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「BBAヒロイン、古代ギリシャっぽい異世界へ行く!」  作者: しょうりショウゲン
第8話━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

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第8話⑤ 詐欺師?の謎に迫れ! 「俺について来い!行くぞババア!!」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 鉱山の村を立ち去って、街道沿いの旅路に戻ったばかりの、そんな昼下がり。

 二人並んで、街道を歩くのは久しぶりのことだった。


「そういえば、本の内容のことなのだけど……」

「ああ、あれか」

「内容、どんなかんじだった?私、もう、気になっちゃって……」


 あれからは、何かと単独作業に追われ、二人でゆっくり会話を交わす機会がなかったのだ。

 私は、仙人さんの本の内容を聞けずじまいとなっていた。

 うずうずして、隣を歩くリュギオンの回答を待ち侘びる。

 だが。


「内容か。約九割以上が、講演会で話していたものと同じだったな」

「え」

 返ってきた答えには、肩透かしをくらってしまった。


「つまり、ただの自伝書。生い立ちについてや、幼少時の苦労、家族構成、若い頃の恋愛遍歴、就職状況なんかの話が、延々と自慢話を織り交ぜて書かれていただけだ」

「ええ⁈老齢初期に入った仙人さんが、寄る年波に勝てないと挫折を味わったピンチな状況、クライマックスの、その続きは⁈長寿の秘訣は?若見え、若返りの裏技、攻略法はどこへ行ったの⁈」


「その後の展開としては、だから山に住むようになった、とだけ書かれていた」

「え、ん?山に?」

「それと一応、最後のほうに、箇条書きで、心得のいくつかがあった」

「心得⁈教えて!それ教えて!」


「1、山に住む。2、質のいい湧き水を飲む。3、野草を食べる。4、殺生をしない」

「え、それだけ?」

「それだけだ」


 よ、要するに。


 山に住んで、綺麗な水飲んで、野草食べろってこと?

 殺生しない、って、肉食禁止?お肉食べるな、ってこと?菜食主義になれ、ってこと?


 な、なんなのそれ、山の草だけ食べる生活って!


 霞食べて生きてる仙人のようなものじゃない!そんな仙人みたいな食生活してたら、仙人みたいになれるに決まってるじゃない!


 そんな秘訣!長寿のコツを教えてもらったところで、実践できっこないじゃない!たとえ正解だったとしても!実行になんか移せないわよ!

 世の中には美味しいものがたくさんあるのよ!草だけ食べる人生なんかまっぴらごめんよ!お肉だって食べたいわよ!草以外のものも食べたいわよ!!


「……せ、仙人さんは、そんな生活を続けてらっしゃるの⁈それで300年生きられるっていうの⁈」

 浮世離れ、現実離れした理想論、綺麗事で片付けたような机上の空論。まるで真実味のないホラ話のような健康法である。

 であるが。不思議なことに。嘘は言っていないようなのだ。


 仙人さんからは、邪気や悪意はまったく感じなかった。



「考えられることは、みっつ。三通りある」

 ん?真相候補が、三パターンあるの?


「ひとつ、仙人のじいさんの言う通り、本当に300年生きてる」

「う、うん」

「ふたつ、自分の中で、勝手にそう思い込んでいるだけ」

「あ、あー」

「みっつ、そう思い込むよう、誰かに仕向けられている……騙されている」

「え」


 え。

「自分のことを?誰かに?操られてるの?それって、洗脳?え、何のために?」


 そういえば、肝心要の、リュギオンの必殺技。

 ヒューミント、人的情報収集技能、年齢当てテクニックとかは、どうなのよ。


「仙人さんの実年齢とか体内年齢、職歴とか思考癖とかって、わからないの?」

「そうだな。俺は、調子を崩しているのかもしれない」

 え、スランプってこと?


