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奴隷の主がダブルブッキング中かもしれない



「……ありがとう、ございます。お陰様で少しは元気が出ました。」



バルトクライを前に、照れくさそうにマリンゼがつぶやく。きっとオーウェンは自分を元気づけようとしてくれたのだろう。やり方はかなり気持ち悪いのだけれど。 


ちなみにバモルヒークは頭と掌から血を流したままだ。もう少しで致死量の血が流れそうなため、貯蔵庫にあった乾燥した豚肉、干し豚を喰らった。


フォルトナがじっとマリンゼを見て言った。

 


「今日俺達がお前らを呼んだのは他でもない。俺達バルトクライと共闘しなければこの国の未来はないということだ。」


「へ……共闘、ですか……?」


「ああ。」


     

それだけ言ってそっぽを向いてしまったフォルトナ。湖で必要以上に優しかったフォルトナはいない。一体どうしてしまったというのか。


 

「ほおう。この俺の奴隷にでもなるってんならあり得る話だが、共闘だと? それではまるで対等の扱いではないか。」  



干し豚をかじるバモルヒークが、フォルトナを一瞥する。勇者フォルトナは、仮にも自分の元主を殺した張本人だ。


しかも今の主にもやたらちょっかいをかけている。共闘する利点が何ひとつ見つからない。 

 

 

「馬鹿ねえ。あんたの力は認めるけど、あんた、魔力解放しないとなんもできないでしょ?」


 

バモルヒークの悪態に応えたのはヒビアンだった。


 

「今さら対等だとか対等じゃないとかどうでもいいじゃない。協力し合わないと魔王二軍が手を組んだこの状況を打開できないって言ってるのよ。」 


「黙れ。俺が信頼するのはこの世でただ一人、マリンゼ様だけだ。お前らなど信用できるわけなかろうに。」


「じゃあマリンゼ。あんたはどうする?」


 

話を振られたマリンゼは困惑する。 

   

バモルヒークと契約して、ダイアナが死んで、今度はバルトクライと共闘? このたった数ヶ月間で事件性が高すぎやしないだろうか?


士師として、王都騎士団としても魔王軍討伐のためなら当然拒否権はないだろう。でも、とてもじゃないが今の私ではダンジョンにいた上級モンスターの足元にも及ばない。


それにまだ解決していない事案が多すぎる。沼花の粒子事件といい、ダンジョン内で頭の中に話しかけてきた声といい……


特にダイアナが言っていた言葉が一番気になっている。


『あんたは魔王軍にとって脅威だからよ』   


なぜこんなにも弱い私が『脅威』なの? 私、眼鏡を外してつける能力しか備わってない!


  

「私は……どうしてもバモルヒークの力に頼りすぎってしまっています。」


「いいんですよ? マリンゼ様は俺に御身をまるごと預ければ、それでいいんだよ?」


「魔物クラスなら簡単に討伐できるのに、上級モンスターを前にして、正直足がすくんで、すぐには動けませんでした……。」


「んなこたあない。マリンゼ様はようやった! ようやったよおみゃあさん!!」(手拍子)


「南の上級モンスター、妨害魔法まで使って騎士団の『リタイア』を防いだんですよね? でも、私にはバモルヒークの眼鏡を外すことしかできません。」 

  

「眼鏡ついでに俺の服も脱がせて下さいはあはあんッんんンンッッハアハア」



マリンゼが両拳を握りしめる。とてもじゃないが自分がバルトクライと同じレベルに立てるとは思えない。


昔、自尊心を散々貶されて悔しかったはずの私にだってわかる。魔王軍に立ち迎えるほど愚かじゃない!

  

 

その様子を見たフォルトナが、フォローしようと口を開いた。


 

「マリンゼ、」


「はあい♡」


「お前じゃない。マリンゼ、」


「はい。」

 

「いいか、俺達バルトクライは、オステッド王国を守るために組んだわけじゃない。」


「え?」   


「元々俺達に愛国心なんてものはなかった。ただ生活のため、家業のため、それなりの地位を確保するために組まれたパーティーだ。」


「そうなんすか先輩!」


「バモルヒーク、ちょっと黙ってろ。」 

  

フォルトナがバモルヒーク目掛けフォークを投げ飛ばす。すると見事、バモルヒークの額に突き刺さった。でも大丈夫。口の中にはまだ干し豚が残っているからすぐに回復できる。

 

 

合いの手のようにチャチャを入れていたバモルヒークには目もくれないマリンゼ。突然のフォローの言葉にフォルトナを見据える。


ゾッッッ。なんでこの人、急に私のこと穴が空くほど見つめてんの。何そのキラキラとした瞳。さっきはやたら冷めた態度だった癖して。せめてぱちぱち瞬きして!

