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本命じゃなくて、都合のいい“カモ”だった


通知が鳴るたびに、胸がひくりと波打った。

もしかして――

そんな希望がよぎる。


そのたびに、期待してしまった自分に呆れ、そして深く落胆する。

ようやく彼から返信があっても、それはあまりに素っ気なくて、かえって胸を締めつけた。


 


「うん」

「またね」

「ありがと」


 


絵文字も、気遣いも、温度すら感じられない、乾いた言葉。

その一言が、かつてのやさしさを思い出させて、逆に胸が痛んだ。


まるで、砂漠に置き去りにされたような気分だった。

たしかにあったはずのぬくもりが、今はどこにもない。


 


***


 


そして迎えた、27歳の誕生日。

本当なら、誰よりも彼に祝ってほしかった。

たとえ他愛もない一言でも、彼の「おめでとう」が欲しかった。


けれどその日、私は、朝から夜まで泣いていた。

起きては泣き、泣いては眠り、また目が覚めて泣いた。

人生で一番、苦しかった誕生日だった。


 


スマホの画面を見つめながら、ただ、彼の一言を待っていた。

でも、画面の中は冷えたまま。


ラインは相変わらず短くて、心のこもった言葉は一切なかった。

以前は毎日のように送ってくれていた自撮りも、ぱたりと途絶えた。


 


彼の姿が見えなくなった。

あの、あふれるような愛情を注いでくれた彼は、まるで最初から存在していなかったかのように。


残ったのは、喪失感だった。

胸の奥にぽっかりと穴が空いて、そこから冷たい風が吹き込むようだった。


 


あの言葉の数々、あの視線、あの甘え声。

仮初めだったかもしれない。

それでも、たしかに心地よかった。

だからこそ、今はただ、恋しかった。


あの頃の“溺愛”が恋しくてたまらなかった。

思い出すたび、胸がきゅっと締めつけられて、涙がにじんだ。


 


そして、ようやく気づいてしまった。

――やっぱり、お金目当てだったんだ、と。


そう思った瞬間、何かが静かに崩れ落ちた。

ブロックをして、その後に仲直りをしたあと、私は一度、正直に伝えた。


 


「ごめんね。もうお店には行かない」


 


そのとき彼は、あっさりこう返してきた。


 


「いいよ」


 


……即答だった。

だから私は、一瞬、喜んでしまったのだ。

「店に来なくてもいい=本命」だと。


 


でも違った。

そうじゃなかったんだ。


“店に来させる”んじゃなく、

“プライベートで貢がせる”――

それが、彼の狙いだった。


 


その策略がうまくいかなくなったとたん、彼の態度は急激に変わった。

まるで、もう私に価値はないと言わんばかりに。


 


優しさも、甘い言葉も、すべては“手段”だったのかもしれない。

そう思うと、哀しみよりも、虚しさが勝った。


彼の声が、彼の言葉が、もう何ひとつ、私をあたためてくれない。

ただ冷たい空気だけが、心の隙間を吹き抜けていった。


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