『一目惚れした』も、『君だけ特別』も、すべて嘘だった
「すーちゃん、遊びならいいけど、心愛に本気になるのはやめときな。」
LINEに届いた、ゆりちゃんからの短いメッセージ。
それはまるで、空に走った一筋の稲光のようだった。
──なんで、そんなことを。
まだ何も始まってないのに。
「え、なんで?」
私はすぐに返信を打った。
数秒で既読がつき、すぐさまスマホが震える。
着信だ。
「……もしもし?」
「すーちゃん、落ち着いて聞いてね。
実は私、キャバクラで働いててさ。そういうつてで……裏情報を、秘密で入手できるんだよね」
やけに真剣な声。
ゆりちゃんのLINEの表示名には、たしかに月の絵文字があった。
「……あの心愛くんって、やばいらしいよ」
「え……?」
「客を“しずめる”んだって」
「しずめる……?」
聞き慣れない言葉だった。
けれど、その響きに含まれる“深さ”と“冷たさ”に、背筋がぞくりとした。
「生活できないくらいにさせるってこと。
心愛くんのせいで借金抱えて、家もなくなって、仕事も辞めた子……何人もいるんだって」
一瞬、呼吸の仕方を忘れた。
酸素が喉を通らず、胸の奥に重たく沈んでいく。
「え……心愛くんが……? そんなはず……」
「携帯代も姫に払わせてる。
『店に来なくていい』って言って、プライベートで繋がって、恋人のふりして金を引っ張るんだって」
じわじわと、現実が崩れていく。
耳の奥で誰かの声が反響しているみたいに、ゆりちゃんの言葉が頭に残って離れなかった。
「しかも、“鬼枕”。本営しまくって、
『君だけ特別』って言って、ガチ恋させて、貢がせてるんだよ」
瞬間、目の前がスッと暗くなった。
本当に、視界が狭まった気がした。
──私が、今まで受け取ってきた言葉は?
──あの甘い声は?
──「一目惚れした」って、あれは……全部?
「私がやりとりしてた……心愛くんって、一体……」
喉がひゅっと細くなり、息が詰まる。
指先がじんわりと痺れてくる。心臓が不規則に打ち、鼓膜の内側でドクドクと音を立てていた。
「だから、すーちゃん! 今すぐブロックしなって。
というかね、すーちゃんとの会話、全部スタッフに言いふらしてるよ」
「……え?」
「店の内勤と私、裏で繋がってるの。
すーちゃんが『ホストの彼女は嫌だな』って言ったって、笑いながら自慢げに話してたって聞いた」
──それは、たしかに私が言った言葉だった。
心愛くんが「今度会ったときに、ちゃんと言わせてほしい」と告白めいた雰囲気を漂わせてきた夜。
ふと口にした本音だった。
私、笑われてたんだ。
舞い上がっていた自分が、どれだけ滑稽だったかを思い知らされる。
現実が、嘘に塗れていた。
甘い言葉も、やさしい声も、
全部が“仕事”で、“演技”で、“道具”だった。
私の心は、たった一人の言葉で持ち上げられて、
そして今、音を立てて墜落していった。