表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/23

一夜の過ちは300年経っても忘れない



その頃。オステッド王国の空には暗雲が立ち込めていた。


ある不穏な気配を嗅ぎ取った、腐海の森にはびこる魔獣、魔物、モンスターたち。闇の奈落(ダークピット)からは次々と新たなモンスターが生まれていた。


 

「私の魔力に脅かされたか、東のモンスターたちよ。」


 

前も後ろも、長く真っ白な髪を滴らせ、外套を羽織る女が腐海の森の中心部にいた。


長い髪がそのまま顔面を塞いでいる状態なので、顔は見えない。


だが女が手をかざした瞬間、羽織っていた外套がふわりと翻る。


その中身は、貧乳、貧相な尻をほぼ丸出しにした骨ばった身体。布面積の少ないビキニアーマーをまとい、ニーハイブーツを履く異様な格好の女。


彼女が呪文を唱えると、周りから今にも襲いかかってきそうなモンスターらを一網打尽にした。


 

「ゲッぇヘヘヘヘヘヘヘエぇぇぇ〜〜〜〜〜〜!!!! このドルガンリー、今すぐにあなた様の元へ参りますっ⤴️!!」

  


長い舌で舌なめずりをする女、ドルガンリーが、自身の身体を抱きしめゾクゾクと全身を震わせる。


彼女の骨が浮き出る左胸には、逆十字の紋章が記されていた。 




一方、魔王イース、いや勇者フォルトナと奴隷契約を交わしてしまったマリンゼは――。血液不足により、その場で意識を失っていた。


しかも首の周りには、イースに持ち上げられた時の手形がくっきりと残されている。

 


「……な、なんだ。どうしたんだマリンゼ?!!」


   

自分に寄りかかるように倒れたマリンゼを、ゆっくりと逞しい腕で抱きとめるフォルトナ。


奴隷契約が成立した証拠に、フォルトナの喉元には3本線の複十字の紋章が記されていた。


バモルヒークとお揃いのため、バモルヒークは苦々しい顔でフォルトナの喉元を一瞥した。 


しかし主であるマリンゼは青白い顔をし、肌も冷たい。フォルトナは、まるで壊れ物を扱うようにマリンゼの頬を撫で、息をしているかどうか、心臓部あたりに耳を当て確かめた。



「まずいね。疲労困憊の上に血液不足、(あとフォルトナを奴隷にしてしまった精神的ショック、)しかも魔王の力で脈を止められかけたとなれば昏睡状態に陥るのも無理はない。」


 

オーウェンがマリンゼの元にしゃがみ込み、冷静に彼女の今の身体状況を告げる。


キリルが即効性のある回復薬をズボンのポケットから取り出す。それをオーウェンに渡すと、オーウェンがマリンゼの口に薬を流し込もうとした。


  

「駄目だね。もう飲み込む力すら残っていないらしい。」


「そんな……。俺のせいで……。」


  

フォルトナが口惜しい表情で弱音を吐く。


自分のしでかした事態が、今になって現実となり襲い来る。魔王イースの怨念に身体を乗っ取られている時でも、多少の意識は残っていた。ただフォルトナがどれだけ心の中で叫ぼうとも、イースの力を抑え込むことは出来ないのだが。


それでもこの7年、魔王イースの怨念に蝕まれてきたという自覚はあったのだ。それを誰にも報告しなかった自分の失態であると、今更ながらに罪悪感に打ちひしがれていた。


マリンゼを、まるで愛しいものであるかのように見つめるフォルトナ。何度も頬から頭を撫で、小さな肩を抱きしめる。 


普段見ることのないフォルトナの弱った姿。そうまでしてマリンゼを想っていたのかと、ヒビアンが口を開いた。


 

「あんた、そうまでして責任感じてるならあんたが口移しで飲ませてやんなさいよ。」


「…………は? く、口、移し、だと?」


「なに呆けたこと言ってんのよ。あんたがマリンゼの首絞めてあんたが大量に血を飲んだんでしょ?」


「……いや、そ、そうなのだが……」



マリンゼの肢体を、上から下まで視線を這わせてみる。なんて小さな身体なのだろう。腕や脚は自分の半分ほどしかないし、顔だってあまりの小ささに、口移しなどすれば顔ごとパクっといってしまうのではないだろうか?


