第8話④ 詐欺師?の謎に迫れ! 「俺について来い!行くぞババア!!」
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比較的採取しやすい、低山に生える薬草が、近辺にあるという。
リュギオンが採取してきた種類は、あらかた採り尽くしてしまったため、下位互換のもので賄おうとのことだった。
効能は今ひとつといったところらしいのだが。量を揃えることで、なんとか最低限の薬効が期待できるのだそうだ。
次の日は、みんなで山に入り、人海戦術で手分けして薬草摘みをすることになった。
そのお手伝いに参加している私とリュギオン。
山の景色や空気を心地よく感じつつ、目当ての薬草を探して雑草を掻き分ける。
よーく見ないと、見分けがつかない。
特徴をよく捉えて、つぶさに観察して、けっこう時間がかかる。
と思っていたら。
リュギオンは、ものすごい散策スピードで採取しまくっていた。山内の移動も判断も、早い早い。
いつのまにか、すでに手持ちのカゴは盛り沢山。
私のほうのカゴは、全然溜まってない。カラも同然なのに。対照的すぎる。
うーん、もっとわかりやすく見つけやすい、群生してるとことかないかしら。
そうして、私たちが茂みをウロウロしていた、そんな時のことだった。
「瑠奈ちゃん?」
私の名を呼ぶ、そんな声がした。
「おお、やっぱりお嬢さん!」
「せ、仙人さん?」
あの仙人さんだった。
なんということだろうか。なんと、齢300の、あの仙人さんと、ここ、山中で再会できたのだった。
ああ、奇跡、とはこのこと。
なんという運命の巡り合わせであろうか。
「お嬢さん、瑠奈ちゃんじゃったよね?この間、儂の講演会に来てくれた娘さんじゃろう?」
「は、はい!そうです!瑠奈ですぅ!」
「どうしてこの山に?どうして儂の住まいがわかったんじゃね?」
「あ、あの、それは、偶然に」
「うむ、まいったのう。追っかけ、というやつかのう、照れるのう。おお、なんとものう。齢300の仙人ともなると、人気者でまいるのう」
「ま、まあ、私、そのような。著名人の私的空間に立ち入るような、はしたない真似はいたしませんわ。信じてください、断じて、追っかけなどではありません。ここへ来たのは、たまたま偶然なのです」
私は、きっぱりと否定して、身の潔白を証明した。
同時に、思いの丈を率直にぶつけてもみた。
「……ああ、でも私。あなたのこと、仙人さんのこと、すごく気になっていたのは事実なのです。ここでお会いできて、とても嬉しく思います。私、あの時、本を買いそびれてしまって。それからずっと、どうしても内容が気になってしまっていたので……」
「おお、おお。そうかね、巻子装本の書籍、たしかに高価じゃからね。せっかく儂の書物に興味を持ってくれたというのに、買いそびれてしまったとは、なんとのう、かわいそうにのう」
素直に私の話に耳を傾けてくれて、同情までしてくれる仙人さん。
やはり、悪意も邪気も感じられない。
けっして悪い人ではないようなのだった。
「じゃがね、残念じゃけれど、瑠奈ちゃん。出版社さんや関係者さんとの厳しい契約があってのう。本は、儂から直接販売したりはできないんじゃよ」
真横にいたリュギオンの顔を、仰ぎ見る私。
リュギオンもまた、私のほうに目線を落としていた。
私たちは、お互いの顔を見合わせた状態。
考えついたことは、どうやら同じらしい。
もしかすると、この仙人さんは、利用されているだけなのかもしれない。
悪いのは、講演会の運営会社なのだろう。この無邪気な仙人さんは、ただ、旗頭に利用されているだけ、という可能性が高くなってきた。
きっと背後に、彼を操る悪徳業者がいるのだ。
「うむ、でも、ちょっとだけ。試し読みするくらいなら、どうじゃろう」
「まあ、よろしいのですか!」
「家にあるボロボロのものでよければじゃが。それを、ちょっとだけ、何遍か見るくらいなら……」
「ああ、ありがとうございます!」
すぐ近く、この山の中腹あたりにお住まいだと言う仙人さんに案内されて、彼のお宅にお邪魔する私たち。
到着すると、仙人さんはすぐに、奥の書斎らしき部屋から巻子本を出してきてくれた。
仙人さんの著作。
ロトゥルスと呼ばれる巻子装本の書籍。
縦幅30㎝ほど。ラップの芯のような筒状をしており、パピルスがくるくるとロールしている巻き物だった。
行間も狭く、改行もほぼない。文字がびっしりと詰まった、ものすごい長文の書だった。
私は、ごくりと息を呑む。
「俺が読む」
「リュ、リュギオン!」
「あとで正確に、ババアに伝えてやる」
「あ、ありがとう!」
きっと、本を読むのも、すっごく早いのであろうリュギオン。
文章を読み進めるのも理解するのも遅い私が、試し読みをした程度で読了した気になれるはずがない。だから絶対、リュギオンが読んでくれたほうがいいのよね。
