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つまり勇者の股間が折れたらしい




『ほう。貴様がバモルヒークの主か。』

  

(し、しまった……!)



フォルトナの皮を被る東の魔王、イースがマリンゼの首に手をかける。


細い首があっという間に絞められ、天高く持ち上げられた―――

  

 

『なんと細い首か――――ッッ!!!!』



その時だった。


魔王イースの赤い目がここぞとばかりに見開かれる。  


彼はなんと、眼鏡をかけていた。


分厚いレンズ一枚を隔てている赤い瞳の瞳孔が光る。マリンゼにより、バモルヒークがかけていた眼鏡をかけられたのだ。



『――――なッッッ"なんだこれ、はっ、』



マリンゼの首に回された手が一気に離される。マリンゼは地面に尻もちをついてしまった。


しかしマリンゼよりもイースの方が何万倍も苦しそうだ。 



『ぐぅグッッぁァァ……、ま、魔力が……ふ、封印されるだと……?!!!!』



イースのしゃがれ声が、みるみるか細いものへと変わる。枯れ葉だらけの地面に膝をつき、苦しそうにうずくまり始めた。


小さなお尻の痛みに耐えるマリンゼに、バモルヒークが駆け寄る。



「大丈夫ですかマリンゼさまっ!! お尻が痛いのですか?! お尻をさすりましょうか?!! それともアレですか! 舐めたらよろしいでしょうか?!!」



頼む。今はそういった空気じゃないのを察してほしい。周りをよく観察して素早く状況判断し、空気感を肌で感じるべきだ。   


決死の形相となるマリンゼが、すぐにうずくまるイースから離れようと、慌ただしくお尻だけで後退する。バルトクライも今だ殺気を絶やさず、それぞれ武器に手をかけている。


マリンゼもバルトクライも、いまいち状況がつかめていない様子だ。



『くッッっ、こ、これほどまでの力がァァァッっ――――お、おのれぇ士師よ……』


 

イースが、自身にかけられた眼鏡を外そうと躍起になっている。なかなか外せないことが分かると、ついには自らの顔を殴り始めた。


しかしその力加減を知らないせいか、イースことフォルトナの鼻は歪み、鼻血が流れ出す。無論眼鏡は一向に壊れる気配はない。


どうやらマリンゼがイースの魔力を封印したらしい。例にならい、眼鏡という生活感溢れる魔道具たった一つで。



「……ま、マリンゼさま。まさかと思いますが、アレと奴隷契約するおつもりではないですよね??」


「へ?」


「いや、だって今マリンゼさま、イース……いえ、イースの怨念を持つフォルトナの魔力ごと封印したんですから。」


「わ、わたし……魔王イースの魔力を、封印しちゃったの……?」       

  

 

眼鏡の着脱だけで??

 

マリンゼが自分の両手を広げ、掌を見てみる。小さな掌をにぎにぎとしてみる。生命線がしっかり長い。


うん、魔力とかそういった熱いものは何も感じない。



『き、きさま……貴様が我の力を封印したのかッ?!』



よろめいた足で立ち上がったイースが、マリンゼに向けて鬼の形相で不穏なオーラを放つ。


(ひぃいいっっ)


やはり尻もちをついたまま後退すれば、慌てすぎるあまり足をバタつかせてしまい、向かってきたイースの股間を蹴り上げてしまった。


ゴキンッ"っ

  

ナーイスヒぃィィっット


 

『グフゥッっっ……こ、股間が……お……折れた……』  


(股間って、折れるもんなの?)

  

 

どこかで聞いたセリフを吐いた、東の魔王で有名なイース。の怨念を込めたフォルトナの身体が、再び地面にうずくまる。


股間を抑え、プルプルと極限まで縮こまらせた身体を震わせている。


さっきの、一撃目のバモルヒークの攻撃では、うんともすんとも言わなかった股間攻撃が有効となった。


マリンゼは思った。魔族とはいえフォルトナの股間、なんで硬いの?と。


蹴り上げてしまった異物の感触に、今さらながらに嫌悪感を感じ、眉間にシワを寄せた。



「マリンゼ。どうやら君は本当にイースの魔力を封印してしまったらしいね。」


「う、うそ……。眼鏡かけただけなのに?!!」


「今バモルヒークが言っていた『奴隷契約』を今すぐ締結させることをお勧める。」


「は? なぬ、ええっ??!」



オーウェンが、視線と顎で、今すぐに契約すべきだとマリンゼに指図する。  

   

この魔道士は何を言っているのだろう。


(え? どういうこと? つまり、私と魔王イースが契約して、魔王イースを私の奴隷にするってこと?!)


