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「BBAヒロイン、古代ギリシャっぽい異世界へ行く!」  作者: しょうりショウゲン
第10話━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

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第10話⑤ 若者は住めない村! 「逝くなババア!俺にあとを追わせるな!!」

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「よし、あの村へ向かうぞババア。徹底的に調査して原因を突き止めてやる」

「無理しちゃだめよリュギオン。あなたはもう近づかないほうがいいと思うなぁ」

「いいや、行く」

「もぉ」


 翌日。

 朝も早くから、私たちは再度、村を目指すことになった。


 まずは、村がある山地全体、周辺を散策して検証する。

 まだこのあたりまでは、リュギオンもいつも通り。何の異状も感じていないようで、元気に歩き回れているようだった。


 しばらくあたりをウロウロしていると、岩壁の途中に、小さな洞穴の開口部分を見つけた。

 それは、水平方向に伸びている横穴のようだった。


「行くか」

「ええっ、入るの⁈こんなところ⁈」

「ババアはそこで待ってろ」

 すでにリュギオンは、松明をランタンのような非常灯に加工し始めていた。


 入り口部分は、ちょうど私の腰から下の高さぐらい。

 リュギオンは身を屈めて膝をついて、進入して行く。


「い、行くわよ、私だって。気になるもの」

 リュギオンを一人で行かせては心配だもの。また昨日のように異変が生じることもあるかもしれないじゃない。中で倒れられては大変だわ。


 洞口部には日光が差し込んでいたが、奥は完全に真っ暗で、暗黒世界のようだった。

 私はごくりと息をのむ。

 

 おそるおそるリュギオンの後ろについて行くと、灯りを照らした先に、巌窟内部が見え出してきた。


 狭い入り口部分とは裏腹に、中は広々とした空洞が続いている。


 洞内空間は比較的暖かい空気で満たされていた。また、地中であることも手伝ってか、湿度も高い。

 地下水の雫が、ぴちょん、ぴちょん、としとどり落ちる音。堆積物が細かく転がっている中に、小さな水たまりが点在する。

 珍しい洞穴生物たちも、たくさんいた。

 光の無い、暗闇世界で生息していたためだろう。目や皮膚が薄かったり白っぽかったり、透明化していたりといった、興味深い変化が見られる。


 神秘的なロケーションを二人でしばらく眺め続ける。

 唯一の光源である松明の火が燃え尽きそうになり、そこでようやく私たちは洞窟探検を終えて、後退することを決めるのだった。


 後退をして洞穴を脱出して、もといた開口部分の位置へと戻る。

 すると、息つく暇もなく、リュギオンは次なる調査へと乗り出した。


「微かに、細かい振動があったんだよな」

「そうなの?」

「ここの岩盤、地盤も堅いだろう。振動が減衰しにくいんだ。細かく伝わってきやすい」


 リュギオンは、岩壁や地面に手をついたり耳を直にあてたりして、環境調査に熱心に取り組む。

 周辺の岩盤内に発生する、微小で不規則な弾性振動の存在。

 彼はそれを指摘した。

 このあたりには、特殊な地層が形成されているという。

 通常は地下に隠れている基盤岩が、ここでは地表に顔を出しているために、振動がいびつな状態となって響くのだろうというのが、リュギオンの見解である。

 

「うーんと、ここがあの村から見て、東の位置にあたるでしょ〜、だからー」

 私が空を見上げて唸っていると。

「このあたりか」

 リュギオンは、地面に地図を描いてくれた。

 木の棒を使って、素早くガリガリと、とても精密な二階層の地図を作成するのだった。


 そうそう、そんなかんじよねー。

 ってことは。

 ん?洞穴の空洞部分って、村の真下に位置してる?



