第8話① 詐欺師?の謎に迫れ! 「俺について来い!行くぞババア!!」
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「そこのお嬢さん!」
あら、私?
やだー嬉しい。お嬢さんだなんて。
「すぐそこで、参加費無料の講演会をやるんじゃよ!ぜひ立ち寄ってくだされね、お嬢さん!」
ふらりと立ち寄った街でのことだった。
メインストリートに面した広場には、さまざまな人々が集い、おおいに賑わいを見せていた。
ここでは小規模なホールが乱立し、色々なイベントが開催されているようだった。
端には、さらに小さな催しをするための貸し会場がいくつもある区画があった。セミナーや講演、研修、展示をするためのレンタルスペースや、コンベンションルーム、貸し会議室など。
その前を通りがかった時、私は、お嬢さん、と呼び止められたのだった。
それは、催し物の呼び込みであった。
「ずいぶん嬉しそうだなババア、いや、お嬢さん……」
「だってー!高齢女子が呼ばれて嬉しい呼称、第一位!お嬢さん!」
若き傭兵リュギオンと、彼にババア、いや、お嬢さん……とか呼ばれる、私、瑠奈。
「ちなみに、二位と三位は?」
「あくまで私調べ、だけど。二位が、おねえさん。三位が、ご婦人とか。あとは、レディとか、マドモアゼルとかもよいわね」
「おねえさん、か。それくらいなら、呼んでやってもいいが」
「言うまでもなく、ババアなんてのは、ワースト一位だからね」
「ふーん。わかったよ、おねえさん」
「うんうん、いいわね。そうよ私は、お嬢さんで、おねえさん」
「講演会、無料じゃからね、お気軽に参加くだされね!お嬢さん!隣の若い衆も!お待ちしておりますぞ!」
呼び込みをしていた老人は、そう言い残して、立ち去っていった。
壁に立て掛けられた看板には、こう書かれてあった。
『仙人、来たる!』
『齢300!』
『300歳の翁が語る、長寿の秘訣!』
「わあ、仙人さんの講演会ですって」
「胡散臭いこと、この上ないんだが」
「ぜひぜひ、お話をお聞きしたいわ。300歳ですって。300年生きてるっていう仙人さんが、お話を聞かせてくださるだなんて。まあ、すごいわあ」
どうすれば若見えできるか、長生きできるか。不老長寿の秘訣を、秘密を教えてくださるだなんて。素晴らしい自己啓発セミナーだわ。参加費も無料だし、行きましょう、行きましょう。
「ありがたいお話を聞いていきましょうよ。意識高い成功者さんのお話なら、聞いてるこちら側まで感化されて、幸運にあやかれたり、よい影響が現れるかもしれないもの」
「講演会、ねぇ」
「『実年齢よりも老けて見えて体内年齢もガッタガタヨッボヨボだった儂が、若返った上に長生きしてまさに不老長寿を地でいってる件』っていう演題よ」
「そんな講演内容で客が入るのか」
小規模のコンベンション会場に入場すると、百人近くはいるであろうお客さんたちが、すでに着席していた。
会場内の椅子はほぼ満席。
焦って、急いで空席を探す私。
幸いにも、後ろのほうの端っこに二人分の座席を見つけて確保することに成功。そうして私たちもようやく席に着けたのだった。
それからすぐに、主役である講演会の講師は登壇した。
一段高い壇上から、満面の笑顔でもって挨拶をする、この人物。
それは、先ほど呼び込みをしていた老人だった。
私をお嬢さんと呼んでくれた、あの彼である。
あの彼が、仙人さんだったのだ。
齢300。300年も生きているという、仙人さん。
まずは挨拶と自己紹介から始まり、次に、会場内のお客さんたちとの軽い会話のやり取りが交わされた。
どこから来ました?おいくつですか?などなど。客席とのコミュニュケーションを通じて、会場内の雰囲気はしだいに温まっていく。
「そこのお嬢さん、お名前は?」
「瑠奈ですぅ」
「瑠奈ちゃんか、よい名じゃね」
「まあ、瑠奈ちゃんだなんて!私、もう若くないんですのに〜。やだ、ちゃん付け〜」
「なんのなんの、齢300の儂から見れば、町娘さんもいいところじゃよ」
まあ、町娘ポジションですって〜やだ〜嬉しい!
