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「BBAヒロイン、古代ギリシャっぽい異世界へ行く!」  作者: しょうりショウゲン
第10話━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

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第10話④ 若者は住めない村! 「逝くなババア!俺にあとを追わせるな!!」

━━━━━━━━━━━━━━


「それで、どこへ行くつもりだ?」

「若者の住めない村、というのがあるんですって」


「なんだそりゃあ。また怪しい観光情報に飛びつきやがって」

「文句があるならついてこないでよ。軍に戻りなさいって言ってるでしょう」

「俺はババアと一緒にいる」

「もぉー。あっ」

「どうした」

「荷馬車が来るわ。先に通してあげましょうよ」


 若者の住めない村、を目指す私たち。

 若き傭兵リュギオンと、私、瑠奈(ルナ)

 私たちは、途中のあぜ道で、行商人の一行とすれちがうことになった。


 それは、荷馬車を引く壮年男性と、お孫さんらしき子供たちだった。

 子供たちは、きゃっきゃと楽しそうに荷台を支えたり、はしゃいで追従をしたりしている。明るく商いを営む、仲睦まじい一家の姿が、そこにあった。


 あら、なんて微笑ましいこと。心温まる光景だわ。

 見ているこちらまで幸せな気持ちになるというものよねぇ。


 この先にある麓の町には、たくさんの商店が立ち並ぶ一角や通りがあるらしい。


 私たちはそこに立ち寄って、買い物などを済ませておくことにした。

 防寒対策用の衣類や、飲料水や非常食携帯食などなど。様々なものを買い込んで、山に入る事前準備をしておかねばならないのだ。


 のんびりとしていて平和そうな町内。小さな店舗が連なった商店街のような通りは、おだやかに賑わいを見せる。

 飴細工の店もあった。糖分補給にちょうどよさそうな甘味である。いくつか多めに買っておいて、山道での愉しみにとっておくことにしよう。


 

 

 準備万端、さあ出発。

 それからは、私たちはひたすら目的地を目指して、黙々と歩き続けた。

 山道をしばらく進み、登山道をひた歩いていると、山頂付近が見え出してきた。

 そろそろゴール、目的地である。

 噂の村に、ようやく到着しそうだった。だが。


 リュギオンは、急に立ち止まる。

 なぜか、木の幹に手を当てていた。


「どうしたの?」

「先へ行っててくれ。すぐに追いつく」


 なんだろう。また何かの環境調査か何かなのかしら。

 まあ、すぐに追いついてくるわよね。


 言われるままに、先へ進んでおく私。

 歩幅も歩くスピードも、段違いに差のある私たちである。多少私が先行しようとも、いつも特に問題がなかった。いつのまにか彼が背後に立っているというようなことも、よくあったからだ。



 私は一人、進んでいき、とうとう目的地の村の中へと入っていく。


「うわぁ〜すてき」

 色とりどりの花畑が見えて、思わず感嘆の声を上げてしまった。

 

 果樹園や小さな田畑もある。水車小屋もあった。

 山羊や羊などの家畜も、ささやかな数が揃っている。自給自足も叶いそうな、水源にも恵まれた環境であった。

 奥にあるのは広々とした居住区だ。淡いパステルカラーの色合いをした外観が目を引く。柔らかい印象をした建物が、十分な間隔をとった上で、ぽつぽつとランダムに建てられていた。


 風は心地よく、空気も美味しい。日当たり良好で明るくて、のどかな立地。

 村内はとても静かで、かすかに小鳥のさえずりや葉擦れの音が優しく聴こえてくるばかり。

 まるで、天国のような場所だった。


 まああ、素晴らしいわー。

 こんなところで過ごせたらなぁ。楽園のようだわ。


 若者は住めない村、これが、噂の村だった。

 たしかに、住民の年齢層は高い。

 村内には、不思議なことに、若者の姿が見えないのだった。


 あら、若者といえば。

 そういえば、リュギオンがついてきてないわね。

 