速読法までマスターしているらしきリュギオンならば、期待できる。
文字を一字一字読む、というよりは。視野を大きく持って、一段落二段落ごとくらい、大きな画面として認識するんだっけね、たしか。視界全体を、まるで一枚の絵画のように、脳裏に焼き付けるかんじ、字面を視覚で、見る、ってかんじ、だっけ。
私は、そんな方法聞いたところで実践なんかできないけども。
ロトゥルスの一番外側には、標題が記された羊皮紙のカバーが付けられてある。
両端には巻物の幅よりも長い、出っ張った木の心棒が見える。これが巻き軸となっていた。
リュギオンは、片手で器用に巻いたり戻したり、もう一方の手で読み終わった部分を外側の心棒に巻き取りながら、読み進めた。
「よし、読んだ」
「ええっ、もう?」
「なんとのう、遠慮せんと、若い衆よ。もうちょっと読んでもいいんじゃよ?」
「大体わかったから返すよ、ほら。ありがとうよ、じいさん。これからも達者で暮らせ」
ものすごい速さで読み終え、内容を理解把握したらしきリュギオン。
くるくると綺麗に巻き直して、もとの状態に戻してから、仙人さんに返却をするのだった。
リュギオンが巻子本を丁重に扱って、仙人さんの両手にそっと渡し終えた、その時だった。
客人が訪ねて来た。
開け放されたままの玄関扉。外から、挨拶の声がした。
「フョードル翁、お元気そうですね」
「おお、ジオファラス様、お久しぶりですのう」
「まあ、ジオファラス様!」
「おや、二人とも。こちらに立ち寄っていましたか」
仙人さんのお宅を訪ねて来た客人。
それは、なんとジオファラス様だった。
「瑠奈ちゃんたちは、儂の熱心な追っかけですでのう。ちょうど、儂の著作を試し読みしていたところじゃて」
「ジオファラス様、仙人さんとお知り合いなのですか」
「仙人……ははは、そうですね。フョードル翁は、私がまだ幼少の頃からずっとこの調子で、お元気でやってらっしゃいますものね」
「なんのなんの、この山には、不老長寿の者が多くおりますからのう。ジオファラス様の調合してくださる持病のお薬や、滋養特効の薬草のおかげじゃと、もっぱらの評判ですじゃよ」
「ま、まぁ〜、そうでしたのね」
そうだったんだ。
ジオファラス様は、このような山中にまで、顧客がおありなのね。
移動販売のような形式で、人里離れた過疎地にまで足を運んでおられるとは。
リュギオンは、ジオファラス様が到着して以降、不穏な表情で無言のまま。
とても恐ろしい顔つきで、ジオファラス様のことを睨みつけていた。
それはまさに、遠山の目付。
職務質問で、警察官がよくやるやつ。
相手の目を見ながらも、遠くの山を見るようにして、指や手の動き、相手の後ろに立つ別の人物の動きまでもを視界から外さない。
相手の顔を中心に見ながらも、遠くの山を見るように相手の全体を見る、という視線の使い方をしていた。
完全に、ジオファラス様を不審者扱い。徹底的に監視し、マークしていた。
「さて、そろそろ鉱山のほうに戻りましょうか、瑠奈さん、リュギオン君」
薬草が入ったカゴや保管する袋の中は、もう、ぎゅうぎゅうになっていた。
仙人さんのお宅を目指す途中の道すがら、移動ついでにリュギオンが効率よく採集したものだ。
「みなさんのおかげで、必要な薬材もある程度集まりましたね」
「ああ、そうですよね……早く戻らないと。仙人さん、えっとフョードルさん、では私たちはこれで失礼します。貴重なご本を本当にどうもありがとうございました」
「なんの、また遊びに来てくだされね、瑠奈ちゃん、若い衆も」
私たちはお礼を言って、仙人さんのお宅をあとにした。
その後下山をし、鉱山の救護所に帰り着いた私たち。
しばらくは、採ってきた薬草を、薬研で擦り潰す作業に明け暮れるのだった。
こうして。
薬師ジオファラス様はもちろん、その場に居合わせた方々のお手伝いや尽力もあって、救助活動は捗り、事態は終息していった。
徐々に落ち着きを取り戻していく、鉱山の村。
私たちが立ち去る頃と時を同じくして、ジオファラス様もよその土地へ移っていた。
村人は皆一様に、ジオファラス様に心からの感謝をしていた。
彼は、利益度外視で手持ちの薬品を分け与えてくださったと言う。無償で鉱夫たちを救ってくださったのだと。
質の高い医薬品を調合すると評判の、高名でお忙しい薬師ジオファラス様。それだけではなく、お人柄にも優れた、心正しき人格者であったことが、今回の件をもって証明された。
「やっぱり、ジオファラス様はよいお方なのよ」
「そんなわけあるか、あの薬売りヤロウめ」
リュギオンは、様々なことを探ったり問い詰めようとして機会を伺っていた途中に、立ち去られてしまった、と憤慨する。
まだ納得はいっていない様子だが、まあ、しょうがない。
どこかで行商をなさっているのだろうし、また、近いうちに、いずれ会えることだろう。
つづく!!━━━━━━━━━━━━━━━━━




