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東の魔王イースの執着と怨念

昨日、「エブリスタ小説大賞2024 集英社少女・女性向けコミックレーベル合同マンガ原作賞」で、【【現代】女性・少女マンガ原作部門】ココハナ賞を受賞しました。TLなのでここの作品とはジャンル違いですが、もし読んで下さった方がいればありがとうございました!



フォルトナの目の色が赤く光る。しかしすぐに額を抑え始めた。


 

「ぐッ……あ、あたまがッ……」

「どうしたのフォルトナ?!」

「今俺に近寄るなッ!!」


 

ヒビアンが駆け寄ろうとするも、フォルトナの声に阻まれ、その場に立ち尽くす。



「ちょっと、どういうことなの?! フォルトナに何が起こってるの?!」


  

困惑するヒビアンだが、突然なにかに気付いたかのように、バモルヒークに視線を這わせた。



「……まさか、あんたが何かやったの?」  

 

「『何か』って、俺がこんなボンクラ勇者を相手にするはずなかろう。」

 

「じゃあ何を知ってるの?! さっきフォルトナはあんたの名前を言ったのよ?! あんたが関わってるに決まってるじゃない!!」



マリンゼが股に挟んでいたバモルヒークの顔を、ずるりと引き出す。


マリンゼも同じ気持ちだった。フォルトナの不穏な様子は、確実にバモルヒークが関わっているはずだ。そうでなければバモルヒーク同様、フォルトナの瞳が赤く光るはずがないだろう。


 

「バモルヒーク、どういうことなの?! 説明して。」



ちょこん、とマリンゼの隣に座らされたバモルヒーク。未だマリンゼの股の温かさに蕩けた顔をしている。


マリンゼにバシッと思い切りビンタを喰らう。バモルヒークにとって全く身に覚えのない案件とはいえ、マリンゼに促されれば無理矢理にでもひねり出すしかない。



「正直俺にもよくわかりません。ですが、イース様の気配がするのは気の所為でしょうか?」


    

バモルヒークがヒビアン、オーウェン、キリルに視線をやる。


 

「というか、イース様と渡り合ったお前たちがこの気配を感じ取れないとは。勇者パーティーが聞いて呆れる。」


「バモルヒーク、いちいち挑発しないで。」 


「あい。これはあくまで俺の推測ですが、イース様はフォルトナの身体にご自分の怨念を込められたのでは? 例えば、イース様を倒す直前、フォルトナはイース様の一撃を喰らったとか。」



誰かの喉音が鳴る。顔中、汗が滝のように流れ必死に何かに耐えるフォルトナが、椅子から床に落ちて這いずり、部屋の出口へと這って出て行こうとする。



「フォルトナ?!!」



キリルとオーウェンも立ち上がり、ヒビアンフォルトナの背中をさすろうとする。しかし、やはりフォルトナに拒まれた。



「触るな!! 俺をこのまま外に出せ!!」


「なに言ってんのよ! あんた熱だってあるじゃない!!」


「やめろ! 俺は……俺は、最後の一撃で魔王イースを切り裂いた時、一瞬だけ背中に触れられた。もしかしたら怨念が込められたのかもしれん」


「怨念?」


「魔王に、最期に言われた……。『貴様の心臓が刻一刻と蝕まれることを忘れるな』と。」  



それを聞いたオーウェンが、フォルトナの胸ぐらをつかんで無理に立たせた。


 

「おい! なぜそれを言わなかった?! 私は今初めて聞いたぞ!」


「っ……す、すまない」


「『すまない』で済まされるものか! 相手は魔王なんだぞ?! 7年も前のことをなぜ今まで黙っていた?!」


 

オーウェンがフォルトナに凄まじい形相で詰め寄る。今にも殴りそうなほどの威圧感に、ヒビアンが割って入った。


 

「ちょっ、今は喧嘩してる場合じゃないでしょ?! まだ魔王の怨念がフォルトナの中に入ってるとは決まってないんだから!」



しかし胸ぐらを掴まれていたはずのフォルトナが、逆転したかのようにオーウェンの胸ぐらを掴み持ち上げた。オーウェンの足が宙に浮く。


オーウェンの方が少し背は低いとはいえ、フォルトナとの身長差は数センチ。それだというのにオーウェンの胸ぐらは天高く持ち上げられていく。  



『貴様に用はない。失せろ。』


     