バモルヒークという変態だけでも手一杯だというのに、さらに魔王を奴隷にするなどとんでもない話だ。問題児ばかりが100人集まる問題児学級に等しい。


マリンゼが『ありえない』と顔を横に振る。顔面蒼白で躊躇する。


しかし、ヒビアン、キリルもオーウェンと全く同じ意見のようだ。


     

「マリンゼ。背に腹はかえられないわ。さっさと奴隷契約しておいた方が身のためよ!」


「そうだよマリンゼ! さっきのイースの脅威を見ただろ? この先、またいつフォルトナがイースの怨念で覚醒するかわからないんだから!」 



それは、確かに。。もし王都や王宮内で覚醒されては一国の危機となってしまうだろう。


強大な魔力を持つバモルヒークでさえ相当手こずる相手なのだ。


事前に歯止めを効かせておくためにも、ここは奴隷契約しておくのが正しいのかもしれない。が、なぜだろう? イースは変態ではないだろうが、自分の靴を舐めている姿が思い浮かんでしまうのは気のせいか。


そしてバルトクライとは裏腹に、バモルヒークは全力で止めていた。


マリンゼの背後から腕ごと抱きしめて拘束し、絶対に奴隷契約をさせまいとしている。



「いいですかマリンゼ様。よくお考え下さい。アレにマリンゼ様の血を飲ませるのですよ? 俺の膨大な魔力の渦が今にも嵐となり、無数の“かまいたち”を放ち、地盤沈下を起こすほどの嫉妬に狂いますよ?」  

   

「……で、でも、このまま魔王を野放しになんてしておけないし、」


「マリンゼ様。マジでこのままマリンゼ様を連れ去ります。鎖で繋ぎ俺だけのマリンゼ様にします。」


「っていうか、イースを味方につければ北と南の魔王軍にも対抗できるんじゃない?!」


 

バモルヒークの不穏な言葉を無視し、マリンゼが新たな道を切り開く。


(そうだ! 奴隷契約してイースを思いのまま操れば、少なくとも他の魔王軍と対等に殺り合えるはず!)

 

いっそのこと魔王イースを利用すればいいのだ。


バモルヒークとイースの2代巨頭を盾に、オステッド王国の平和は守られていくに違いない。


マリンゼの心は決まった。と同時に、勝手に確信するマリンゼの首に、バモルヒークが手をかけた。


そして、マリンゼの耳を舐めるかのように小声で囁く。


 

「マリンゼさま、俺の愛しいマリンゼ様。もしあの汚物をあなた様の奴隷にするというのなら、俺は今ここであなたの息の根を止めなければなりません。」


「あ"? ふ、ふざけんじゃないわよ! ななななにいって、」  

 

「俺は今にも嫉妬に狂い、世界を滅ぼしてしまうやもしれません。あなた様の血がどれだけ高潔で美酒芳しいものか。そして血をすすればすするほど、マリンゼ様の肉体を骨ごと蹂躙したいと思うのが魔族というものなのです。そんな気持ちにさせてしまうマリンゼ様を、俺は恨みます。」



バモルヒークの色気のある吐息と声で、マリンゼの耳が赤く染まる。こんなところで美顔力と色気を出してくるのは狡い。


バモルヒークの指が、そっと首の中心から胸の間へと降りていく。骨盤あたりに指が突きつけられる。


骨を一つ一つ探るような指の動き。魔族が人間の官能を誘うとは思えないが、マリンゼはコクリと喉を鳴らした。


(バモルヒークの言いたいことは理解した。つまり――――) 

     

