表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「BBAヒロイン、異世界へ行く!」 〜古代ギリシアっぽい異世界で愛される旅!!〜  作者: しょうりショウゲン
第2話━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
7/38

第2話③ 冥界?の河を渡れ! 「俺の金で、遊んで暮らせ!!」「俺に養われろ!ババア!!」

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 み、身を、任せる……、って。

 つまり、それって。


「こっちは狭い」

 う、うん。

「二人は無理だ」

 え、う、うん。

「向こうで一緒に寝てもいいのか?」

「え、いえ、それは……」

 ぶんぶんと顔を横に振って、否定をアピールする私。


「じゃあ戻れ。朝まで俺に近づくな。あぶねぇぞ」

「あぶない、とは……?」

「貞操の危機だろう」

 ほ、ほう。


「さっさと戻れ。早く寝ろ」

「リュギオン……」

「いいなババア、まだ死ぬなよ。ちゃんと朝には目を覚ませよ」

「……あ、それは大丈夫。まだ明日は生きてる。たぶん」


 夜寝てからそのまま逝ってしまって朝起きてこない、とかを心配してくれてるのかしら。

 あー、まあよく聞くわよねー。あと、朝のおトイレで血圧下がって迷走神経反射起こして倒れちゃうとかも。お風呂場でヒートショックとかも多いわよねー。


「……じゃあ、おやすみなさいね」

「ああ」

「………………」


 狭い寝所に身を埋め、私に背を向けたままのリュギオン。

 私は言われたとおりに、すごすごと引き下がり、彼のもとから離れていった。

 

 そうして、もとのお部屋に戻っていく途中のことだった。


「伏せろ!」

 突然のことだった。


 リュギオンのその言葉とともに、私は、彼に頭と上半身を抱えられ、床に伏せさせられた。

「……きゃぁ!」

 彼の体ごと、一瞬宙に舞う。これが受け身というものなのか、ごろりと捻り半回転が決まった結果、痛みや怪我はまったくなかった。

 背後から押し倒される形で、床にうつ伏せになった状態の私。

 上から覆い被されたからには、背中越しに彼の体温と体重を感じざるを得ない。


「敵襲だ!」

 て、てきしゅう?


 お、重いー。

 圧死しちゃう。と口に出す前に、彼はすぐさま肘を伸ばして、体を引き離してはくれた。

 私が振り返って身を起こそうとすると、接触しないように、さらに両腕を突っ張って体を持ち上げるのだった。

「そのまま伏せてろ!」


 自重トレーニングか、腕立て伏せか、といった体勢のリュギオン。

 四つん這いの状態になり、手は肩幅よりも少し広めにして床に置いていた。


 こ、これは、不可抗力とはいえ。

 世に言う、床ドン、とかいう所業、シチュエーションにあたるのでは。

 

 伏せてから十数秒後、飛び道具等の攻撃は見受けられなかった。

 周囲に差し迫った危機がないことを確認するやいなや、反転。リュギオンは跳ね起き、私の側面をぐいと押して、移動を促した。


「そのまま匍匐(ほふく)前進!向こうの寝台まで進め!」

 ほ、ほふくぅ?