会場内は、おおいに盛り上がっていく。
そうして、ようやく仙人さんご自身のお話に入っていった。
生い立ちについてや、幼少時の苦労、家族構成、若い頃の恋愛遍歴、就職状況、などなどの内容に繋がっていったのだった。
「おいババア……いや、瑠奈ちゃん、いいかげん帰らないか?」
「やだリュギオンまで、ちゃん付け〜。いいわねいいわね、もっと呼んでみて」
「もう帰ろうぜ、瑠奈ちゃん」
「え〜やだ〜、もー」
ああ私、ぐんぐん若返っていくわ〜。
私はすっかり気分がよくなり、ニッコニコ。
この仙人さんのお話に、ますます興味関心を持つ。
が、それは、よいところで中断された。
老齢初期に入った仙人さんが、寄る年波に勝てないと挫折を味わったピンチな状況、クライマックスもいいところに差し掛かった時のことだった。
「続きは!この書物で明かしますぞ!」
仙人さんは、巻き物の本、巻子装本の書籍を掲げた。
「儂の本!ぜひぜひ買ってくだされね!」
「……情報商材、売りつけられてんじゃねぇか」
「え〜どうしよう、気になるぅ!読みたい!買っちゃおうかしら!でもいいお値段するわよね」
私が迷っていると、周囲のお客さんたちは次々に立席していく。会場内の隅に設けられた物販ブース、グッズ列に並びだすのだった。
本は、飛ぶように売れまくる。
「あ、ああ〜、あっという間になくなっていくわ〜。売り切れちゃうかも〜みんな買ってるし、私も、やっぱり買っちゃおうかなぁ、並んでこようかなぁ」
「思いきり、仕込みの役者だな」
「え、役者さん?」
「ほとんどがそうだろ。よく見ろ」
「あ、あのお客さんたちが?」
え、サクラを雇ってるってこと?
他のお客さんたちの購買意欲を煽るための、心理作戦?
「完全に詐欺だろ。カモにされてんじゃねぇよババア。たやすく騙されるんじゃねぇ」
「そ、そんな」
「物販で稼いでるってことだ。講演会そのものは無料でも、会場入りした客からは、策を講じて、がめつく搾り取る運営方針なんだろうよ」
いわゆる悪質商法。催眠商法と呼ばれるものだと言うリュギオン。
無料サービスや無料体験などを謳う他、日用品などを破格値で売買するといった集客や勧誘をしてから、最終的には、別の高額な商品を買わせるという手法らしい。
閉め切った会場内に人を集めて講演を聞かせて、一定方向の心理状態を繰り返させることで正常な判断力を鈍らせたり、射幸心を煽ったりといった意図があるのだという。
……え、ええ。
そういう話、聞いたことあったけど。
え、まさか、今の、これがそうなの?
