人を好きになるって、こんなにも苦しかった?
LINEをブロックした、その瞬間だった。
まるでこちらの動きを監視していたかのように、
インスタのDM通知が届いた。
「お願い1回電話させて。思ってること全て話したい。
おれはお店通わせようともしてない。LINE電話かけてきて。かけ直す」
まるで切羽詰まったような文章だった。
句読点もほとんどない、感情をむき出しにした短文が連なっている。
その文字を見つめながら、手はかすかに震えていた。
――出るわけ、ないじゃん。
既読もつけず、私はスマホを伏せた。
その数秒後、今度はゆりちゃんからの着信が鳴った。
「すーちゃん、今……心愛くんが、営業中なのに店で大声でブチギレてるって……」
「え?」
「『すーちゃんに何か言ったのは誰だ!出てこい!』って……怒り狂ってて、みんなドン引きしてる。今めちゃくちゃ揉めてるらしい」
「…………」
息が止まった。
一瞬だけ、心臓がドクンと跳ね、胸がしめつけられた。
怒り狂ってる?
心愛くんが、私のことで?
「でもね、絶対電話出ちゃだめ。うまく丸め込まれるから。あの人、話すのうまいし、情に訴えてくるよ」
ゆりちゃんの言葉は、私の内側で警報のように鳴り響いた。
だけど、心のどこかでは――ほんの少しだけ――こうも思ってしまった。
“もしかして、私に気持ちがあったの?”
“だから怒ってるの?”
いや、違う。
そんなわけがない。
あの人にとって私は、最高にちょろい“カモ”だった。
簡単に写真を送り、すぐに心を許すバカな女。
もう少しで言いなりにできそうだったのに、それが逃げたから怒ってる――それだけだ。
どす黒い感情が、喉の奥からじわじわと上がってくる。
怒り、恥、悲しみ、後悔、そして恐怖。
それらがいっせいに胸の内でぶつかり合い、どうしようもなく心をかき乱した。
言ってやりたい。
ぶつけてやりたい。
私の気持ちを踏みにじったことも、信じた心を平気で裏切ったことも、全部。
でも、それをしてしまったら、また飲み込まれる気がした。
あの目に、声に、言葉に――もう二度と、抗えないような気がした。
悔しくて、情けなくて、涙も出ない。
それでも、心の奥では叫び声が止まらなかった。
「どうしてあんな人を好きになったんだろう」
「なんで、信じちゃったんだろう」
スマホの画面が暗転する部屋の中、私は静かに膝を抱えた。
あたたかかったはずの胸が、冷え切っていくのを感じた。
――人を好きになるって、こんなにも苦しいものなんだ。
好意は、必ずしも届くわけじゃない。
ましてや、その気持ちを利用されることもある。
そんな当たり前のことを、私は今日、骨の髄まで叩き込まれた。
まるで自分の中で何かが、音を立てて崩れていくようだった。