「寝台の下に隠れるんだ!早く行け!」

 えええー。


 うう、匍匐(ほふく)って、肘が痛いのよ。

 腕の皮膚が擦り切れちゃったかも。普段使わない部位に負担がかかるし、筋がちがえちゃいそう。

 ああ明日、絶対、筋肉痛だわ。

 呻き声を上げながらも、なんとか匍匐(ほふく)前進したまま寝台の脇まで辿り着く私。


 敵襲がある方向だと思わしき、窓の外。中庭。

 リュギオンは終始そちらの側に身を置いて、私の盾となってくれていたようだ。

 すでに框の付近までにじり寄って、窓枠の縦桟に手を掛け始めていた。そうして、静かに、片側へ押していく。


 窓がゆっくりと開くと、中庭が見え始める。

 私はそこに、奇怪な物体が存在していることに気がついた。

 真っ赤な物体。

 鮮血のような赤色に塗れた、白い衣装の人物が、そこにいた。


 あ、あああ。

 これが。

 これが、出る、と言われるゆえん……。

 霊障、亡者、なのね。


 お、お経でも唱えたほうがよいのかしら。安らかに、成仏なさってくださいね……。

 私は、目を閉じて手を合わせて、冥福を祈った。

 相手に敬意を払おう。泣いたり叫んだりするなんてもってのほか。必要以上に気味悪がったり排除しようとしたりって、失礼だものね。


 一方リュギオンは、戦闘態勢に入ったまま。

 細身の短いナイフを何本か投げつける。すると、カンカン、という弾かれる音がした。

 ああ、効いてない。

 刃物が跳ね返されたんだ。ああ、やはり、相手は生身の人間ではないのだわ。

 霊体、亡者なのだわ。


「ちゃちな小細工をしやがって!俺の目はごまかせねぇぞ!そんなカラクリはお見通しだ!」

 リュギオンは、窓から中庭へと飛び出していく。

 なんと、霊障の存在には目もくれず、あさってのほうへ。勢いよく別方向へと向かっていくのだった。

「そこだ!正体を現せ!」

 中庭の奥のほうに位置する茂み。そちらに飛びかかっていった。


 ええ?どういうこと?


 ほどなくして、人間らしき叫び声。生々しくもリアルな悲鳴が響いた。

 リュギオンの体術にやり込められて、腕や首をキメられかけている、人間から発せられていた。

 赤い色の汁にまみれた、白い衣装の、人物。


 ただの、人間だった。

 霊体、亡者などではなかった。

 中庭をよく見ると、大きな鏡が45度の角度で、斜めに配置されていた。

 ああ、投げナイフが弾かれたのは、この鏡だったんだ。なるほど、これで遠隔から姿を見せていたのね。ただの、マジックのトリックだったんだわ。


 リュギオンは今回、剣技は封印しているようだった。

 相手の正体や目的がわからない状態だからだろう。口を割らせる必要がある。その前に倒してしまうわけにはいかないため、手加減と素手での対応を余儀なくされるのだ。

 打撃技のみならず、投げ技、寝技、締め技までを披露し、まさにパンクラチオン。全てに適応できる総合格闘家のような立ち回りを見せた。


「誰に雇われた?言え!依頼主は誰だ!」

 リュギオンは、そのままギリギリと締めまくる。

 関節技を続けて、拷問に持ち込んでいるのだった。

 脚部全体、膝、腕などを駆使して、相手の肘関節を極める。てこの原理を利用して本来の方向とは逆のほうへ負荷を掛けて、制していた。

 

 関節可動部の動きを封じ、靭帯を損傷して捻挫、脱臼させることも可能な、とても危険な技である。

 極める動作は、殴る、倒すといった本能的な動作よりも、技や骨格の理解をより深く求められるという。フィジカルはもちろん、インテリジェンスやテクニック、冷静沈着な精神力まで必要とされる領域なのだそうな……。


 うわ、怖い。

 リュギオンの、詰問。尋問。拷問。

 彼が本気になったら、こんなふうにグラップラーの餌食にされてしまうのね……。


 前回、私も職務質問をされて、かなり怖い思いをさせられたと思っていたけども。

 あんなのまだまだ、お遊びの範疇だったのねぇ。

 彼なりの配慮があったのか。

 けっこうな手心を加えられていたということらしい……。




━━━━━━━━━━━━━━━━━




 それは、ただの食い詰めた役者だった。

 報酬欲しさに雇われただけだと、白状をした。


 霊障騒動、その真相は、ただの同業者からの嫌がらせ。たちの悪い商売敵の仕業だったのだ。

 風評被害を目論んで、老舗旅荘の評判を落とすために、このような真似を画策したのだと言う。

「まあ、よくある話だ」

「そうね」


「しかし、おかしいな。こいつが犯行に携わったのは二年前から、月に何度かと言っているが。霊障はもっと別の日にも起きていたんだよな」

「あ、あら。ということは」

 ってことは。人災は関係なくて。

 やっぱり。


「うーん、このお部屋は、大人数が入れる宴会場なんかに改築するのもいいと思う。旅芸人や吟遊詩人なんかも活躍する広間よ。基本的に、賑やかなのが好きで、しんみり寂しいのは嫌みたいね。小噺やお芝居なんかで笑ったり感動したりする大勢の人間の姿を見守っているうちに、心穏やかになっていくんじゃないかしら。そうなれば、成仏ももうすぐ目の前よ」