「ああ、でも読みたいわ。どんなことが書かれてあるか、内容が気になるもの。この際、たとえ詐欺でもいいから。お金をドブに落としたとでも考えてみるから。それでもいいから、本を買いたいのよ。今回だけ、ねっ、今回、一回だけよ」
「やめとけ。一度でもこういった類いに購入履歴が残ると、やっかいだぞ。これからもずっと一生、詐欺師どもに付きまとわれる人生を送ることになるからな」
「え」
「顧客名簿ならぬ、愚か者名簿に載るんだよ。詐欺師どもの間で取り引きされる、いいカモにできそうな良客名簿だ」
「お、愚か者名簿……!いいカモ名簿!」
「詐欺に簡単に引っ掛かるような思慮浅いやつはな、次もまた、たやすく引っ掛かる確率が高い。それを見越した全国の詐欺師どもが、成功確率の高い獲物に狙いを定めて、押し寄せて来るんだよ」
「え、こわ」
「海千山千の専業詐欺師どもに本気で狙われて足元を掬われれば、たとえ知識人だって危うい。まともな判断が下せない場合だってあるくらいだ」
「う」
「だから、関わらないのが一番だ。最初から。少しでも危険だと感じた輩には、自分の情報を晒すなよババア、わかったか」
「わ、わかったわ……」
リュギオンにそこまで言われて説得されて、私は泣く泣くあきらめた。
何も購入せず、手ぶらで会場をあとにしようと、出入り口付近を目指す。すると、同じように帰っていこうとする他の客たちの姿が目に入った。
なんと、出入り口付近は運営スタッフたちで固められていた。
封鎖も同然。回れ右をして物販ブースへの行列に並ばされるような動線が配置されており、暗に誘導されている状況だった。
運営スタッフや販売員たちからの無言の圧力も凄まじく、とても商品未購入のまま帰れる雰囲気ではなかった。
あ、ああ。
そういうことなのねー。
たしかに悪質な商法。悪徳業者、運営スタッフだわ。
とはいえ。これは、ぎりぎりのラインを攻めた、たちの悪いグレーな線引きを狙っての犯行なわけで。販売業者は、詐欺罪や特定商取引法違反によって処罰の対象となってほしいところだけども。この異世界においては、法整備がまだまだということで。
取り締まったり、成敗したりスッキリ討伐、というわけにはいかないのだった。
わあ、モヤモヤするー。
リュギオンは出入り口付近まで、あえて足音を立てて大きな動作で向かっていく。それから、あたり一帯に睨みを利かせてすごんでみせた。
すると、たじろいで怯む運営スタッフたちが続出。固めていた出入り口に、隙が生じる。
リュギオンは先陣を切って、扉を派手に開け放し、退場して見せた。
続く、私。次いで、他の客たちも。
こうして。
私たちと、財布を出さずに帰りたがっていた他の客たちは、無事会場をあとにすることができたのだった。
……はあ。やっぱり、すごく不愉快な気分よねぇ。
まさか自分が、よく聞く悪質な商法に引っかかりそうになってしまったなんて。自分の愚かさが情けなくなって、つい自分のほうを責めてしまいたくなるし、恥ずかしくて誰にも話したり相談できなくなってしまう。そういった心理状態に陥ってしまうわよね。悪徳業者たちは、そういった心理にも漬け込んで高笑いするのよね、悔しいわ。
……でもねぇ、悔しさや情けなさという心情、それ以上に、まだあの仙人さんの本の内容が気になっている自分もいるのよねぇ。この期に及んでまで、私ったら好奇心の塊。うう、ちょっと自己嫌悪だわ。
とぼとぼと歩く私。
街道筋に戻って、旅路を進んでいると。
「おい、瑠奈」
「えっ、急に、何よ」
リュギオンが、ふいに私の名を呼ぶ。ババアではなく。名前で呼んでくる。
甘い響きだ。
自分の名前を呼んでくれる。たったそれだけで、彼の声質までもがとてつもなく美しく聴こえてくるのだから、不思議なものだ。
「瑠奈さん……」
「えっ?なぁに?」
「瑠奈さん……嬉しいか?呼び名くらいで?こんなことが、そんなに?」
「嬉しいわよリュギオン君。いいじゃない、さん付けも」
というか、そもそも、今までがおかしかったのよね。
ババアって。
一周回って、ババアなのにその仕上がりはすごいですよね、という一種の敬意や賛美を込めて、あえて呼ぶとかいう、わけのわからない意図や文化があるのか何なのか知らないけどね。ふつうに蔑称なんだからね。
「わかったよ、瑠奈さん。これでいいか?」
うふ。年長者に対する正しき言葉遣いとしては、タメ口とかの友達口調ではなく、さらに敬語も要求したいところだけども。まぁいいわ。
リュギオンに、瑠奈さん、瑠奈さんと呼ばれるたびに、気持ちが若返るかんじ。
うふふ、いいじゃない。
「それで、次はどこへ向かうんだババア」
……速攻で飽きたらしき、リュギオン君。
いつも通りに、目的地の設定をせっついてくる、相変わらずの彼らしき言動。
まあいいや。
ほんの少しの間だけでも呼び名を変更してもらって、ちょっとは若返ったし。
よい気分転換になったわ。
つづく!!━━━━━━━━━━━━━━━━━