 私たちは移動を続けて、位置関係を把握したり地質を推測したり、環境音や、例の怪音波のデータを細かく収集していった。徐々に、村内へと近づいていくことになる。

 その間、リュギオンは平静を装ってはいた。


 だが、時折ふらついたり青い顔をしたりすることは多々あった。


「そろそろ限界なんでしょうリュギオン」

「平気だ」

「意地張らないで。下山しましょう」

「まだ平気だ」


「もう。じゃあ、ちょっと休憩だけでも。ほら、膝枕してあげるわよ」

「……わかった」


 私たちは、大木の根元に腰を下ろして、休憩を取った。


 木に寄りかかって座る私は、リュギオンの頭部を太腿の上に抱え、膝枕をしてやった。彼はごろりと寝転がり、仰向けになって空を見つめる。


 そこは、ちょうどいい木陰になっていた。

 風は心地よく、空気も美味しい。

 小鳥のさえずりや葉擦れの音が、優しく聴こえてくる。


 天国のような、楽園のような場所だった。

 私にとっては。


「苦しいのねリュギオン。今、まさに怪音波が聴こえてるんでしょう」

「……平気だ」

 私の膝を枕にして横たわるリュギオン。

 顔面蒼白で、冷や汗を流す。小刻みにガタガタ震えて、唇の色も悪い。

 明らかに異状が現れていた。

 人並み外れた精神力で、ギリギリ耐えている状態のようだった。



「もしかしたら、モスキート音みたいなものかもしれないわね」

「……モスキート音、とは?」


 私は、元いた世界にもあった、その音の効果を思い出していた。


「年を取ると、聴力も低下するからね。音が聴き取りにくくなっていくわけよ」  

 人間が聞き取れる周波数、音の高さ、可聴周波数帯域は、だいたい20Hzから20,000Hz。だが高齢者は、内耳細胞の老化、加齢性難聴により、音を聞き取る能力が低下しているのだった。


 超高周波音であるモスキート音は、苦痛を伴う不快音だ。

 高齢者には聞こえないという特性がある。


「……つまり、この怪音は、若者にしか聴こえないと?」

「私の元いた世界では、そんなモスキート音を、音響機器を使ってわざと発生させていたの」

「……何のために」

「若者を排除する目的で使用されていたのよ。もともとは、健全な青少年を、夜の繁華街や深夜営業のコンビニ前なんかにたむろさせないようにするためにね」


 人権侵害だという声も多く上がっていたようだけど。

 ネズミ避け、害獣対策で設置しているという飲食店も多かったし、そのうち住宅街の大通りや一般家庭のお庭なんかでも使用されるようになってたっけ。


「ここのは、天然のモスキート音、なのかも。さっき洞窟があったわよね。村の真下に、空洞の空間があるってことになるわ」

「……あの地下構造と、地形、地質、か」

 たとえ身体に感じないほど小さい振動でも、音だけが聞こえるということがあるらしい。

 地盤が振動すると、短周期の波動が空気中を伝播して音響、音波になる。振動が、重低音、鳴動音として聞こえる現象なのだろう。


 向かいには滝の流れる崖もあった。

 なんらかの要因が重なったことで、特殊な地響きや、地鳴り、山鳴りといったものが発生しているのかもしれない。


「……高齢者だけは、特に被害もなく無傷、ってわけか。怪音にも鈍い反応を見せて、高みの見物とは」

「そうね」


 日々ノーダメージで、のほほんと怪音波を聞き流していられるというのだから。

 皮肉なことに。

 年の功というか、数少ない年寄りのメリット、強みよね。


 その結果、こんなすてきな村で、平和に過ごすことができるんだもの。

 まさに、若者は住めない村。



「ねぇリュギオン、大丈夫、じゃないわよね。やっぱり」

「……俺は、訓練された軍人だ。このくらいの不調は、精神力で克服できる」

「無理しないで。早く山を下りなさいよ」

 

 私は、膝枕をしたまま、彼の頭部を撫でた。


「ここでお別れしましょう。さようならリュギオン」

「……なんだと?」 


「私はここにいるわ。この村でのんびり過ごしたいの。だから、あなたとは、ここでお別れよ」

「どういうことだ」

「あなたは戦場に戻らないと」

「いやだ。俺は、あんたと一緒にいる」

「戦場に戻って、あなたのいるべき世界で、なすべきことをしなさいリュギオン」


 リュギオン、あなたには、まだ向こうの世界でやるべきことがあるわ。

 こっちに住むのは、まだまだ先なの。

 私は、こちらで楽しく暮らすから。

 あなたは、あなたの世界へ戻らなきゃだめなの。


「逝くなババア!俺にあとを追わせるな!!」

「逝かないわよ、まだ。縁起でもないこと言わないでちょうだい」

「ババア」

「まだ、もうちょっとくらいは生きてるから、大丈夫よ。きっとまた会えるわ」


 真っ青な顔をしたまま、ゆらりと身を起こすリュギオン。

 さっきまで膝枕をしていた私の太腿部分に、今度は手を置いた。

 だらだらと流れる冷や汗、荒い息遣い。苦悶の表情を浮かべながら、彼は私を真正面から見つめた。


「顔をよく見せてくれ」

 彼の右手が、私の左肩をがしりと掴んでいた。次いで、その手が頬へと移動する。

 真正面から向き合わされ、私は、まっすぐに彼の姿を視界に入れることになる。


「え、あの」

 そうしてリュギオンは、じっと、私を見つめ続けた。


 私は、少したじろいだ。

 この緊張感には耐えられない。目線を逸らすしかない。

 私の頬にあった彼の手は、顎先、首筋、鎖骨、と、下のほうへと流されていっていた。


「ちょっ」

 とうとうデコルテ、胸部の位置にまで、下ろされていった。

 そうして、私の左胸に、彼の右掌が押しつけられたのだった。

「きゃ」


 む、胸ぇ、胸をさわられてるぅ!