フォルトナの顔に滝汗が流れ出す。あちこちの筋肉がプルプルと震える。マリンゼを支える腕がプルプルと動くあまり、マリンゼの顔もプルプルと動いていた。


小さな唇をふにふにと指で触ってみる。あまりの柔らかさにフォルトナの顔面が真っ赤に染まる。


頭に血が上り、今にも爆発しそうな状況だった。


しかし、


         

「おい、その回復薬を寄越せ」


 

バモルヒークが、オーウェンの手から回復薬を奪い取る。


   

「バモルヒーク、高価な代物なのだから大切に扱え、」

「そんなこと言ってる場合か! 貴様にはこの異様な気配が分からんのか!」 

 


オーウェンの言葉に叱責するバモルヒークが、小瓶から回復薬を一気に口に含む。


そして、フォルトナの腕に抱かれたままのマリンゼに口移しをした。


今にも口の端から垂れてきそうな勢いに、バモルヒークがマリンゼの後頭部をつかみ、角度を変える。


まさかの大役を横取りされ、フォルトナの表情がみるみる曇っていく。


オーウェン、キリル、ヒビアンは、あまりの長い口移しに、魔族のディープはこんなにも妖艶なのかと目を見張る。この先の人生で参考にしようと思った。


 

「おいお前……!! な、ななな、なにをするッっ!」



常に冷静沈着のはずのフォルトナの声が裏返る。絶望と羞恥が入り混じり、どんな感情でバモルヒークに悪態を吐くべきなのかわからないのだ。



しかしいつもふざけているバモルヒークも、この時ばかりは違った。


魔王イースほど強大とはいえないが、異様すぎるネチネチとした魔力の気配に頭の中で警報が鳴っていたのだ。   

 

魔王イースもヤバいが、恐らくバモルヒークにとっては新たな刺客の方が数倍厄介だ。


その気配の正体を、バモルヒークはなんとなく察知していた。



バモルヒークの喉元が動くと同時に、マリンゼの喉元もコクコクと音を鳴らす。


(今は一刻も早くマリンゼ様をこの場から離れさせなければ!)


もっと早く気付くべきだった。


魔王軍がマリンゼを狙っている目的の一つに、自分が関わっていることも。南の魔王軍という存在に、300年も前の記憶を手繰り寄せるべきだった。


ようやく唇を離したバモルヒークが、すぐにオーウェンに指示を出す。



「今すぐにここからマリンゼ様を安全な場所に転移させろ!!」



その言葉に、ようやくオーウェンが周りの気配を察知する。



「……おい、なんだ、この異様な気配は。」



キリル、ヒビアンも同じタイミングで気付いたのか、それぞれ武器を構えた。


しかし眼鏡をかけられ、魔力を封印されているフォルトナは今だ気付かず。とりあえずオーウェンたちの空気を察し、立ち上がる。


 

「恐らく狙いは俺とマリンゼ様だ。早くマリンゼ様を空間魔法でもいいから――――」     

 

  

バモルヒークが言い終わるが如く、周りの木々がざわざわと揺れ始める。


すると、バルトクライの4名とマリンゼの身体に、真っ白な髪のようなものが絡みついた。


 

「なッっっ」


 

彼らの足元がすくわれ、太い幹に貼り付けられるように髪が巻き付いていく。


 

「なんだこれは!!」


  

髪を切ろうにも、すでに武器はすべて髪の毛に取り上げられてしまった。


マリンゼの剣も、騎士の称号である短剣も逃さず絡み取られている。

   

  

すると森の奥から、ひしゃげた笑い声が響いた。



「ひゃァーッッヒャッヒャッヒャッヒャーーー!!!! ようやく見つけましたわぁバモルヒーク!!!」



現れた姿は、真っ白な長い髪で顔を隠した女だった。


ビキニアーマーとニーハイブーツを履いた、貧相な身体つきの魔族、ドルガンリーだ。



「何者だ?! この私にこのような拘束が通用するとでも思ったか!」



彼女の姿を見たオーウェンが、魅了の力が通用するかと彼女をじっと見つめる。


しかし東の魔王軍との戦闘でもそうだったが、やはり魔族には通用しないらしい。



「魔族の私にあなたの力の効果はないわぁ。っと、さっきから私の大切な髪を燃やそうとしているようだけど、この髪に魔力は通じないわよ?」


           

ヒビアンが指から火の魔法を繰り出そうとしていたが、ドルガンリーの髪の毛に魔力を封印されているらしい。


キリルも同様に、水魔法を出そうとしていたが無効化されてしまった。


フォルトナはどうすることも出来ず、ただ身体を揺さぶるのみ。マリンゼはいまだ失神状態から目が覚めず、幹に巻かれたままぐったりとしていた。 

 

バモルヒークだけが彼女の髪の巻き添えになっていない。 

  


「私は南の魔王軍の一味、ドルガンリー。」


「み、南の魔王軍?! ホークハイド帝国に侵攻中じゃなかったの?!!」


  

ヒビアンが頬に張り付いた自身の金色の髪を首を振り払う。


するとドルガンリーが、あっという間に間合いを詰めた。


     

