ホストなんて興味ない、そう思っていたけど
どうしよう……。
小冊子に並ぶホストたちの写真を一枚ずつ見ていくたびに、気持ちがどんどん沈んでいった。
どれもこれも、髪は明るく、目つきも鋭く、笑顔がどこか作りもののように見える。
みんな派手で、チャラそうで――正直、まったくタイプじゃなかった。
そしてなにより、怖い。
話しかけるどころか、視線を合わせることすら躊躇ってしまいそうだ。
私はこんな人たちと、今から何を話せばいいんだろう。
ページをめくる手が止まり、顔をしかめる。
「……いない」
ぼそりと小さくつぶやいた。
誰ひとりとして、「話してみたい」と思える人がいなかった。
まるで異世界に紛れ込んでしまったような気分。
今すぐ店を出たくなった、その瞬間だった。
「こんにちは!」
明るく、けれどどこか柔らかさを含んだ声が、真正面から聞こえた。
反射的に顔を上げた私は、思わず目を見張った。
え……なに、この人。
視線の先に立っていたのは、黒髪の男性だった。
周囲の派手な空気とはまるで違う、どこか品のある雰囲気。
顔立ちは可愛らしくて中性的。
それでいて、視線の合わせ方には誠実さが宿っていた。
彼はにこやかに微笑みながら、丁寧におしぼりを差し出してくれた。
その仕草すべてが自然で、優しくて――私は完全に、見入ってしまっていた。
目を逸らせない。
まるで時間が一瞬だけ止まったような感覚だった。
彼がそっと立ち去るまで、私はまばたきさえ忘れていた。
そして我に返った瞬間、ふっと笑みがこぼれた。
頬が自然にゆるみ、恥ずかしくなって思わず口元に手を当てる。
そんな私の様子を見て、すかさず隣のゆりちゃんが声を上げた。
「あれあれ〜? すーちゃん、今の人に反応したでしょ〜?」
おもしろがるような口ぶりに、顔が少しだけ熱くなる。
ユウトがさりげなく補足するように言った。
「あれ、心愛だよん」
心愛――。
どこかアイドルのような、甘い名前だった。
改めて小冊子をめくり、彼の名前を探す。
そこには、たしかに“心愛”の文字とともに、彼の写真が載っていた。
黒髪で、柔らかい目元。
この店のテーマは“和”らしく、袴を着た姿で写っている。
写真でさえ、周囲のきらびやかなホストたちとはまったく違う雰囲気を放っていた。
落ち着きがあって、柔らかくて――それでいて、凛としている。
しかも袴をさらりと着こなしていて、どこか大人びて見えた。
「……もろ、私の好み」
心の中でそうつぶやいたとき、さっきまでの不安は少しだけ溶けていた。
まさか、こんな場所で“いいな”と思える人に出会うなんて。
そんな小さな驚きとときめきが、胸の奥にそっと灯った。