 私は感情が昂り揺さぶられ、脈が早くなる!心臓音がバクバク言ってる!心拍数上昇!

 私の脈が乱れる!動悸が!鼓動が!


「鼓動が激しいな」

 彼は静かにそう言った。


 それは、単なる物理的な接触であった。

 手のひらの接地面が、ただただ胸部だったというだけ、といったふう。揉むとか、まさぐるとか、弄るとか、そういった生々しい触れ方ではなかった。

 脈を確かめているだけ、のようだった。


「……よかった。ちゃんと生きてるんじゃねぇかババア。驚かせるなよ」


 な、なんだ、ただの生存確認か。


「ちょ、ちょっと、そんな気安く、胸元に手をやらないでくれる?」

 ちょっと下垂気味とはいえ、女性の神聖な胸よ!だいたい、生存確認なら、首元の頚動脈でも、手首でもできるでしょうが!

「まったくもう、ほら立って。肩を貸すから。下山するわよ」

 

 リュギオンを強引に立たせ、歩かせる私。

 彼の右腕を肩に載せて、脇から支えようとした。だが彼は体重を私に預けることを遠慮してか、けっして寄りかかろうとはしなかった。私の肩を抱きはしたが、自身の筋力と体力だけを頼りに歩行をした。

 そうして、ふらふらとした足取りのまま、麓を目指す。


 色とりどりの花畑を横切る。

 果樹園や水源を横目に、山道を降っていく。


「あなたがこの土地に住めるような年齢になったら、また会いに来てよ」

 私は、努めて明るく、笑顔で語りかけた。

 

「その時にまだ私のことを好きでいてくれたら、結婚しましょう」

「……本当か?約束だぞババア」

「ええ、約束するわリュギオン」


「……わかったよ。ちゃんと待ってろよ。必ず迎えにいくから」

「うん、待ってるわ」


 山道の途中で、別れの挨拶をする私たち。


 リュギオンは一人、戦場のある方角へと帰って行った。

 私は、彼の姿が見えなくなるまでその場に佇み、見送った。



 ふう。

 お疲れ様、私。

 とりあえず、ちょっと、ゆっくり休もう。この村で、しばらくのんびり過ごしたい。


 なんだかとっても疲れちゃってるものね。

 お昼寝してゴロゴロしてダラダラして。朝風呂入ったりとか、自由気ままに、一日を過ごしたいわあ。それこそ、男子大学生の冬休み生活のように。


 こうして私の異世界道中記は、ここで一旦の幕を下ろした。

 すてきな冒険の記録は、このページで途切れることになったのだ。

 旅路のゴール、終着点をここに決め、旅仲間ともしばしの別れ。


 これまでの旅の疲れをのんびりと癒やし、体を休めて、それからのことは、また考えよう。

 さあ、朝寝昼寝二度寝して夜更かしして、ぐーたら過ごすわよー。怠惰な生活送ってやるんだからね〜。



 さっそく夢見心地。

 陽当たり良好な木陰で寛ぎ、まどろむ。自然とお昼寝してしまう私だった。


 今までたくさん、頑張ったわよね、私。ちょっとのんびりしたっていいわよね。ひとまず私、お疲れ様。

 いい夢を。


 おやすみなさい。

 




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





 そうして。

 どのくらいの歳月が流れたのだろうか。


 この村に居着いてから、ずいぶんと経った。

 元いた世界における長寿一族の基盤が発揮されたのか。もともとが長生き体質だったのか、この土地が合っていたのかはわからないけれども。


 私は、まだ元気に生きていた。



 村には、たまに行商人がやって来る。

 山頂付近にある村である。

 高地への商品の運搬は、とても大変な業務であることはわかる。だが。


「やあ、美しい村人さん」

「また来たんですね。もう騙されませんよ」

「つれないことを言わないでください瑠奈(ルナ)さん。遠路はるばる、あなたのお顔が見たくてここまで登ってきたのですよ」

「何ですか、この痩せる石鹸って」

「さすが瑠奈(ルナ)さん、お目が高い」


 ジオファラス様も相変わらず。


 怪しげな薬草や健康グッズの行商をしに、たまに、ふらりと村にやって来るのだった。

 懲りずに、様々な商品を売りつけてくる、この彼。

 親族がしでかしたことに対する丁重なお詫びと、処遇の報告を済ませたその後は、深刻な話題などは出してこない。もとの明るい商売人に戻っていった。

 

