 当時、齢五つにして既に本の虫だったカリーナは、彼からの何して遊ぶ? という問いかけに、およそ八割方は本読む! と返していた。小さい子にあるまじき嗜好である。


 もっと外で遊ぶとかあっただろう、と思わなくもないが、それはともかくとして。だって、その時は読書が外の世界よりも余程楽しいことだったのだ。仕方がない。


 途中、前世の記憶が生えたりもしたが、それでも本の虫なことは変わらなかった。むしろ悪化したので、余計に引きこもりになった。


 そして、幼馴染みであるアドルファスも当然、じゃあ僕もそうしようかな、となるわけである。


 なにせ村には、歳が近いのはお互いしかいないので。


 例に漏れず過疎化している村は平均年齢が高いため、仕方ないことである。


 村の大人たちも遊び相手になってくれるにはくれるが、忘れてはいけない。アールトス村は超のつくド田舎。みんな生活のためにそれぞれやることがあるのである。必然的に、子どもの遊びに付き合えるのは短時間となってしまうのだ。


 そうして一緒に本を読むことで、元から頭の良かった幼馴染みの頭脳はどんどんと磨かれていった。


 発達真っ只中の小さい子の脳は吸収も半端ないので、それはもうぐんぐんと頭の良さをのばしていったのだ。


 もちろん、隣で同じことをしていたカリーナとて原理は同じなのだが、やはり元の素養が違うので、惜しくも負ける形になるだろう。


(一を聞いて十を知るのは私には出来ないんだわ)


 そんなわけで、アドルファスの冷静さと合理的思考力は、到底十六歳のそれではないところまで育っていた。頭の回転の速さは常人のそれよりもはるかに上だ。ちょっとした知識人なんて目じゃないほどによく回る。


 だからこそ、勇者になったのだろうけれど。


 並外れたところがないと勇者にはなれないのだろうな、なんて。月並みな考えだけれども、多分間違ってもいないだろう。


 前世で、という前提の話になってしまうが、例えば戦略ゲームとか、きっと得意だと思う。他にも謎解き系のやつとか。

 アドルファスの頭脳ならば、そういう頭を使うゲームもきっと、大会に出て上位に食い込むくらいになれそうだ。優勝だって夢じゃない。


 まぁ、この世界にそんなものはないから、これは単なる妄想でしかないけれど。


(うーん、オセロ、とか。私も割と得意な方だったけど、どうかな。もしかしたらワンチャン、オセロなら勝てるかもな?)


 なーんて取り留めのないことを考えていたら、魔物と遭遇した。


「どうして」


 多分ボケっとしながら歩いていたからである。あるーひ、森の中、魔物に、出会った。

 いや、巫山戯ている場合では無い。目の前には唸る魔物。端的に言って命の危機である。


 心の中は余裕なようでも、実質はただの現実逃避。体自体には震えが出てきていた。


 実を言うと、カリーナには魔物にちょっとしたトラウマがある。まだ幼い頃に、村の外れで魔物と遭遇してしまったことがあるのだ。


 当時、どうしていいのか分からずに小さなパニックを起こしたカリーナは、野生動物にすらしてはいけない「背を向けて逃げる」ということをしてしまった。


 結果は襲いかかられて背中を裂かれる大怪我。幸いにして、魔力が自己治癒力を高めてくれたため、傷跡も残らず綺麗に治った。だが、魔物に襲いかかられた恐怖や怪我をした瞬間の痛みが消えるわけではない。


 大事には至らなかったものの、幼いカリーナの心には若干のトラウマが刻まれたのだった。


 時は今に戻って、現在目の前にいるのは、かなり邪悪な見た目になっているが羊型の魔物。

 角が異様に大きく凶悪にとんがっているし、纏う瘴気のせいでプレッシャーが凄い。瘴気に当てられた草花が魔物の足元で萎びている。


 当たり前だが、完全にロックオンされている。


「おわった」


 さて、そんなトラウマの元である魔物と出くわしてしまった。非常にまずい。旅を始めてすぐだと言うのに、もうここで終わりなのだろうか。


 いやいや、諦めるのは早すぎると必死に対処を考える。


(ええと、ええと。そう! 確か、魔物が嫌いな匂いを発する薬を入れていたはず)


 ひとまず身体強化をしておき、血の色よりどす黒い瞳と見つめ合いながら、じりじりと間合いを取る。

 頼むから飛びかかってきてくれるなと願いつつ、視線を逸らさずに手だけでバッグの中を漁る。


 特徴的な形をした薬瓶に入れていたお陰で、すぐに手が当たる。当たったそれを引き抜いて、思いっきり魔物との間に撒き散らした。


「ギャェア!」


 飛び退いた魔物がそのまま身を翻して走り去っていく。どうやらきちんと効いたらしい。

 ほ、と安堵の息を吐く。もしダメだったら、死ぬまではいかなくとも逃げ切れずに怪我をしていたかもしれない。


 空になった薬瓶に目を落としながら思う。もしもっと大型の魔物だったら、ダメだったかもしれない。


 この旅をする中で改良してみるのもいいかもしれない。


 薬を作る才能には恵まれなかったカリーナだったが、実は村を出る数日前にとあることが判明した。


 魔力を一切使わずに材料だけを掛け合わせる方法だと、レシピ通りに作れたのだ。


 実のところ、家族の中で自分だけ薬をまともに作れないことを気にしていたカリーナは、これが分かって喜んだ。文字通りの大歓喜である。


 何故カリーナが作ると全く違うものが出来上がり、薬効が正反対になったり、もっとひどいと調合釜が壊れるのか。アールトス村の七不思議になるくらい、長年の疑問だった。


 魔力を使わなければいいのでは? と気がついたのは父ユールである。


 ちなみに、試すときには家に防護魔法をかけた。もちろん立ち会いの両親とカリーナ自身の身体にもかけた。

 なにせ、カリーナは前に一度調合釜を吹っ飛ばしたし、結果がどうなるか分からなかったので。


 それはともかく。やってみたところ、成功したわけだ。


 ウィロー家の薬は基本的に魔力を流し込みながら作る。俗に言う魔法薬だ。その魔力を流す過程がカリーナは出来ないタイプだったらしい。

 流し過ぎなのか、そもそもが流していいものではない魔力なのか、詳細は分からないが、兎にも角にも魔力さえ使わなければ薬を作れることが判明したのだ。


 薬を作る才能がなかったのではない。

 正しくは、魔法薬を作る才能だけがなかったのである。


 魔法薬が作れないのは残念だが、普通の薬を作れるだけでも喜ばしいことだ。


 そんな訳で、カリーナのバッグには両親が作った魔法薬と、自分で大量に作った魔力抜きの薬が入っている。


 ちなみに今魔物に向かって振り撒いたものはカリーナお手製のものである。自分の作ったものに魔力がなくても効き目があると分かり、カリーナはうきうきだった。


 魔法薬でなくとも効くのであれば、自分でも改良ができるということだ。素晴らしい。

 元より知的好奇心が旺盛で、なおかつ植物全般が大好きでその方面の知識が膨大なカリーナは、薬を作るのに向いていた。


 ただ今までは魔力を流す云々を分かっていなかっただけで、作る才能はあったのである。

 しかし、原因が分かった今、カリーナは、大手を挙げて好き勝手できるわけである。研究者気質でもあるカリーナは旅の目的に薬作りと改良を追加した。


 空になった薬瓶をバッグに突っ込み、カリーナは初めの目的地である国へと歩き出した。


 今日の早朝に目的の国に近い三つ目の街を出たので、あと数刻もすれば入国門が見えてくるはずだ。


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