やっと気づいた。私は騙されてた
泣き明かした朝、
いつの間にか眠っていたらしい。
ふと目を覚ますと、カーテンの隙間から差し込む光がすっかりオレンジ色に染まっていた。
時計を見ると、もう夕方。
時間の感覚がぐちゃぐちゃで、夢か現実かも曖昧だった。
昨夜流した涙のせいで目は腫れ、体は鉛のように重かった。
それでもこのままベッドの中で腐ってしまいそうだったから、無理やり顔を洗って、外に出た。
どこかに逃げたくて、カフェに入った。
騒がしすぎず、かといって静かすぎない場所。
コーヒーの香りが漂う店内の片隅で、私はスマホを取り出す。
何気なく開いたTikTok。
そこに、ライブ配信中の心愛くんの姿があった。
指が止まる。
一瞬、心臓がぎゅっと縮むような感覚。
でも、すぐに違和感に気づく。
いつもと、まるで雰囲気が違っていた。
画面の中の彼は、どこか鋭い目つきをしていて、全身から気だるさを滲ませていた。
あの“きゅるん”としたあざとい笑顔もなければ、
明るい声で冗談を言い合うような軽さもない。
声は聞こえなかった。
イヤフォンを持ってきていなかったから。
けれど、画面越しでも十分伝わってくる。
――クズい。
画面の向こうから漂ってくるのは、見えない“闇”の気配だった。
どこか刹那的で、危うい夜の世界をまとったような雰囲気。
思わずコーヒーのカップを持つ手が震える。
これが、彼の“素”なの?
あんなに明るくて、可愛くて、人懐こい彼が……
今、この瞬間、別人のようなオーラを放っている。
演技だったのか?
全部、嘘だったの?
私に優しくしてくれたあの言葉も、
「好きだよ」と言ってくれたあの瞬間も――。
そう思った瞬間、胸の奥から黒い感情が噴き出した。
悔しさ、悲しさ、恥ずかしさ。
そして、自分への怒り。
「どうして信じたの?」
「どうして見抜けなかったの?」
息がうまくできなくなるほどに心がぐらついて、
ついに私は、その衝動に手を伸ばした。
画面を睨みつけるように開いたまま、私は彼のアカウントに震える指先で言葉を打ち込んでいた。
『あなたの演技には本当に驚きました!!もう騙されないから!』
送信ボタンを押した指先は、ほんのわずかに汗ばんでいた。
それでも止められなかった。
止まらなかった。
言わずにはいられなかった。
まるで、あの配信の彼に、
この想いをぶつけずには自分が壊れてしまいそうだったから。