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魔族の股間が折れたらしい

久々の投稿です。よろしお願いします。



爆破音が聞こえた。


城の方から聞こえた気がした。


でも私は、王から与えられた大事な短剣を探すのに必死だった。

 

 

ない、ないないないないないっ⋯⋯!!  

 

王都での門番中、駐屯地の更衣室に置いておいたはずの、王家の紋章が入った短剣がなくなっていた。


名誉ある王都騎士団の称号として王から与えられる短剣。


もしあんな大事な物を失くしてしまったら除隊どころか王都から追い出されてしまう!



今日は訓練は休みで、勇者パーティー率いる騎士団らは最重要任務に出向いている。


城には近衛騎士や近衛魔道士がいるため、私のような下級騎士は、こんな重大な日でもいつものように王都の門番をしている。


休憩時間に駐屯地へと戻ってみれば、短剣がないことに気付いたのだ。

 



「あれえ? そんなところで四つん這いになんかなって、どうしたのかしらマリンゼ。」


「あっ、ツェティーア姫様! な、なんでこんなところに⋯⋯」


「仮にも王から称号を与えられている騎士ともあろうあなたが、そんな格好でみっともない。」


「も、申し訳ありません!」  


 

慌てて立ち上がり頭を下げる。


しかし事情を聞かれるのはまずい。 

 

 

「……あ、あの。ところで、なぜこんなところに……?」


 

姫に短剣を失くしたと知られるのはまずいため、咄嗟にこちらから質問をする。


するとツェティーア姫の気だるげな声が降ってきた。

 


「あなた、先程の爆発音聞いてなかったの? お城の中で爆破がありましたのよ。だから私、こちらに避難してきましたの。」


「えっ? お城の中でですか?!」


「どうも魔族のスパイが潜り込んでいたようでしてね。あなたもこんなところで油売ってないでさっさと加勢にいったらどうなの?」      


「魔族の、スパイ……?」


  

お城の中に……? だって、王族専属の騎士や魔道士だって常駐しているはずなのに。


 

「近衛魔道士団には上級魔道士もいると聞きました。魔族のスパイ行為に気付かないはずがありません。」


「そ、そんなの知らないわよ。私はただメイドや執事たちから聞いただけなんだから!」


「もしそうならば、なぜ姫様はこんなところに1人でいるのですか? 護衛はどうされたのです?」


「そっ、それは……い、いいから早く魔族の討伐に行きなさいマリンゼ!!」


 

姫様が城を指差し、私に『行け』と命じる。


でも私は怪訝な顔で彼女を見つめた。


 

「そ、そうだわ! 私は駐屯地の隠し避難所に隠れてなさいと父上より命ぜられたの!」


「こ、国王様に? でしたら。姫様の護衛は、この私、マリンゼが務めてみせます!」

  

    

だってまだ力のない私に魔族とどう戦えっていうの? それならここで姫様と一緒に身を隠していた方が絶対安全!


それらしいことを言いつつ目を輝かせながら姫様を見つめる。姫様は目をピクピクさせていた。 

 


このオスタッド王国の第二王女であるツェティーア様は私と同じ、12才。


彼女の上には第一王女のシェルティナ王女と、第一王子のローレンツェ王子、第二王子のイングドゥル王子がいる。


王家の継承者としては一番下の位とあってか自由奔放。  

  

きっとここへも護衛やメイドたちの目を掻い潜り、好奇心で訪れたのだろう。

 


「さあ、地下の避難所へお連れします姫様。」



彼女の手を取ろうとすれば、勢いよく振り払われた。


 

「いいえけっこうよ! 士師ししの偽物風情に守られるなんていい恥だわ!」



姫様が憤慨しながら駐屯地の中へと入って行く。


“偽物風情”の私は、肩でタメ息をすると駐屯地の窓ガラスに映る自分の姿を見つめた。



士師と呼ばれる、魔力を封印し解放する能力を持つ類稀なる存在。私の父親であるアズベル・ドヌングはこのオスタッド王国唯一の士師だ。


そしてその娘、マリンゼ・ドヌングとは私のこと。


細い身体に小さな背丈。父の神聖なるホワイトグレーの髪色とは似つかぬ、おどろおどろしいワインレッドの髪。大嫌いなせいか、短い上にボサボサなままだ。


ただ士師である父の唯一の後継者であるというだけで、王都の騎士団に入団させられてしまった。


まだ入団して2年。筋トレや訓練といった実地演習だけでなく、座学も課せられており、元々体力も学力もない私にとっては毎日が憂鬱。


でも私が騎士団を拒絶すれば、父上の肩書に泥を塗ることとなってしまうのだ。


今ある何不自由ない暮らしがあるのは、全て父上のおかげ。


母上は私を産んだ時に死んでしまったらしい。母上の顔を私は知らない。


 