 あれから、けっこうな時間が経っていた。

 来た道を引き返しながら、きょろきょろとあたりを見回す。彼の姿を探すが、まるで見当たらない。

 坂道を降りて、小さな崖の真下を見下ろして、ようやく見つけることができた。

 なんとリュギオンは、私たちが最後に言葉を交わしたあの場所、あの位置に留まったままだったのだ。


「えっ、どうしたの、リュギオン」


 彼は、私が最後に見た体勢のままだった。あのまま、ずっと固まっていたようなのだ。

 木の幹に手をついたまま。

 なんということだろう。あのリュギオンが。木の幹に手をついたあれは、あの体勢は。

 具合が悪くて、ふらついていた結果だったらしいのだ。

 私は驚き、急いで彼のもとへと駆けつける。


「リュギオン、大丈夫?」

「……頭が、痛い。……耳鳴りがする。ババアは、平気、のようだな」

「えー、私はなんともないわよ。元気よ」


 ま、まあ、どうしちゃったのかしらね。


 頭をかかえて、木の幹に手をついて寄りかかるリュギオン。

 そんな彼の姿は、初めて見る。

 オロオロする私。そうして彼の背中をさすっていると、行商の荷馬車が近づいてきた。

 行商人の壮年男性が声を掛けてくる。


「大丈夫かい、おにいさん」

 それは、麓の町近くのあぜ道ですれちがった、あの時の彼であった。


「急に具合悪くなっちゃったのかい?」

「え、ええ」

「ここは無理せず、下山したほうがいいよ」

 麓の町にある店舗から、ここまで行商にやってきたらしい。日用品や生活必需品といった商品の数々を積んだ、移動販売らしき荷馬車だった。


「このあたりで、しんどくなっちゃう人多いんだよね」

「あのう、噂には聞いていたのですが……まさか本当に?若者は住めない村、というのは」

「ああ、それなんだよ。どういう原理かはわからないんだがね。うちのチビたちを見てみなよ、ほら」


 チビたち。それは、お孫さんたちのことらしい。

 すぐそこまで荷馬車を押したりして運搬を手伝ってくれていたという、子供たちの姿。

 見れば今は、道の途中で、手持ち無沙汰そうに暇を潰していた。


「あの道から先へは、進めないんだよ。いつも」

「まあ」

 行商人の壮年男性は、そう言った。


「村に近づくと、頭が痛いとか、耳鳴りがするとか言うんだよ。毎回そうなんだ」

「頭が、痛い?耳鳴り?」

 リュギオンの症状と、一致する。


「ま、まあ。それでは、子供さんと、この若者のリュギオンは、同じような症状で苦しんでいると?」

「うーん、たしかに私もね。親父に連れられて行商していたあの頃ね。若かった頃、ここで体調を崩すことがよくあったんだよねぇ。それが、年を経るごとに平気になっていってね。今ではなんてことないんだよ、これが。不思議な話なんだけど」