 

 

「お前は何を望む? お前は何のために騎士団で訓練をこなしている?」


「えっ、ええと、私は強くなりたいです! 魔族に負けないくらい! そのために日々訓練に励んでいます!」


「それでいい。お前は強くなるために俺たちを利用すればいい。共闘の理由などそれで十分だ。」


「わ、わかりました。この話、お受けします。」


 

あまりにも真っ直ぐに見つめてくるもんだから断りにくいって!


マリンゼは洗脳にも似た感覚を覚えた。もしかして私、フォルトナ様に言いくるめられた??


 

❖ 


  

キリルがハーブティーを淹れてくれる。ギルド長であるキリルの父親が事前に用意してくれていたものだ。


キリルは背がマリンゼより少し高く、小柄な体格だ。モカ色のセンター分けの前髪を揺らし、マリンゼの隣に座った。



「ねえマリンゼ。って、いきなり気安く『マリンゼ』だなんて失礼かな?」 

 

「いえ、とんでもありませんキリル様!」


「『様』だなんていやだなあ。僕、君よりも3つ上なだけだし、呼び捨てで構わないよ。」 

     

「ええっ、でも……」


「せっかくの共闘なんだし、タメ口で話せる相手がいた方がいいでしょ?」


「じゃ、じゃあ。ありがとうございます。いえ、ありがとうキリル。」   


「うん。マリンゼとは色々話してみたかったんだ僕。」


 

キリル・ランドスティンは現在22才。つまり東の魔王軍討伐時は、まだ15才だったということになる。


齢15にして、すでにポテンシャルの高さが発揮されていたということだ。彼は“弓使い”という名分だけでなく、魔力研究の面でもプロフェッショナルといえた。


 

「僕はね、魔法が使えない庶民にも、魔法が使えるように研究を進めているんだ。」  


「私も使えませんけど。そんなこと出来るんですか?」


「例えば、魔道具を使うって方法があるよね?」


「ああ! 確かに。」



キリルが、端の欠けたコインを机に置いた。2枚とも銀色のコインだ。


      

「これ、一つはダンジョン内の47階層に、もう一つはホースハイドの闇の奈落(ダークピット)で見つかったものなんだけど。恐らくこれが、ダイアナが使った遠隔転移魔法が付与された魔道具だと思う。」


「これが? こんな小さなもので、遠隔転移……?」


「一つはサークルだけの模様、そしてもう一つには星型が描かれている。違う模様だけど、調べた結果素材が同じだということが分かったんだ。」



恐らく呪文が引き金となり、ホースハイドからダンジョンへ転移させたということなのだろう。   


そういえばここに来る時、キリルの父親も鍵の魔道具を使い、呪文を唱えていた。

 

  

「世の中にはまだまだ未知の魔法と魔道具であふれている。僕は10年以上前から魔力の研究をしているけど、別の場所から別の場所に転移させるなんて魔法は初めて見たよ。」


「そっ、か。だから、“遠隔”転移魔法。」


「そう。」


 

普通転移魔法とは、自分が今いる場所から対象物を別の場所へと移動させるものだ。


でも北の魔王軍に唆されたダイアナは、この2枚の銀のコインを使い、遠方のA地点にある対象物をB地点へ移動させたということになる。


魔法など、何万通りもの掛け合わせでいくらでも可能性を引き出せるが、北の魔王軍は機転が利く上に、人間をも利用する狡猾な魔族だということだ。  

   

マリンゼは今一度気を引き締めた。


確かに。北の魔王軍に対抗するには、魔族であるバモルヒークとバルトクライの共闘が不可欠となる。戦力だけでなく、魔族の知識が必要なのだ。今になってようやく実感することができた。

  

 

「うん。それとね、今僕が一番気になっているのがバモルヒークの眼鏡なんだけど、少し見せてもらうことは出来ないかな?」     

   

「はい。……あ、うん!」


 

つい敬語になってしまった言葉を言い直し、マリンゼが気まずそうに座り直す。


キリルが周りを見渡した。しかしバモルヒークの姿が見当たらない。



「あれ? バモルヒークは? さっきまでここにいたのに。」


「ごめんキリル……ちょっとこいつ頭おかしいから、何しでかすか分かんないし。今ここで魔力を解放するのはやめておきたいの。」

 