 よいジオファラス様と悪いジオファラス様がいるという。このジオファラス様が、あの時の悪いジオファラス様なのかどうかは、わからない。

 まったくの別人で、よいジオファラス様のほうなのかもしれない。

 もしかしたら代替わりなどをしていて、次の世代、新しい何代目かの店主さんなのかもしれない。

 でも、悪いジオファラス様がたまに紛れこんで来ている、なんてことも考えられたりもして、困惑している。


 また騙されているのかどうかは、私にはわからない。

 もちろん警戒を緩めることなく厳しい態度で接し続けているが、あれ以降、一切危害を加えられていないことはたしかなのだった。

 

 

 商売を終えて帰路に着くジオファラス様。そんな彼に手を振る。


 私は、深く息を吸い込んで、山の空気を味わった。

 村内を散歩しながら、のんびり空を見上げる。


「はあ、やばいわ。また衣装がキツい」


 ああ。

 だらけた男子大学生みたいな怠惰生活もそろそろ終わりにしないと。

 ダイエットも、身繕いも、怠ってはならないわ。日々年老いてゆく私だけど、最期の日を迎えるその時まで。願わくば、人様のお目汚しにならない程度には、清潔感くらい保っておかねば。


 今こそ、美容モチベーションを上げる時。美意識の鬼とならねば。

 つねに身綺麗でおらねば。なるべく、ファンデがのりやすい美肌も維持せねば。

 そうよ。

 棺に入る際に、死化粧を施してくださる方の身になって考えねば。


 決意を新たに、まずは屈伸運動などから始めようと、膝の曲げ伸ばしをする私。

 次に、ぶんぶんと両腕を肩から大きく伸ばして、振り回していると。


「おい、ババア」


 そんな声が聴こえた。


瑠奈(ルナ)

 私の名を呼ぶ、彼の声。


「リュギオン!」

 リュギオンだった。


「遅くなったな。待ったか?」

「ううん。早かったわね」


 リュギオンが村の入り口に立っていた。

 異変は生じていないようだ。ふらつくようなこともなく、頑強でしっかりとした足取りのまま、ずかずかと村内に踏み込んで来るのだった。


 リュギオンのもとに駆け寄って、間近でその姿をじっくり眺めて、私は驚く。

「わあ〜」

「なんだよ」


 まああ、すっかり立派になっちゃって。

 なんというイケオジ。


 ああリュギオン、なんて渋いオジ様になったの。


 年齢を重ねた分の皺が刻まれ、整ったお顔立ちを、より一層引き立てていた。

 目つき顔つきも、いくらか丸く穏やかに。落ち着きと貫禄が加わって、頼もしさと強者の雰囲気にさらに磨きがかかっていた。


 ああ、なんという、英雄おじさん。ロマンスグレーな、老戦士。

 白髪混じりの無精髭が、とってもワイルドセクシー。

 男の色気とか雄フェロモンとか妖艶で淫靡なオーラが、ぎゅんぎゅん飛んできて、なんかすごい。

 すごくて、すごいかんじ。

 やられる。やばい。やだ、思考が、めちゃくちゃ。


 えー、やだ、私、ときめいちゃってる。きゅんきゅんしてるぅ。

 つい見惚れてしまった。

 ぽわーんとしたまま、彼から目が離せないまま。

 はしたなくも、つい思わず口をついて出てしまった。


「やだ、好きぃ」

「おい、やっとかよ。恋に落ちるまで、どれだけかかってるんだよ」

「か、かっこいぃぃ〜」 

「恋愛が成立するまでに、一体どれだけの歳月を要するってんだ。まったく、のろいババアだぜ」



 若き傭兵リュギオン、改め、老いた傭兵リュギオン。


 彼は、私を抱き寄せた。

 私も、彼の背中に手を回し、ぎゅっとしがみついた。


 この先は、ずーっと離さない、離れない。


 そうだ、恋愛ダイアリーでもつけよう。

 彼の魅力と惚気を記した、恋の記録を書き綴っていこう。それはもう内容たくさん盛りだくさん。

 いくらでも、いつまでも書き続けられそうな気がしてきた。


 きっと、ずっと二人で幸せに過ごせるわね。





第10話 若者は住めない村! 「逝くなババア!俺にあとを追わせるな!!」

 ━━━ 終わり ━━━


「BBAヒロイン、異世界へ行く!」 完

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