「まあ〜、それでは本当に、若者が住めない村……」

「しかし、おねえさんはずいぶん元気そうだね。なんともないの?」

「え、ええ」


 若者は住めない村……。私は、若者じゃないから平気なのか。平気で住めそう、ってことなのか。

 苦しむ若者リュギオンとは対照的に。私はまったく元気で、あんなにイキイキと村内を散策できていた。


 行商人の壮年男性も、平気で村内に入っていく。

 私は、彼と荷馬車に手を振って、見送った。


「歩ける?少しでも離れたほうがいいみたいよ」

「……ああ」

「とりあえず、あの子供たちがいるあたりまで戻りましょう、頑張って」

 リュギオンは、真っ青な顔をしていた。

 ふらふらと足元がおぼつかない彼の体を支えながら、坂道を下る私。


「大丈夫?」

「……ああ。ここでいい。少しましになった」

 村から離れると、いくらか顔色を取り戻すリュギオン。

 道沿いにある、大きな木の根。

 ひとまず、そこに腰を下ろして、様子を見ることにした。


 そうしていると、子供たちが寄ってきて、口々に話しかけてくる。


「おにいさん大丈夫?」

「……ああ」

「わかるよ、オレ。あの先へ進もうとすると、スッゲェ耳鳴りするんだもん」

「……耳鳴り、ああ、そうだな」

「きーん、ってかんじでしょ?ピィィィィ、ビビィィィ、かな?頭がぎゅううって、締め付けられるみたいに、痛くなるのよね」


 ともにあの行商人のお孫さんなのだろう、利発で可愛らしい、女の子と男の子であった。


「そうなの?私には何も聴こえないわ」

「えー、おねえさんはなんともないの?」

「おかしいなあ。今まで平気だったのって、オジサンオバチャンや、お年寄りばかりなのに」


 う、うん。そうねぇ。

 おねえさんは、見た目だけはなんとか若作りして保ってるだけで、実は中身は、きっと、そのオジサンオバチャンやお年寄りカテゴリーに属する存在なんでしょうねぇ。

 少なくとも、この奇怪な山からは、そう判断されたっぽいのよねぇ。

 だからこうして、全然平気みたいなのよねぇ。


 私は荷物をごそごそと探り、お菓子を取り出した。

 さっき麓のお店で買い込んでいた、登山中にカロリーを補うための、糖分補給用のおやつである。


「二人とも、おうちの商いをお手伝いしていてえらいわね。さあ、よい子たちには飴細工をあげましょうね」

「わあ、ありがとう、おねえさん」

「いいの?おにいさんの分もある?」

「あるわよ。遠慮しなくていいのよ、大丈夫大丈夫。ほらリュギオン君、あなたも飴ちゃんをどうぞ」


 私は子供たちに飴細工をそれぞれ手渡すと、もう一つ余っていた分を取り出して、強引にリュギオンの口内に含ませてやった。

 それが功を奏した。

 しばらくすると、甘いものを舐めて血糖値が安定したのか少しは元気が出たのか、リュギオンは、ゆっくりと立ち上がって体を動かせるようになっていた。


「よし」

「大丈夫?山を降りられる?」

「ああ、行くぞ」


「気をつけて帰ってね、おにいさん、おねえさん」

 子供たちは不安げに私たちを見守りながら、手を振った。


「じゃあな、ガキども。受け取れ」

 リュギオンは、ノールックで投げナイフを真上へ弾く。


 すると、頭上から子供たちの手のひら目掛けて、果実が落ちてきた。

 背の高い樹木、とても手の届きそうもない上部になっていた実を、リュギオンは採取してくれたのだった。


 果実と飴細工を抱えて、大喜びの子供たち。

 体調を悪くして倒れ込んでいた際に、気にかけてくれた子供たち。彼らに対する、リュギオンなりのお礼のようだった。


 あらあら、ふふふ。

 リュギオンったら、意外にチビッコに優しいわよね。

 いいところあるじゃないの。

 

 無愛想な若者と子供たちの織りなす、ひとときの、心温まる触れ合い。

 とても良いものが見れた。


 とはいえ、謎が深まる、この村の実態。

 まさに、若者は住めない村。


 謎を追求したいが、そうも言ってはいられない。

 私たちは撤退をするしかなく、その日はとりあえず下山を急ぐのだった。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 



「もう平気だ」

「そう?」


 麓にほど近い、低山の野営地。

 焚き火を囲んで腰を下ろして暖をとる。お湯を沸かして、温かい飲み物を胃に入れていくうちに、リュギオンの顔色は落ち着きを取り戻しつつあった。

 あたりはすっかり暗くなっていて、空には星が輝いて見える。


「はあ、さんざんな目に遭ったぜ。まさか戦場にいた時よりも、痛苦に耐えて消耗する事態があるなんてな」

「そうね。あなたは軍に戻ったほうがいいんじゃない?」

「戻るなら、ババア、あんたも一緒だからな」

「えー、私は……」


 木の棒を小さく振り回して、焚き火の周囲をざくざくと、つつく私。

 そのあたりで摘んだ葉っぱを煎じたハーブティーをすすったり、星空を眺め出したり。そうやって私が、この先の話の展開や返答の仕方に悩んで、言葉に詰まっていると。

 するとリュギオンは、こんなことを言い出した。


「あの女どものことなら、今頃決着が着いてるはずだ」

「え?」

「あんたに陰湿な嫌がらせをしていた女どものことだろう?もう心配しなくていい」


 え、リュギオン、気づいてたの?


「目撃情報や物証を精査して、上のほうに報告をしておいた」

「そ、そんな大ごとにしなくても」

「処罰の対象となるはずだ。俺たちが戻る頃には、隊を追放されて、しょっぴかれてるだろうよ」


「追放、って。罰されるほどの、そこまでのことは……」

「敵陣が差し向けた、刺客だったかもしれないぜ」

 し、刺客⁈


「よくある話だ、間者だよ。中核に潜入して、人間関係をめちゃくちゃに壊して、部隊の士気を下げようとするんだよ、工作兵が」

 そ、それって、サークルクラッシャー……。

 ていうか、スパイ疑惑ってこと?