「捕らえろーーーーー!! そいつを捕らえろーーーーーー!!!!」 

  

  

その怒号にハッとし、駐屯地のレンガの建物内を見る。すでに姫様は地下の避難所へと逃げたようだ。


とはいえ私にはどうすることも出来ず。


剣術ではいまだ真剣を扱ったことすらないため、訓練用の木剣を取り、声のする方を前にぐっと剣の体勢を構える。 


  

「(さ、さあ⋯⋯。い、一体どんな魔族が潜んでいるというの? というかほんとに魔族なの??)」




現在、勇者と謳われるパーティー、バルトクライを中心に、騎士たちは魔王軍のアジトである東の火山麓に攻め入っている。


確かにこちらの奇襲を見越し、魔王軍が城にスパイを送り込んでいたというのは納得できる。


ただ問題なのは、城を守る近衛騎士や魔道士ですら気付けないほどの魔力を持っているということだ。  


震える手足を抑えるようと歯を食いしばる。


緊張感の中、目をこらし耳をじっと澄ます。 

  

しかし近衛騎士たちの怒号が響くだけで、人影はどこにも見当たらない。


どこか別の方向に行ってしまったのだろうか。と緊張の糸を緩めた時だった。



「王女の臭い、か。」     

   

       

背中から聞こえる声。


咄嗟に剣を片手で振りかざし振り返る。


そこには、国王補佐の役職を持つ宰相 オウベルジュが立っていた。


気配どころか地面を踏みしめる音すら聞こえなかった。


白いヒゲを指でなぞり、片眼鏡から見据える老爺の男。なぜ駐屯地にいるのかとすぐには理解できなかった。



「その男だーーーー!! そのオウベルジュ宰相が魔族だーーーーー!!!!」 

  


後ろから聞こえる騎士の声に驚き、私が思わず木剣を落としてしまった時だった。


目の前のオウベルジュ宰相が煙に包まれ、しかしすぐに晴れていった。



「俺の魔力が……、解かれて……?」



晴れた先に現れたのは、細いフレームの眼鏡をかけた美男子だった。  


黒紫の髪をゆるくサイドでまとめ、黒いシャツに黒い燕尾服を着た紳士的な印象とは裏腹に、喉仏に大きな逆十字の紋章。


そしてなにより尖った耳。魔族を象徴していた。  



「ま、まさか……、おまえが、オウベルジュ宰相様に化けて……」


 

あまりの光景に自分の声が上ずる。しかし私の問いなど聞こえていないかのように彼が言った。


 

「あなたがオスタッド王家の血を引く者ですか。」 


「ち――――」



『違う』と言いそうなところで、ツェティーア様のことを思い出す。


そうだ、今ツェティーア様は駐屯地の地下にある隠し避難所にいる。


もしやツェティーア様の臭いを嗅ぎつけてここまで来たのだろうか?


王家を根絶やしにしようと目論む魔族を前に、自分が王家の人間ではないと言えば駐屯地の中へと探しに行く可能性がある。


魔族を前にするのは初めてだ。こわい、手足が震える。今にも心臓が張り裂けそうだ。


それでも自分は王家から称号を与えられた騎士の一人。そうそれ。父上に汚名を着せてはならない。ちょっと今王都騎士団の証となる短剣は行方不明だけど。 


 

「そ、そそそ、そうですっ! わた、わたしが、王家の血を引く王女だっ!!」 

  


さっき窓ガラスに映した自分の姿を思い出し、あまりに無理のある公言だったとすぐに後悔した。



『父上ッ!! 城に魔族が入りこんでいます! 至急応援を!!』 



バルトクライと同行した父上にテレパシーを送っているつもりだがちゃんと届いているだろうか――。 


私が唯一使える能力、テレパシー。


ただし一方的にテレパシーを送ることはできても受信することはできないという欠点がある。だから送れているのか確認が取れないのだ。


ちなみに父上は使えないし、他の魔道士様の中でもテレパシーの能力を持っている人はいないらしい。


 

「あなたの悲壮な叫び声が聞こえます。なんとも虫ケラらしい叫び声だ。」


 

魔族の口角がゆるやかに上がる。


そして黒い爪をした指を鳴らした瞬間だった。


疾風の如く無数の刃が私の身体に突き刺さる。



「ぐッ……あッッ」


 

違う。刃じゃない。


視えないなにか(・・・)が私の頬や肩、腕、腰、太もも、ふくらはぎを切り裂いたのだ。


 

「い、いったいなにがっ」

    

   

痛い。武器も何も持っていない丸腰の相手がなにかを物体化させたのか、いや疾風という名のとおり、本当に疾風だったのか。


なんにせよこの数秒で魔力を溜めて攻撃するなど魔道士でも聞いたことがな――――



「――ってめちゃめちゃ痛いぃッっ!!!!」  


  

あまりの痛さに涙が止まらず、痛みを逃すために声を荒げた。


地面に膝をつき身体を折り曲げて、歯を食いしばる。血の味がした。



「惨めですね。王家の血を引く者がこんなにもあっけなく散るなんて。」



王家の血なんか引いちゃいないし、士師としての能力すら発揮できちゃいない。生まれてから父上の肩書にもほぼ泥を塗っているようなもんだけど!


