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人違いからの転生、そして誕生

初投稿です。よろしくお願い申し上げます。


「あんたのせいよ!」

「えっ」


 突然背後から聞こえた女性の絶叫。なにごと、と振り向くよりも早く、右の脇腹、背中よりの部分に走った焼けつくような鋭い痛み。思わずうめきながら痛む個所を反射的に押さえれば、手に纏わりついたぬめった感覚。病院で嗅ぎ慣れた血の匂い。───刺された? 


 目の前には息の荒い女性が立っていた。随分と興奮しており、その目は血走っている。異様なほど震える両手には握りしめられた小型ナイフ。切っ先から血がたらりと落ちた。


 一拍の間。瞬間、そこかしこから悲鳴が広がる。爆発的に広がる声は、何一つとして聞き取れない騒めきに変わった。


 おい人が刺されたぞ! 救急車、警察は、通報しないと、女の人死んじゃうわ! 血やばい!


 周囲は喧々諤々としていた。


 目の前にいる女性はぶつぶつと何かを言いながら震えている。こちらを向いているはずだが、視線が合わない。目は合っているものの、女性は別のどこかを見ているようだった。


「あんたさえいなけれ、ば……あんた誰?」


 は? という声は全てうめき声にしかならなかった。

 彼女の言葉に信じられないと感じる反対側で、そうだろうな、とも思う。だって、こんな人知り合いにもいなければ、顔を見たこともないのだから。


 違う、この人じゃない、あいつはどこ、なんて耳をつんざくような甲高い声で叫んでいる。悲鳴を上げながら発狂した様子だが、こっちのほうが発狂したいと思った。


(うそでしょ、人違いで刺されたのかよ! 夜勤明けでこの仕打ちってある?! 神様あんまりだって)


 まさかの人違いによって刺されるだなんて、冗談ではない。


 自分なりにあくせく必死に働いて。人の為にとそれなりに、大層なものではなくとも志を持って働いてきて。その結末がこれ?


 舌打ちの一つでもしてやりたかったというのに、視界が霞んで仕方がない。寝不足と疲労に加え、大量出血による貧血。立っていられずに倒れるも、身体を打ち付けた痛みすらもう感じ取ることができない。手足が氷のように冷えていく。


(ああ、これ死ぬな)


 確信だった。


 女はここで人生は終わるらしいと悟って、静かに目を閉じた。周囲の騒めきも、まだ目の前にいるだろう頭のトんだ女性も、続くはずだった生活も。

 全部どうでもよくなった。


 どうせもうそろそろ、仕事はやめようと思っていたのだ。

 命の現場。一瞬が命取りの仕事、勤務体制もきっちきち、神経のすり減りは尋常ではない。そんな過酷で、命と密接に関わっていく重要な仕事だというのに、給料が薄給だなんてやっていられない。


 かと言ってやりたいこともないため、しばらくはボケっと過ごすつもりだったのだ。だから別に、いいけど。


 まぁ、()()()で刺されてとか、そんな死にかた微塵も気に入らないがな!!!


 頭の中はやけにクリアだったが、それ以上意識を保つことは叶わず、そこでぶつりと全てが消えた。




* * * * * *




(あれ、私どうなったんだっけ、)


 意識があるともないとも言えない、意識の曖昧な浮上だった。

 真っ暗闇だと思ったが、目が開いているという感覚はないので、もしかしたら分かっていないだけでめちゃくちゃ眩しい場所にいる可能性もある。しかし、眼を開いている感覚はないものの、なぜか見えているという認識はあるので訳が分からなかった。


(私は、……そうだ。刺されたんだった)


 しかも人違いで。


 ふ、と笑いが漏れた。もはや笑うしかないだろう。なんなのだ、人違いで刺されて死ぬなんて。

 とんでもない死因である。誰がどう考えても可哀想な死にかただ。本日の不憫枠大賞受賞はこちらです。


 徳を積んでいたかと言われれば、頷けるようなことは思い当たらないが、このような人生の不運を全部まとめて持ってきました! というような出来事に見舞われるほどのことはしていないはずだ。


 確固たる意志でもって確実に自分を狙って刺されるのも、それはそれで嫌だが、人違いで刺されるのはもっと収まりが悪い。


 ところどころ拾った呪詛のような呟きから考えると、恐らく痴情の縺れからの犯行のようだったが、刺すくらいに恨んでいるのならば、刺す対象の人間くらいちゃんと判断してやって欲しいものだ。


 痴情の縺れでのトラブルが世界で一番くだらないが、そういうのが世界で一番ドロドロしているのも確かだ。

 しかも、今回に至っては全く関係のない人間を刺殺するという愚行を犯しているので始末に負えない。

 

 それはともかくとして。このよく分からない空間に(暫定)佇んでおり、意識や認知が摩訶不思議になっていることから鑑みるに、恐らく死んだのだろう。


 真っ暗闇にしか思えない空間は、一体どうなっているのか。考えれば考えるほど頭がこんがらがりそうである。


(ここ、天国ではないよね。明らかに致命傷だったし、死んでいるのは確実だろうけど。人が死んだら天国に行くっていうのは、やっぱり嘘だったのかなぁ)


 理不尽に命を奪われたにも関わらず、頭の中は混乱もなく冷静だ。

 死因には不満が大量にあったものの、死んだことについては特にこれといった感情は湧いていなかった。


 両親はもうすでに他界しているし、祖父母もとうに鬼籍に入っている。狭く深く仲良くしていた友人たちは悲しむだろうが、自分が死んだところで困る人間はいないことが一番大きいかもしれない。


 死因のお粗末さは留まるところを知らないが、もう死んでしまったものは仕方がない。


(……ん?)


 つらつらと中身のないことを流れるままに考えていると、暗黒の世界に小さな光が現れた。


 気づいたからなのか、そういう仕組みなのかは分からないが、その小さな光は急速に大きく広がっていく。見る見るうちに眩い空間へと変わり、その眩しさに思わず目を眇める。


 とはいえ、眼を開いている感覚はないのに見えているという不思議な状況なため、目を眇めるという表現が合っているのかは定かではないが。


(これは……転生が始まるってこと? 神様との会話とかないんだ?!)


 女はオタクであった。


 現代では推し活は生活の中でのスタンダードである。

 例に漏れず、女もアニメや小説を嗜む人間だった。女は読書好きでもあったため、日々、死ぬほど忙しい仕事の合間を縫って漫画や小説を読み漁っていた。異世界転生ものだって、トリップ系だって、チート無双系だってたくさん読んでいた。


 ただ、ハーレム系だけはあまり食指が動かなかったのだが。女は恋愛は一途なものが好きだったので。


(よくある、神との会話→転生って流れはないのか……そうか…………)


 残念ではあったが、テンプレでいくと、人違いで刺されたのは手違いだと言われるので、なくてよかったかもしれない。そんなことを言われたら遣る瀬無さすぎる。


(今生は忙しくて好きなことがあんまりできなかった。だから、来世は好きなこと沢山して、もっと人生を満喫してやる!!)


 そう強く決心した瞬間、女は膨張しきった光に飲まれて消えた。




 ────そして、とある世界の何の変哲のない村に、一人の女の子が生まれる。


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