「え? うん。それはまあいいけど。それよりも今バモルヒークはどこに……」


 

不思議そうに見渡すキリルの視線を誘導するように、マリンゼが机の下を指差す。


キリルが身をかがめて机の下を見た。 

 

するとバモルヒークは机の下でマリンゼのブーツを舐めていた。キリルが、「ああ、食後のデザートかあ……」とよくわからない納得の仕方をした。


そしてマリンゼが両脚でバモルヒークの頭を挟み込み、そのまま自分の股ぐらにバモルヒークの顔を持ってきた。


ぬッと机の下から出てきたバモルヒークを見てキリルが少し青ざめる。バモルヒークも大概頭おかしいが、脚で頭だけつかんで引き出すマリンゼも大概頭がおかしいと思った。

      


「申し訳ないんだけど、この密室で眼鏡を外して乱闘なんかされたらたまったもんじゃない。だからかけたままの状態で見てもらえる?」


「あ、ああ!! そういうことか! うん、わかった! じゃあちょっと見せてもらうね。」



マリンゼには女らしさの欠片もないため、キリルが咳払いで気を取り直す。マリンゼの股ぐらにあるバモルヒークの顔をじっと見つめて、眼鏡に触れた。



「―――うわッっ」    


 

キリルが眼鏡に触れた瞬間、電撃のようなものが走り、キリルの指に火傷の跡を残した。


キリルもマリンゼも驚いた顔で呆気にとらえる。



「う、うそ。え? なに今の!」


「もしかして、マリンゼ以外がこの眼鏡に触れると、遮断されるってことかな?」


「でもっ、父上はそんなこと一言もいってなかった!」


「そりゃあマリンゼのお父上は士師だからじゃない? バモルヒークの眼鏡は外せなくとも、遮断されるほどではなかったんじゃないかな。」


   

そういえば。バモルヒークの投獄中、父上と魔道士がこの眼鏡を何度も外そうと試みたと言っていた。


でも触れた途端、雷のようなものに遮断されたなんて聞いたことがない。 



「バモルヒーク、どういうこと? この雷のようなものは一体なんなの!?」


「はて? 遮断魔法でしょうか?」


「遮断魔法って!! だ、誰が!?」


「今の俺の主はマリンゼ様にあられます。ですので、マリンゼ様か。もしくは……微かにイース様の魔力が残っているのか。」  

 

「前に、東の魔王イースは、バモルヒークに眼鏡をかけることで魔力を半減させてたって言ってたけれど、それはなぜなの?」


「さあ? 俺が外敵に利用されては困るとでも思ったのではないでしょうか。」


 

焦る様子のないバモルヒークにイライラするマリンゼ。いつもの調子で飄々としているせいか、わかっているのか、本当にわかっていないのかが伝わってこない。 

     

バモルヒークには魔王並の魔力があると言っていたけれど、それなら最初から100%の魔力を解放していれば、東の魔王軍はバルトクライに勝てていたかも知れないのに。


おかしい。きっと何かある! 魔力を抑制していたのには、何らかの理由があるはずだ。 


すると突然、ゆらゆらとした殺気を放つフォルトナが喋り始めた。


 

『いいか? 俺がお前如きの魔力に恐れていたなどと思うなよ、バモルヒーク』



ズドンっっと重みのある声色に、場の空気が一変する。


フォルトナの、いつもの淡々とした口調ではない。今にも内蔵を引きずり出されそうなほど圧のかかった声だった。


マリンゼのこめかみから冷や汗が伝う。あまりの殺気に、思わずバモルヒークの顔を、太ももあたりの圧で押し潰してしまった。


バモルヒークの顔がむぎゅっと歪む。マリンゼの股ぐらに挟まれて幸せそうだ。 


 

「ど、どうしたの? フォルトナ……」 

「あんた、大丈夫?! ちょっと最近おかしいわよっ??」 

 

 

キリルとヒビアンが、心配そうにフォルトナを見つめる。オーウェンは不審そうに眉根を寄せた。


そしてバモルヒークは、フォルトナから発せられる不穏な気配がなんなのか、その応えを知っていた。



(この気配は、イース様の気配……)



マリンゼの股ぐらに挟まれたままのバモルヒークが、ゆっくりと目を細めた。








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