「観念して口を割ればよし、それでもシラを切るなら、拷問にでもかけるべきだな」

「ちょ、ちょっと、彼女たちはふつうの女の子たちだったじゃない。物騒なことはやめてよ」

「たとえ敵の刺客じゃなかったとしても、けっこうな傷害事件を起こしてたろうが。危険人物どもには変わりない」

「で、でも彼女たちだって、そもそもは一途な恋心、好きな人への想いを拗らせてしまっただけで……ちょっと道を誤ってしまっただけなのに」


「なぜかばう。若い娘に甘いのは相変わらずだなババア。さんざん手酷い目に遭わされたくせに」

「うーん、私、基本的に、女の子たちとは楽しく仲良くしてたいのよね」

「なんだと。同性との馴れ合いなんかよりも、自身の恋愛事情こそが最優先事項だろうが」

「それは、人それぞれでしょう」

 

「あの女どもに俺を略奪されてもよかったっていうのかよババア。俺に対する執着はないのか」

「えー」

「戦えよ。他の女どもと争って、奪い合えよ。俺が他の女のものになってもいいのか。俺のことが大事じゃないのかよ」


 うわあー、めんどくさいこと言うわねー。


 やだわー。女同士で戦いたくなんてないわー。

 残念ながら、私もう、やる気も闘争心も覇気も気力も、そんなバイタリティとかギラギラした活力とか、ガッツとかファイトとかもないのよねー。

 ゆるーく、ぬるま湯で、みんな仲良しで生きていたいのよー。

 

「私は、戦場には戻らないわ。明日、もう一度、あの村へ行ってみたいの」

「じゃあ俺もだ。戻らねえよ」

「……もう」



 空を見上げる私。

 焚き火にあたって、アツアツの飲み物をすすりながら。防寒対策用の大判のショールにくるまり体育座りをして、満天の星空を眺める。

 ロマンチックな天体観測は、野営の醍醐味で、いつもとても愉しみにしているのだった。


「綺麗ねぇ」

 幸いにも、雲一つない。


 美しく澄み切った空気の中で、星々は瞬ききらめいて、輝きを放っていた。力強く光を発する明かりに、私は勇気づけられたり照らされたり導かれたり。

 

「えーと、あの一等星がデネブだからー、はくちょう座が、あれでしょー?」

 あら、はくちょう座といえば。

 スパルタ王妃レダ様と白鳥さんのお話があったわよね。その白鳥さんっていうのがまた、ねぇー。全能神様がまた、さぁ〜。


 ……って。

 いけないいけない、また神話の話に及んでは、リュギオンにどやされてしまうわ。


 私が口をつぐむと、その様子を察したかのように、呆れた表情を見せるリュギオン。

 だが彼は、小さく溜め息を吐いてから、こう問いかけてきた。


「ババアは、どういうのが好きなんだ?」

「え?」

「神どもの中でいうと、誰が一番好きなんだ?」


 え、珍しい。

 リュギオンが、神話の話題を持ち掛けて来てくれるなんて。


「え、神々の中で?」

「女に人気なのは、太陽神アポロンや伝令神ヘルメスあたりか」


「え、えー、やだぁ〜、順位とかつけられないしぃ。誰が一番とかないけどぉ。そもそも神々に対して、好きとかそういう恋愛感情みたいなものを持つのは、私なんか人間の分際でおそれおおいしぃ。でもねでもね、でも、推し、という意味でなら、言っていいかしら?あのね、やっぱり、なんてったって、プロメテウス様なのよねぇ〜!ああ、言っちゃった〜!照れるぅ!」

「ふーん、プロメテウス、ねぇ」

「星座の中なら、アリエス!牡羊座よね!黄金の羊ちゃんが好き〜!勇敢で可愛くて、モッフモフの羊ちゃん!もう、つい応援しちゃいたくなる魅力的要素が、めちゃくちゃに詰まってるわよね!」

「そういうのが好きなのかババアは」


「あら、あれは、こと座のベガ?」

「そうだな」

「わし座のアルタイルって、あれだっけ?え?どこ?」

「このあたりだよ」


 指差す私。その指の上に、そっと手を置き、正しい位置に導こうとしてくれるリュギオン。


 リュギオンは視力いいから、六等星も余裕で見えてるんだろうなあ。私は、せいぜいが二等星くらいまでだわー。


 満天の星を眺めながら、神話の話に興じる私たち。

 焚き火にあたり、星空を見上げ、温かい飲み物をすする、至福のひととき。野営カフェとでもいうべき、癒しのデートコース。

 リュギオンと神話を語る星空デートができる日が来るなんて、夢のようだった。

 

 私は、とっても幸せだ。




つづく!!━━━━━━━━━━━━━━━━━

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