「あの薬売りヤロウ、ジオファラスともども。仙人のじいさんのことは、よくわからなくなってる」

「えー?まさしく、年齢不詳?」

「ババアの言ってた通り、思い上がりだったのかもしれないな。俺の知らない世界や人種、人間の性質なんて、無限にある。俺の思い描いている枠組みや範囲に収まらないやつらなんて、案外どこにだっているのかもしれない」


 あら、珍しい。弱気ね。


 じゃあ仙人さんは、本物かもしれないし、まがいものかもしれない、ってことなのよね。

 うーん。


 それにしても。

 リュギオンの不調、スランプも気になるわね。

 彼の明晰な頭脳は、世界や人々を救う素晴らしく貴重なものだものね。心配だわ。

 早く調子が戻りますように。



「はあ、まったく。鉱山の救助活動だの薬草採取だの、二度とごめんだぜ。面倒なことに巻き込まれたもんだ。旅程がめちゃくちゃじゃねぇか」

 街道を二人並んで歩くのは、とっても久しぶり。たしかに、あの時以来だった。

 リュギオンは、ぶつくさと愚痴を言い放つ。


「あら。人助けができて、清々しく爽やかな感情で満たされているのかと思ってたら。全然そんなことないのね」

「当たり前だろう。こっちの予定していたことも台無しだ。邪魔が入ったようなもんだ」

「ああ、そういえば」


 そうだったわね。

 リュギオンが行きたい所に付き合うって、言ってたんだっけ、あの時。

 行きたい所って、どこだったのかしら。


「結局、どこへ向かうつもりだったの?あの時」

 私は、気になって尋ねてみた。


 すると。

 彼は、衝撃の返答をした。


「連れ込み宿だよ」

「……連れ、込み」


 連れ込み宿、とは……!

 情事、性交渉を主な目的とした宿泊施設。連れ込み旅館。モーテル。ラブホテル、ラブホ……。


 ひ、ひぇっ。


「あ、あなたの行きたいところって、そこ?」

「ババアが言ったんだろう。どこでも付き合う、そう言ったろうが」


「いやあの、さすがに、そういうのはちょっと……ハードルが高いわ。し、敷居が高すぎて……私、またげそうにないわ。そこへ行って何をするというの。な、何もしないわよね?」

「何もしないわけないだろう。性交渉専用の宿だろうが」


 きゃああ!


「いや、無理無理ぃ、そんな場所、入るの無理ぃ」

「何をいまさら、清純派気取りは無理があるぜ。ババアが未通の生娘ぶるんじゃねぇよ。何十年と生きてりゃ、男と関係を持つ機会くらいは今までにも何度もあったんだろうが」

「やややめてぇ、こんな下世話な会話、したくないぃ」

「うるせぇババア、連れ込むぞ」

「やだぁぁ、連れ込まないでぇ」


「どうせ俺が初めてでもないんだろうが。別にババアに処女性なんて求めてねぇよ。ああ、いいよ、昔の男の話なんてなぁ、聞きたくもないからな。過去の相手のことなんて、どうだっていいんだよ」

 やだああ、何を言ってるの、この若者は!

 なんなの?こういう高度な諧謔(かいぎゃく)が、若者の間で流行ってるの?

 予想の遥かに斜め上をいく、苛烈で前衛的な小噺や、難解な頓知話(とんちばなし)には、いかに寛容な私でも、もうついていけそうにないわ!


「ちょっとリュギオン!卑猥な話題はやめなさい!いい加減にしないと怒るわよ!」

 セクハラよ!レディに下ネタ話振るほど、粗野で民度の低いクズ男だと思わなかった!


 私は、彼を強く窘め、きっぱりと拒否反応を示す。

 怒りの感情が伝わったのか、リュギオンは軽く息をついて、しぶしぶと譲歩を促し始めた。


「じゃあ、どこならいいんだよ?外よりゃましだろうが。勢いでその場で済ますことだってできるんだぜ?それをしないのは、あんたが嫌がりそうだからだ」


 そ、外?屋外!野外!


