第8話② 詐欺師?の謎に迫れ! 「俺について来い!行くぞババア!!」
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「おいババア、どこへ行くか早く決めろ」
街道沿いをふらふらと、のんびり散策。
街道筋に点在している目新しい土産物屋さんや物産展なんかを、あっちこっち眺めて回っていた私。
リュギオンにせっつかれるまで、これといった次の目的地が決まっていないことを忘れていた。
「うーん、どこに行こうかなぁ。リュギオンは?どこか行きたいところある?」
「俺が?」
「たまには、あなたが行きたいところに付き合うわよ」
リュギオンが行きたいところって、どこだろう。
若者が行きたい場所なんて見当もつかないわね。どんなところだったら喜ぶのかしら。
心地よい風が吹いていた。
暑くもなく肌寒くもなく、ちょうどいい気候の、過ごしやすい旅日和だった。
若き傭兵リュギオンと、私、瑠奈。
二人でこうして、ただ街道を歩いているだけでも、なんだか楽しかった。
「おいババア、さっき言っていたことは本当か?」
「え?」
「本当に、俺が行き先を決めてもいいんだな?」
「ええ、いいわよ」
「よし、わかった。俺に付き合え、ババア」
え。
「俺について来い!行くぞババア!!」
あら、何、そのノリ。
えー、どこ行くの?あら、いつになく強引ね。
腕を引っ張られる私。
もちろん、力の加減はしてくれてるようだし、痛くはないけども。
行き先の見当がつかない以上、やっぱりちょっとは不安になってくるし、緊張もしてしまう。
とりあえずの行き先を具体的に聞いておこうと、私がリュギオンに話しかけようとした、その時だった。
「あっ、あいつは……」
行商人が見える。
街道沿いで、商いをするジオファラス様だった。
「あの薬売りヤロウ、ジオファラスのやつめ」
女の子たちの行列に囲まれて、にこやかに接客をこなすジオファラス様。
「あのヤロウ……相変わらず、怪しい風貌しやがって」
「まあ。この地でも商いをされてるのねえ」
えーと、東北部の街道から、たしか、前にお見かけしたのは……。あれ。
え、商業圏広すぎない?
全国各地、東西南北、僻地や島国、小国と、どこに行ってもおられるような……。
え、まさか、お一人で回られてるのかしら。そんなわけないか。うーん、やっぱり、一族経営とかなのかしらね。
家族や親戚同士で似た容姿をしている方々が、手分けして移動販売をしているだけなのよね、きっと。うん、たぶん。
「何か聴こえる」
「ん?」
ふいに、リュギオンが呟いた。
そのすぐあとのことだった。重低音の地鳴り、ゴゴゴゴゴという地響きが、私の耳にも聴こえ出した。
「ええっ、これって?」
山のほうから轟音が響いたのだった。
「鉱山のある方角だ。崩落が起こったのかもしれない」
「ええ?大変!」
すぐにあたりは大騒ぎになった。
近くの鉱山で事故があったらしい。付近の住民や鉱夫の家族は、慌てふためき必死に懇願をする。
街道を行く旅人や行商人、客たちにも、救助活動への協力を仰ぐのだった。
「薬師様!ジオファラス様!お助けください!」
「もちろんですとも。微力ながら、みなさんのお力添えになれればと思っています。ただですね……外用薬は、あまり数を揃えていないのです」
怪我人がたくさん出ているという。
薬は、いくらあっても足りないくらいなのだろう。
ジオファラス様はあたりを見回して、申し訳なさそうに切り出した。
「……特に、軟膏剤や消炎鎮痛剤の手持ちが多くありません。どなたか、薬草を調達しに行ってくださいませんか?」
一瞬、周囲は、躊躇いと戸惑いの表情を見せる。
特殊な薬草採集には危険が伴う上、野草と山岳の知識、登山経験、ある一定以上の身体能力までが要求されるからだ。
「一刻を争います。なるべく早く往復してください」
ジオファラス様は、リュギオンのことをじっと見つめ、直々に指名した。
「なぜ俺が」
「君なら健脚でしょう、リュギオン君。目的の薬草は、高山の崖付近に群生しているのでね」
「お断りだ」
「ちょ、ちょっと、リュギオン」
「わかってるよババア、鉱山の救助活動にはたっぷり協力してやる。だがな、この薬売りヤロウの指示に従うのだけは、お断りだ」
渋るリュギオン。
そのやり取りを見兼ねたのか、ジオファラス様を熱烈に慕う女性客たちは、恐る恐る挙手し始めた。
「あ、あの!ジオファラス様の頼みごとなら、ワタクシが行きます!」
「ワ、ワタシも!」
「ア、アタクシだって!」
「お気持ちは嬉しいのですが、野犬も出る危険な地ですのでね。お嬢さん方には、ちょっと……」
「ああ、若い女の子たちが、慣れない登山、崖っぷちの岩場で、切り傷擦り傷咬み傷だらけになる過酷な惨状、見たくない!だめよ、そんなの!」
「なんだよババア」
私は、真横にいたリュギオンの二の腕を両手でぎゅうっと掴んで、懇願した。
「ねえリュギオン、行ってきて!お願い!あなたなら楽勝じゃない!」
「俺は、切り傷擦り傷咬み傷だらけになってもいいってのかよ。まったく、差別的なババアだぜ」
あなたは、Oリュンポス山の神々に愛された男、でしょう。
全能神様のご加護だってあるんだろうし、へーきへーき。実際、脅威の治癒力。傷の治りだって、ものすごく早いじゃない。
このお使いクエスト、リュギオンなら適任よ。
「ハーブを採取しに、フリークライミングで崖を駆け上がればいいんでしょう、そういうの通常業務じゃない」
「やれやれ」
「ご武運を!」
「しょうがねぇな、ババア」
あ、ついでに。
「ご安全にー!」
私は、右手の五指を揃えて、自らの右こめかみあたりにかざした。
「なんだ、それは。そっちはあまり響かないな」
あ、そう。
私は好きなんだけどね、これも。
「ご、ご安全に!」
「リュギオン様、ご安全にー!」
「ごー安全にー!!」
可愛らしい女の子たちの声が、高らかに響く。
彼女たちは、次々に、私の真似をしてくれたのだった。
それを皮切りに、頑張って〜、気をつけて〜などの声援とともに、周囲からは、ご安全にコールが轟いた。
この場にいたすべてのみんなが一体となって、重要な任務に就くリュギオンのことを応援していた。
わ、わあ。
すごい。すてきな光景。
こうしてリュギオンは、みんなからの期待を一身に受けて、盛大に見送られて行った。
「すてきな従者の方ですのね、リュギオン様とおっしゃるのね」
見送りを終えて、救護所のほうに向かう私たち。
すると道すがら、さっきの女の子たちが話しかけてきてくれた。
「アタクシたちの身を案じて、代わりに危険な地に赴いてくださったんですものね」
「なんと野生味溢れる美男子ですこと、あ、あらもちろん、ワタクシは、ジオファラス様一筋ですけど」
「無愛想に見えても、実は情に厚い、立派な方なのだわ」
「ふふ、そうなのよ」
うん、実はいいやつなの。リュギオン。
私の、自慢の旅仲間なの。
女の子たちにリュギオンのことを褒められて。
私はまるで、自分のことのように素直に誇らしかった。
リュギオンにはまたしても、ちょっと強引に頼み事を聞いてもらってしまったわけだけど……。いつにもまして、頼もしくって、ヒーローのようにすてきに見えてしまって仕方がない。
ありがとうリュギオン、無事に帰って来てね。
つづく!!━━━━━━━━━━━━━━━━