って今は痛くて痛くて仕方がないから何も考えられない!!!


  

不意に彼の爪先が私の顎を蹴り上げる。


しかし私は身体中の痛さのあまり、のけ反ることが出来ず。反動を利用し、彼の股間に頭突きを喰らわせた。


  

「っ"――」

「いっっっ、たーーーー」



痛い。頭が痛い割れる。なんで私が痛いの?! え待ってなに、魔族の股間て固いの? 


固いの額に直撃したんですけど痛い痛い痛い、こんなに痛い思いをするなんて聞いてない!!


騎士とか士師とかそんなもんどうでもいい。


痛いのめっちゃ痛いしめっちゃやだ。もう父上に汚名を着せてもいい。母上を呪いたい。顔も知らない母上はなぜ私を置いて死んだのか!


ネガティブな頭で、悔し交じりに前を見やる。


さすがの魔族でも股間を攻撃されるのは弱いらしい。


 

「やばい、折れた。」 

      

 

そのまま地面にうずくまる魔族。


不可抗力とはいえ、まさかの股間攻撃が効いた。


自分を馬鹿にしたバツだと、ここぞとばかりに笑い飛ばしてやる。


 

「はは⋯⋯、あはは⋯⋯あぁあっはっはっはっはっはっはっっはっはっはっはっはっ!!!!」



血を流しながら、うずくまる彼の尻を思い切り蹴飛ばしてやった。



「みっ、惨めだな! 宰相に扮し王家にまで潜り込んだ魔族が、股間一つであっけなく散るなんて!!」


 

彼の頭に、ブーツを履いた足を乗せて地面に押し付ける。綺麗な顔がさぞかし土まみれになっていることだ。


こんなの最期の悪あがきに過ぎない。


この魔族が上級なのは12才の私にだって分かる。


見えない刃の術を使い、王家専属魔道士の目を掻い潜るほどの変装能力まであるのだ。


きっとすぐに殺される。


   

彼が頭を上げると同時に、泣き笑いする私の足が上がり、後ろに倒れる。


尻もちをついた私のブーツを両手で持ち上げる魔族の彼。


なぜかブーツの爪先にキスを落とした。


 

「たまらない。俺は元より、あなたのような者をずっと待ち望んでいた。」



額と頬に土をつける彼。綺麗な顔は土まみれになっても美しかった。



「……はい?」


「魔王様は俺を褒めるばかりで罵倒すらしてくれない。しかしあなたはこんなにも小さいのにこの俺の尻を蹴り飛ばし足置にしてくださった。」  

    

 

ザワザワ。森がざわめき、巣立つ鳥が瞬かせる羽音が聞こえる。


 

「世界はなんて美しいのだろう。」


      

彼が淀みなき眼で私を見つめる。



「どうかあなた様のお御足で俺の尻が真っ赤になるまで蹴り続け、このひ弱な脳みそを足蹴にして下さいませ。」


  

ぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞ〜〜〜〜


なん……なんだっ……。この、気色悪い変態は。。全身の産毛が逆立つ。


12才にしてもうこういった性癖を植え付けられるのか。いんや、私は真っ当な騎士だ。


どんなに血濡れて痛い目に遭おうとも、騎士として、士師としての尊厳を賭け決して父上の肩書に泥を塗りはしまいと誓おう。


 

「わた、私は、一介の騎士だ! 魔族の尻を蹴り飛ばす趣味はないが、心臓を突き刺すことなら厭わないっ。」

   

「それではせめて俺を殺す前に俺の股間を蹴り飛ばしてくだ」


「ごめんなさい。もう私の人生に関わらないで下さい。」



さっき攻撃をされた時よりも心臓が震える。


だって彼が、なんとも虚ろな瞳で私のブーツを舐めているのだから。


ぞわぞわぞわぞわぞわぞわぞわぞわ〜〜〜〜〜〜



「うッ……」


「ど、どうしたの魔族?」


「ま、まおう……さ、ま」



その時、魔族の首にある逆十字の紋章が光を放った。


 

もしかして、私のブーツが臭かったんじゃ?!       

 

そして光がパンッと途絶え、魔族の逆十字の紋章が消えた。


魔族はぐったりとその場に倒れ込んでしまった。私の片足のブーツを抱えながら。


その後、すぐに駆けつけた父上に魔族は魔力を封印され、投獄されたのだった。







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