「あらあなたの髪、なんて素敵なの?」



ヒビアンがギョッと目を見開くも、一瞬にして髪を掴み上げられた。



「ッ、」


「あらあなた男ぉ? なあんだ。私、女の髪にしか興味ないのよねえ。男は後から私のペットにしてあげるわぁ。」



ヒビアンの引いた髪を、投げつけるように離したドルガンリー。もう一人、髪の長いオーウェンを見るも、彼も男だと悟ったらしい。


そしてマリンゼに目を向けた。


しかしすでにバモルヒークがドルガンリーの真後ろに迫っていた。



「久々だなドルガンリー。」


 

ドルガンリーが、首を180度に回しバモルヒークを見る。“見る”といっても顔面は髪で覆われているが。


 

「あっらぁバモルヒークお元気だったぁ?」


 

バモルヒークの首元には、以前のような逆十字の紋章はない。代わりに複十字の紋章が記されている。


それを見たドルガンリーが、身体ごとバモルヒークの前に向きを変えた。

 


「魔族にあるまじき行為だこと。私たちの逆十字の紋章は魔王様への忠誠の証なのに。その薄汚れた紋章は一体誰への忠誠を誓うものなのかしらねぇ。」


 

ドルガンリーが顔面を覆う髪を片手で掻き分ければ、青い光線のような瞳と、大きく吊り上がる口角が垣間見えた。


青い瞳。南の魔王軍である証拠だ。

 


「誰であろうと南の魔王軍幹部には関係ない。」


「あらぁ。そんなこと言っちゃってぇ。私たちの関係じゃない〜。」


「どんな関係だ? 俺は一刻も早く殺したい相手だが?」


「フフフフ。照れちゃってぇ。私たち立派なパートナーのはずでしょう?」


「もう300年も前の話だろう。」


「何年経っても私たちの関係は一生変わらないものよ。ダーリン♡♡♡」



ドルガンリーの髪がバモルヒーク目掛け、バルトクライから取り上げた武器で攻撃する。


二手に別れた髪がヒビアンの双剣を駆使し、髪により真上に放たれたキリルの矢がバモルヒークに頭上に降り注ぐ。


何事もなく避けきるバモルヒークだが、ドルガンリーの髪が、マリンゼの短剣でマリンゼの首を突き刺そうとしていることに気が付いた。



闇の爆風(ダークブラスト)!」



髪がバモルヒークの魔法により飛ばされるも、髪が切断されることはない。


バモルヒークは唇を噛み締めた。


やはり、ドルガンリーはマリンゼ様を狙っている。すでにマリンゼ様が自分の主であることに気付いているのだ。

 

バルトクライはどうなろうと構わないが、マリンゼ様をお守りしながら戦うのは厳しい状況。


バモルヒークは先刻の魔王イースとの戦いで体力を消耗していた。背中に重い膝蹴りを喰らわされたのが効いているらしい。


背骨に損傷があるのか、自分の速度が数段落ちていることを自覚していた。



「ねえバモルヒークぅ、そんなにこの娘が大事ぃ??」



ドルガンリーが自身の髪で身体をぐるぐる巻きにし、逆さまの状態でバモルヒークに問う。  

  

   

「少なくともお前よりは大事かな。」


 

髪がマリンゼの頬に短剣の刃を当てる。

 

再びバモルヒークが攻撃魔法を繰り出そうとするも、ドルガンリーの首からえづくような声が聞こえた。


 

「グふォッッ」   

        

「ふざけんじゃないわよっこの髪長族!!」


「エぐッっ」



回復薬により目を覚ましていたマリンゼが、逆さまになったドルガンリーの首を両脚で絞めていたのだ。


マリンゼの身体は髪に拘束されている状態だが、脚だけたまたま木の幹の出っ張りを挟む形になり、すり抜けていたのだ。



「ま、マリンゼさまぁっ♡♡♡」


(逞しい主のお御足が、目の前で南の魔族の首を絞めている。なんと勇ましい姿か! 俺もあのお御足に絞められたい!!♡♡♡♡♡) 


途端にバモルヒークがハアハア言い出した。


そしてマリンゼは、いつもの調子でバモルヒークを睨みつける。


 

「あんたたち一体どういう関係なの?!! 魔族の痴話喧嘩だけで私たちを巻き添えにしたとか言ったらただじゃおかないわよ?!!」



逆さまのドルガンリーが、自身を巻いていた髪を、グッと勢いをつけて引き上げる。   

       

マリンゼの脚の拘束から抜け出してしまった。



「そうよただの痴話喧嘩よ?! バモルヒークと私は300年前に(つが)った夫婦なんだからぁっ♡♡♡♡♡ んっン"ン"、んっン"ン"んっん"~~〜〜〜〜〜♡♡♡♡」



ゼエハア舌を出し息を切らすドルガンリーが、若干嗚咽しながら自分の身体を腕で抱きしめ身震いする。 

 

髪に拘束されている一堂の口が、あんぐりと開いた。


こら。お前、既婚者だったのかと。バモルヒークに不穏な視線が集中する。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