 たしかに、絶対、嫌だわ。

 そ、そうね。連れ込み宿は、たしかに、外でよりかはまし。

 屋根も扉もあって、水回りだってちゃんとしている。衛生面もプライバシーも乙女心も、一応はクリアーしている、のか?


 そう思うと、彼なりに、一応相手のことを思いやり、配慮はしてくれている、ということになる……。


 ……って、ちがうちがうぅ!

 どうして性交渉すること前提の話になってるのよ!

 そもそもしないわよ!そんなこと!


「連れ込み宿は、なしで。他に行きたい所はないの?」

「しょうがねぇな。じゃあ、俺の家か?」


 は?


「連れ込むのがだめなら、持ち帰るしかないだろう」

 やだ、私、お持ち帰りされてしまう。


「決まりだな。あんたは、俺の家に連れて帰る。いいなババア」

「いいわけないでしょ」

「外は嫌だ、連れ込み宿も入りづらい、だったら、どこならいいって言うんだよ。もう俺の家くらいしか残されてないだろう」


 いえ……冷静に答えるとするなら、そこは、普通のお宿でいいのよ……内装や雰囲気の小洒落たシティーホテルとか、湖周辺のロマンチックなロッジとかコテージとかでもいいのよ……。星空が綺麗に見える山上の山小屋ログハウスなんかでもいいのよ……。流星群とか一緒に見られるなら、それなら……。


 ……って、ちがうちがうぅ!

 どうして性交渉すること前提の話になってるのよ!

 そもそもしないわよ!そんなこと!


「大体、あなたの家って何よ、リュギオン。どこにあるの?」

「国だよ」

「……えっ」

「俺は、あんたと一緒なら、国に戻ってもいいと思ってる」


 ふいに、私の脳裏に、鉱山の村での出来事、記憶が蘇った。


 鉱夫に扮していた、あのSパルタ国のお役人。

 リュギオン様、と様付けをして呼んでいた、あの彼の言葉の数々を思い出していた。


 ーー『「リュギオン様は、今は、余暇を楽しんでらっしゃるだけ」』ーー

 ーー『「ひとときの息抜き、自由な旅を満喫し飽きたら、必ずや、我が国に戻ってきてくださる」』ーー



「戻るつもりなの?リュギオン……」

「あんたが、俺の国での暮らしを気に入りそうならな」

「………………」

「地位や名声、豪奢な衣食住に興味があるなら、くれてやるよ。国に戻れば俺は国宝扱いだ。それなりの暮らしは保証されるだろう」

「……そんなもの……!」


「興味がない、か?だったら何が欲しいんだよ、あんたは。何をちらつかせたら、俺に(なび)くんだよ」

「………………」

「あんたの気を惹くものは何だ?教えてくれよ」



 私は。

 私の欲しいものは?

 私が、求めているのは?


 ああ、私。

 この旅が、ずっと続くと思っていたんだ。

 そんなわけないのに。


 彼との旅を、楽しく感じてしまっていたんだ。


 いつかは、旅が終わる。

 彼も、もとの生活に戻るんだ。

 旅を終えて、国に戻って、もといた、自分がいた世界に馴染もうとするんだ。


 私は、自分が自由に旅をすること、それ以上に。

 彼の姿を見ていたかったんだ。

 逞しく、自由に、人生や青春を謳歌する彼の姿を見るのが、好きだったんだ、きっと。


 でも、ずっと見ていられるわけではなかった。

 彼は、もとの居場所へ戻る。

 旅は、終わる時が来る。どんなに名残惜しくっても。



 私も、きっと、もとの世界へと。

 自分が住む居場所へと。

 帰らなければならないのかもしれない。


 そろそろ、幕間の時間がやってきた。


 異世界道中記に終わりを告げる時も、やってくるのだ。




第8話 詐欺師?の謎に迫れ! 「俺について来い!行くぞババア!!」

 ━━━ 終わり ━━━

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