オーウェンが力任せに壁に打ち付けられかけた。しかしオーウェンはすぐに風魔法を使い、ふわりと床に降りる。


フォルトナがその着地を狙ったかのように、オーウェンに向かって爆弾のような攻撃魔法を、かざした右手から撃ち放った。


それは無数の爆弾で、火の玉のようなものがいくつもフォルトナの手から放たれていく。


このギルド集会所の最下部を崩落させるつもりなのか。 

  

フォルトナの攻撃が一段落し、爆弾の煙が次第に晴れていく。


するとそこには、眼鏡のないバモルヒークがシールドを張っていた。マリンゼやオーウェンらの前に立ちふさがり、大きなシールドを両手で作っているのだ。



「あ、ありがとう、バモルヒーク……。」



礼を言うキリルだが、バモルヒークの膝はカクカクと震えている。マリンゼにより咄嗟に魔力を解放されたバモルヒーだったが、フォルトナの攻撃からマリンゼらを守るのはギリギリの状態だった。

  

その状態を見ていたオーウェンは、すでに転移魔法の詠唱を唱えていた。



「世界の理を覆しフェルトフーゼンの名のもとに。此の空間より我らの空洞化を受け入れよ ス・デプレアセ ブジェ パルティール!!」

  

 

フォルトナ以外の5名が、オーウェンの転移魔法により転移する。


マリンゼたちが行き着いた先は、腐海の森の中だった。東の魔法イースが生成したとされる闇の奈落(ダークピット)がある森だ。


まさに森の中に転移したのだ。


 

「ちょっとオーウェン!! なんてところに転移してくれてるのよ!」


「ここは褒めてほしいところだねヒビアン。フォルトナはもしかすると、魔王イースの怨念に乗っ取られた状態にあるのだよ? イースが暴れられる場所といったらここしかないだろう。」



ヒビアンが言葉に詰まる。


確かに。フォルトナがバモルヒークを指名してきた時点で、必要以上の戦闘が繰り広げられるのは目に見えている。住民のいない場所といえばここしかない。   

 


「え? 『戦闘』って、転移魔法で逃げたんじゃないんですか?」



間一髪、バモルヒークの眼鏡を外せたマリンゼが、息を切らしオーウェンを見る。



「相手は魔王なんだ。そう簡単に私の転移魔法で逃げられるわけないだろう。」



てっきりフォルトナから逃げたものばかりだと思っていた。でもバモルヒークは不敵な笑みを浮かべ、すでに身体の重心を地面に食い込ませるように戦闘態勢に入っている。



「ば、バモルヒーク……」



あきらかに普段のバモルヒークとは違う。ダンジョンに現れたモンスターを、ものの数秒で倒してしまったあの時の彼はいない。


フォルトナに対し、いや、魔王イースに対し強烈な威圧感を放っている。


そして――――地響きをさらに掻き分けるような音がマリンゼらの耳をつんざく。


ヂュドーーーーーンッッッッと一瞬のうちにしてミサイルのようなものが降ってきた。いや、あまりの豪速の速さに撃ち込まれたといった方が適切かもしれない。


一斉に鳥や魔獣、魔物たちの唸り声が森中に響き渡る。枯れ葉や枯れ木の埃が煙のように舞い、撃ち込まれた本人がゆっくりと膝を立てて立ち上がった。



『バモルーヒークよ。貴様の眼鏡を外したのは誰だ? 我以外貴様の封印を解くことは不可能なはず。』 

  

      

重圧感のあるしゃがれ声でそう告げたフォルトナ。しかしフォルトナの声じゃない。


ここまでどうやって来たというのか。恐らくまだ10分も経っていない。転移魔法? いや違う。彼は物理的に飛んできたのだ。そんなことがこのたった数分で可能なのかと、マリンゼが硬直する。 


  