マリンゼは覚悟を決めた。


騎士団の証である短剣を取り出し、鞘からあっという間に抜いて、自分の腕に一箇所、そして首筋に一箇所切り傷を入れた。


そして両手を広げ、バモルヒークを誘う。



「おいで、バモルヒーク。つまり、あんたも私の血を飲みたいってことなんでしょ?」


いつになく優しい声色の小さな主の姿。女神のような母性と美しさに、バモルヒークの瞳が♡になる。


犬のように四つん這いで地面を駆け回り、マリンゼの腕の中へと勢いよく飛び込んだ。



「ワンワン♡♡♡♡」    

   

 

へっへっと長い舌を出し、興奮気味に呼吸を荒げるバモルヒーク。


マリンゼが「よし。」と合図を出せば、首筋を喜んで舐め始めた。



周りで見ていたオーウェン、ヒビアン、キリルは思った。え?そういうことなの?と。    


てっきりバモルヒークは、もう一人奴隷が増えることを嫌がっているものだとばかり思っていたのだが、どうやらただ自分もマリンゼの血が飲みたかっただけらしい。いや本当に??



「フぅーーっフゥーーッッハアハアハアハア♡♡♡ んま、しゅき、これしゅきハアハア♡♡♡♡ フォーーーーー」


  

気持ち悪いくらいに吸い付くバモルヒークのことなどお構いなしに、マリンゼが左腕をうずくまるイースの方へと出した。


イースが、先ほどからじっとこちらを見つめているのだ。


それがどういうことなのか、バモルヒークの様子から理解できる。



「……あなたも、私の血が欲しいんでしょ? バモルヒークに言わせれば、私の血は高潔で美酒のように芳しいらしいから。」


『っっ…………』


「ほら。」   

  


マリンゼが手を差し出す。

  

イースがよだれを垂らし、マリンゼの腕から滴り落ちる血液を血眼で見ている。


しかし飲めば“マリンゼの奴隷になってしまう”という理性が働いているのか、なかなかこっちに来ようとはしない。


正直マリンゼに色気は皆無だ。騎士として、そして変態魔族の主として散々女を捨ててきた。


魔王の誘い方が分からない。自分を血を飲ませる誘い方が……。

 

 

「マリンゼ、少し耳を拝借するよ。」 


     

そうだ、誘惑といえばこの男、オーウェン・フェルトフーゼンだ。数多の女性を口説いてきた実績は折り紙付き。かといってそう簡単に魔王を誘えるとは思えないが。


後ろからこっそり、オーウェンが耳打ちをすると、マリンゼが苦渋の顔でため息を吐いた。


ひたすら首に吸い付くバモルヒークは無視し、マリンゼは致し方なく再びイースに視線を移す。



『な、なにを言われようが我は貴様の血など、飲まんぞ……!』 

  


おあずけを喰らう獣のように睨みを効かせるイース。


マリンゼが上目遣いで目をキラキラさせ、可愛いらしい声で言った。


   

「マリンゼのお・ね・が・い♡ 私の血、飲んで?」


『グフゥーーーーッッッ』  



イースが吐血した。

 

そして気付けば、マリンゼの目の前まで這ってきていた。もはや我慢の限界だった。


瞳孔は見開いたまま、ジュルリとマリンゼの腕をひと舐めする。 


マリンゼの、アイドル顔負けキューティー作戦が魔王イースとフォルトナに効いたのだった。

 

  

『我が主、マリンゼ・ドヌング。魔王イースの怨念と、フォルトナ・ユリエフを奴隷として配下に置くことを誓うか。』


「…………」

 

『おい、「誓うか」と聞いている。』


「あ、ああ! ハイハイ! 誓う誓う!」



いきなりフォルトナの声で契約の誓いを立てられ、マリンゼは面食らってしまった。


彼はあくまでフォルトナなのだ。魔王イースの怨念が込められたフォルトナの肉体。 


(……もしかして私、勇者フォルトナを奴隷にしちゃった!??)



レロレロレロレロレロレロレロレロ


いや舐め方。お前もか。

 

マリンゼは血液不足により失神した。






 

 

 

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