「ふーん」

「客商売の居場所には向いてるわよね。お客さんを呼んできてくれるわよ、きっと。正しい関わり方をすることで、商売繁盛にも繋がるわよね。旅荘側にとっても、悪いことばかりではないはずよ。あ、あと、毎日、お水なんかを一杯お供えしてあげるとよいかと」

「わかったわかった。まったく。あんまり冥界に足を突っ込みすぎるなよババア」


 まだまだ言いたいことはあったが、リュギオンに呆れられ遮られる、私の霊能語りであった。




 翌日。

 老舗旅荘のオーナーさんや従業員さんたち大勢から感謝され、清々しい気分でチェックアウトを済ませる私たち。

 またもリュギオンのお手柄とはいえ、私まで正義の味方やヒーローのように扱ってもらえて、まんざらでもない。


 雨はまだ降り続いていたが、私はすこぶるご機嫌だった。


 機嫌よく宿場町を出て。

 川のほう、渡船場へと続く道を歩く、リュギオンと私。


「なあババア、あんたの元いた世界のことだが。そっちの平均寿命というのは、実際は、どの程度長いんだ?」

 道すがら、リュギオンがこんな話題を持ち出してきた。


「えー、そうねぇ。たしか、うちの国の女性は、85歳とか、87歳とか、だったかな?人生100年間時代はもうすぐ目の前とかも言われていたけど……まあ、実質80年くらいなんじゃないかしらね」

「なんだ。じゃあ、まだまだ生きるんじゃねぇかババア。もうしばらくは死なねぇだろう」

「それが、わからないのよねぇ」


「どうしてだ?」

「向こうの生存環境や食糧事情、医療技術があった上での平均寿命80年なのかもしれないのよね」


 ってことは。

 今、異世界で暮らす私には、そういった長寿の恩恵は適用されないというわけで。

 異世界で暮らす者は、異世界人としてみなされ、異世界での平均寿命50年で召されてしまうのでは?


「あんた、それまでずっと向こうで生きてきたんだろうが。長寿種族としての素地があるだろう。80年以上生き抜ける人体の基礎がすでに構築された状態でこっちへ来た、ってことでいいと思うが」

「えー。どっちなのかしらねぇ。どっちの世界の平均寿命で考えたらいいのかしらー」

 まあ、いつ死んでもおかしくないという、一応、それなりの覚悟はしているけども。


「いよいよとなったら、元いた世界へ帰ればいいわけだろう?最先端の医療技術と治療環境とやらで持ち直せるってことだ」

「まあ、そんな。延命措置のようなことをするつもりはないわね。潔く、自然の流れに身を任せたいわ」

 


 雨がそぼ降る中で私たちは二人、そんな会話を交わしながら、渡船場への歩みを進めていた。


 途中、河川敷に立ち、対岸を臨んでみる。


 だが。

 霧に覆われ雨粒に掻き消され、その細かな情景は見えてこない。

 堤防から、激流を眺め続けるしかなかった。


 今日も、渡し舟は出ないのだろう。

 冥界ステュクス河の渡し守カロン。その渡し舟は、客を選ぶらしい。

 生者は追い払われる、と言われている。

 乗船できるのは、亡者のみ。


 私は結局、あきらめて、行き先の変更をすることに決めた。



「しょうがないわね。反対方向、峠のほうに向かいましょう」

「ああ、いいぜ。俺は、ババアについていく」


 いつ寿命が尽きるのかは、ちょっと気になるところではあるけども。

 私の異世界道中記は、まだ続く。


 前回加わった頼もしい旅仲間の助力もあり、さらに楽しく刺激的に、様々な困難や危機も乗り越えて。


 これからもまだ、しばらくは続いていきそうだ。





第2話 冥界?の河を渡れ! 「俺の金で、遊んで暮らせ!!」「俺に養われろ!ババア!!」

━━━ 終わり ━━━

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