甘い言葉に、私は静かに崩れていく
「おはよう」から「おやすみ」まで。
一日が、彼の声と文字で埋め尽くされていた。
スマホの画面が光るたび、彼からのメッセージが表示されるたびに、胸が甘く波打った。
朝の「おはよう」LINEは私より早く届いていて、まるで起こしに来てくれたみたいだった。
日中は仕事の合間に、
「すーちゃん、今日も頑張っててえらいね」と褒めてくれる。
そして夜には、「声が聞きたい」と電話が鳴る。
彼からの言葉は、まるで甘い飴玉みたいだった。
少し寂しかった日常に、鮮やかな色を差してくれる。
“彼氏ができた”と、言ってもおかしくないくらいの密度で、彼は私を構ってくれた。
「僕が守るから」
不安や悩みを打ち明けたとき、彼は必ずそう言ってくれた。
その一言が、どれほど救いだったことか。
在宅の仕事で、誰とも話さない日々。
頑張って働いても、どこかで
「私、誰にも認められてないのかも」
と、思ってしまう夜もあった。
そんな孤独の隙間に、彼の言葉はふわりと入り込んできた。
──誰かに支えてほしい、頼りたい。
そんな感情に自覚がなかったけれど、
今思えば、私の心はすでに疲れていたのかもしれない。
けれど、幸せと背中合わせで、不調は始まっていた。
眠れない日が続いた。
彼の電話がかかってくるのは、決まって深夜の2時。
遅いと3時を過ぎることもあった。
それまで目を閉じることもできず、
ずっとスマホを握りしめて待っている。
着信音が鳴るたび、胸が高鳴る。
彼の声が聞こえるだけで、安心する。
でも──
生活は少しずつ崩れていった。
眠れず、起きられず、仕事の効率も落ちた。
本来なら眠っているはずの時間帯に目が冴えて、
朝日が憎たらしく思えた。
それでも、彼と話す夜を手放すことができなかった。
彼がいない時間のほうが、怖かった。
“心愛くん”が私の世界からいなくなることを想像するだけで、息が詰まった。
甘くて、愛されたような気がして、満たされて。
でも、心も体もどこかで悲鳴をあげている気がしていた。
私は気づかぬふりをした。
「これは恋だから」
「幸せだから」
「疲れているのは私のせい」
そうやって理由をすり替えていた。
けれど本当は──
彼の声に、言葉に、
私は少しずつ依存していた。