「その声。イース様、なのですか?」


『貴様には我のことがよくわかっているはずだ。』


「随分と自意識過剰なようで。」


『いつの間にそんな口が聞けるようになったのだ。もしや貴様、以前のバモルヒークではないな?』


「はて? それは俺が以前にも増して強くなったという意味でしょうか?」


『ほざけ! 貴様の封印を解いたのは、いや、貴様の今の主は誰だ?!!』  



マリンゼの小さな肩がビクリと上がる。しかしバモルヒークはマリンゼから注意を逸らそうと、フォルトナに攻撃を仕掛けた。


 

「っっっ!!!」

      


ヒビアンらが目を見張る。気付けばバモルヒークが、フォルトナの股間に膝蹴りを喰らわせていたのだ。


初っ端から急所を狙いにいくバモルヒークもバモルヒークだが、それだけ彼にとって手強い相手だということだ。

 

 

『それが貴様の本気か? 股間蹴りとは笑わせてくれるッ』



全く股間蹴りが効いていない様子のフォルトナが、バモルヒークの頭を片手で掴み、太い木の幹に向かって投げつける。


豪速の速さで飛んでいくバモルヒークだったが、すぐに身体をバク宙するように翻し、幹に打ち付けられるのを阻止した。


しかしそれも束の間、一瞬のうちに間合いを詰めたフォルトナにより、背中中心部に重い膝蹴りを喰らう。


攻撃の威力により数本の木々が薙ぎ倒された。


何本もの木々と共に飛ばされたバモルヒークは、地面に上手く着地したつもりだったのだが……。地面に膝を付けて、呼吸を必死に促すように息を荒げていた。


まずいッ、あのバモルヒークが押されてる?!!



冷や汗を流すマリンゼが、ここは加勢すべきかと剣の鞘に手を添える。しかしオーウェンに遮られた。



「今君が出ていっても殺されるだけだ。」 



ヒビアンやキリルも、加勢しようにもフォルトナの身体を傷つけず、どう攻撃すべきかを悩んでいる。


そしてオーウェンは、すでにフォルトナ・ユリエフが手遅れだということに気付いていた。この7年間、魔王討伐時の事情をなにも言わなかったフォルトナもフォルトナだが、気付けなかった自分も自分だ。一国の最強魔道士が聞いて呆れると、眉間にシワを寄せ自分を戒めた。



「それよりもマリンゼ、今は君を別の場所に移すことが先決だ。」


「え?」


「士師である君が他の魔王軍に狙われているのは、それだけ君に膨大な力が眠っていると考えるのが正しい。それにバモルヒークも君が主だということを隠そうと頑張ってくれているんだ。」


 

マリンゼがバモルヒークを見つめる。

 

バモルヒークは一度もこっちに視線を寄越さない。それだけ私が主であるということを隠そうと必死になっているということ?



「だが転移魔法で他の場所に移しても、イースがすぐに見つけ出す。だから空間魔法で、一時的に異空間に飛んでもらうよ。」

    

「そ、そんな……。皆さんはどうするんですか?」


「私たちはこれでも勇者パーティーだ。フォルトナは責任を持って私たちが倒す。」


「た、倒すって……」



マリンゼが顔面蒼白となる。東の魔王軍を討伐したはずのバルトクライが、ここで殺し合いをするということなのか。   


 

地面から無数に生えたドス黒い手が、バモルヒークの肢体をとらえる。


バモルヒークが黒い爪の指を鳴らせば、疾風の如く吹き荒れる無数の刃がドス黒い手を切り刻んだ。

 

その疾風により、マリンゼのポケットにしまっていたバモルヒークの眼鏡が地面に落ちる。


それを見たフォルトナが、赤い瞳をゆっくりと眼鏡からマリンゼへと這わせた。


  

『ほう。貴様がバモルヒークの主か。』

  


し、しまった……!


 

慌てて眼鏡を拾ったマリンゼだったが、すでに眼前にはフォルトナが迫っていた。


    

あ、やばいッッ―――死――――


 

フォルトナの大きな手がマリンゼの首を掴んだ。


 



 

 

  

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