信じた私が、いちばんバカだった
「心愛くん、今までありがとう」
そう打ち込む指先が、かすかに震えていた。
涙ではなく、恐怖と怒りと後悔が入り混じった、底知れぬ感情のうねりに呑まれながら、私はスマホの画面を見つめていた。
――嘘。
あれは全部、嘘だったの?
信じてた。
あの笑顔も、優しい声も、真っ直ぐに私を見つめるあの瞳も――。
誠実で、真面目で、私のことだけを見てくれてると思ってた。
でも、違った。
彼の中には、私が知らない“もうひとり”がいた。
あまりに自然すぎて、完璧すぎて、私の目にはまるで“演技”だなんて映らなかった。
まさか、そんな裏の顔をもっているなんて――。
頭の中で誰かが叫んでいる。
「気づくのが遅すぎる!」と。
彼に言われて、送ってしまったお風呂あがりの写真。
ふざけた感じで「見せてよ」と言われ、
「しょうがないな〜」なんて甘えて、隠すべきところは隠していたけれど、
“特別な彼氏”にしか見せないような写真だった。
そんなの、信じてるからこそ、送ったのに。
もしかしたら、その写真も…
私の話したことも、家族のことも、悩みも、
全部、他の誰かに話してるのかもしれない。
「すみれって女、チョロいよね」
「写真もすぐくれるし」
笑いながら誰かにそんなふうに話してる、心愛くんのもうひとつの顔が、
まぶたの裏に焼きついて離れなかった。
ひゅうっと、胸の奥から酸素が抜けていくような感覚。
冷たい空気が肺に入るたびに、心がぎゅっと痛んだ。
それでも、現実を否定しきれなかった。
だって、私は見てしまったから。
あのとき、彼の仲間たちが一瞬見せた、“真顔”を。
――ぞっとした。
背筋に氷の刃が走ったみたいだった。
あれが、彼らの“本性”なの?
「私が見ていた心愛くんは、誰だったの?」
私はただ、部屋の片隅で膝を抱えて、
「バカだ……」と何度も繰り返すことしかできなかった。
信じた自分が悪いの?
あんなにも優しかったのに。
あんなにも、好きだったのに――。
だけどもう、戻れない。
私の心は、完全に壊れてしまったから。