信じたいんじゃない。“信じていたい”だけだった
すぐに、メッセージが届いた。
既読にした瞬間、心臓が跳ねる。
「ごめん。俺、潰しとかよくあるねん。言っとけばよかった。
誰に何言われたかわからんけど、ほんまにちゃんと説明させてほしい」
スクロールする指先がわずかに震える。
私は迷わず返信した。
「嘘!信じない!そんなこと言って、また私を騙すつもりなんでしょ」
怒りと悲しみを込めて打ったはずの言葉。
けれど、すぐに届いた彼の返信は、思いのほか誠実だった。
「ほんまに違う。店に連れて行こうとも思ってない。これは信じてほしい。
今は信じられないかもしれないけど、行動で示していくから」
その言葉を読み返しながら、私は深く息を吐いた。
――苦しい。
本当は、信じたい自分がいることに気づいてしまったから。
たしかに、ゆりちゃんは言っていた。
「自慢げに話してたよ」って。
もしかして……酔って言ってしまっただけかもしれない。
それを誰かが、大げさに言いふらしただけかもしれない。
“潰し”。
ホストの世界ではよくあることだと、彼は言った。
信頼されているホストを引きずり下ろすために、嘘の噂を流す――
そんな話、確かに聞いたことがあった。
どれが本当で、どれが嘘なのか。
事実は、私にはわからなかった。
でも、彼は私の怒りも悲しみもすべて受け止めてくれた。
責めることもなく、ただ誠実に向き合ってくれた。
何度も「信じて」と言ってくれた。
「俺は、すーちゃんを大事に思ってる」――そう伝えてくれた。
そんな彼を前にして、私はまた、心の壁をゆっくりと緩めていった。
信じていいのか。
まだ疑念は残っていた。
それでも私は……許してしまった。
――これからの態度を見ていけばいい。
そう、自分に言い聞かせながら。
本当は、わかっていた。
私は彼を“信じたい”んじゃない。
“信じていたい”のだ。
違っていてほしい。
あの優しさや、ときめき、特別にされているという感覚が――
すべて、嘘じゃないと願っていた。
もしかしたら、私はもう彼に“依存”していたのかもしれない。
目に見えない鎖で、心を絡め取られていたのかもしれない。
彼から送られてくる言葉。
特別だと囁かれる瞬間。
「すーちゃんだけやで」と言われる優越感。
あの甘くて心地よくて、夢のようなやりとりを――
もう一度、味わいたかった。
私が“一番”になれた、あの幻想の中に。
もう一度、戻りたかったのかもしれない。
私は彼を許すことにした。
そして、もう一度信じることにした。