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「BBAヒロイン、古代ギリシャっぽい異世界へ行く!」  作者: しょうりショウゲン
第6話━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

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第6話④ リュギオンの帰郷? 「俺は、ババアについていく!!」

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 お子さんが母親にしてほしいことって……。

 うーん、そうねぇ。


 甲斐甲斐しく身の回りの世話を焼いてほしい、とかよね?自分でできるような簡単なことであっても、小さなことでもいいから自分のために尽くしてほしいんでしょう?甘えたいんでしょう?


「まずは、やっぱり手料理よね。ただ、ひとつ問題があるのよ」

「なんだよ」

「私、料理苦手なのよ」

「そうだな」


 う。

 そうよね。

 これまでの道中、さんざん私の手先の不器用さ、見てきたわよね……。料理下手なのも知ってるわよね。


「お料理だけじゃないのよねー。お裁縫もお掃除もお片付けも。私、家事全般が不得手でねえ」

「俺は得意だ」

「そ、そうよね。リュギオンは、なんでも器用にこなすものね」


「手料理も、それに、母も。俺は求めてない」

「リュギオン……」

「あんたのことは、一人の女性として見てる。そう言ってるだろ」


 手摺りに向かって真横に並んだ、私たち二人。


 船が揺れた。

 私はバランスを崩して、よろけるしかない。

 対して、体幹が強く、けっして軸がぶれないリュギオンは、抜群の安定感で微動だにしていなかった。


 腕を静かに伸ばして、私の上体を支えてくれる。


「あ、ありがとう」

「ああ」


「あ、あの。もう大丈夫よ……離してもらっても」

「もう少しだけ」

「えっ」

「このままでいてくれ」


 リュギオンは、そっと私を抱きしめた。


「締め殺したりしねぇよ」

「う、うん」


 ずいぶん力を加減してくれているのは、わかる。

 優しく触れてくれているのも。


 乱暴さは、一切ない。

 遠慮がちに恐る恐る、触れてくる。私のことを、まるで壊れ物のように丁重に扱ってくれているのは、伝わってくる。


 そうして、そのまま。

 陸地に着くまで。私は彼に支えられ、そっと抱きしめられていた。


「ほら、陸地だぞババア。地面が見えるぞ。もうすぐ土に着くぞ、喜べ」

「う、うん」


 目的地である港町。

 もう少しで到着するという、その時だった。


「あっ!あれは!」

 リュギオンが急に声を上げた。


「あいつ!」

「ど、どうしたの?」

 彼は、着港先に、何かを発見したらしい。

 遠目なので、私には確認できないが。視力のよい若者で高給傭兵で、高等職能をたんと積んだ彼になら、きっとたやすく判別できるのだろう。


「あれは、あの時の薬売りだ!」

「え」

「あの薬売りヤロウ!ジオファラス!」

 

 港に近づくにつれて、私の目にも見え出してきた。

 にぎやかに商売をする物売りたち。たしかに、その一角には、薬売りの存在があった。

 あの時、街道沿いで路上販売の行商をしていた、あの薬売りさんの姿だった。


「あの野郎!今度は逃がさねぇぞ!」

 怪しい強壮剤を私にくださった、薬師様。

 お名前は、たしか、ジオファラス様。


 私も、もう一度お会いしたい、お話ししたいとは思っていた。だって目的が気になるものね。




「おい!てめぇ!ジオファラスと言ったな!」


 リュギオンは港へ降り立つやいなや、ジオファラス様が荷を広げる商いの拠点に怒鳴り込んでいく。

 すると。


「おや、男性のお客様とは珍しいことだ」

 ジオファラス様は、笑顔で迎えてくれる。


「日頃から新規の顧客獲得には、頭を悩ませておりましてね。多様な客層こそ、市場拡大、商売繁盛の決め手。君のような青年も大歓迎いたしますよ。ただですね、列にお並びくださると、大変ありがたいのですがね。お待たせして申し訳ないのですが、皆さん順番ですのでね。どうぞ、最後尾はあちらになります」


 疑惑の薬売り、ジオファラス様は、にこにこと微笑んでいた。

 悪びれた様子など一切なく、マイペースに行商を続けるのだった。


「……逃げる気はないようだな。しょうがない、今日の商いが終わるまでは待ってやるよ」


 行列に並んでいた方々にも冷たい目でいなされ、リュギオンは渋々とそれに従った。

 仕方なく私たちは、最後尾の札を掲げながら、自分の番を待ったのだった。



 そうして。

 ようやく順番が回ってきて、ジオファラス様に話しかけても許される時間を得られた私たち。


「あのぅ、ジオファラス様」

「ああ、美しい旅人さん」

「私を、覚えておいでですか?」

「ええ、もちろんですとも。先日、常備薬を何種類かお求めになってくださいましたね。お綺麗な方のことは忘れられないものですよ。あなたは特に、(ひたい)の形に秀でていらしたので」


 ジオファラス様は、静かに指先を伸ばして、私の前髪をふわりと掻き上げた。

 彼の中指の腹が、私の(ひたい)を突く。

 次の瞬間。


 バッシィィ!!という平手打ちの効果音。


「さわるな!ババアに何するんだ!この偏物薬売りヤロウ!」


 リュギオンは対応素早く、ジオファラス様が私の(ひたい)に触れた瞬間、1秒2秒もしない間に、あっという間にその手をはたき落としていた。


 ひ、ひたい。

 え、(ひたい)って、褒められるところなんだ……。

 彼から見ると、(ひたい)が美しいのか、私。


 そんなパーツに着目する、この彼、ジオファラス様。

 リュギオンの言うとおり、なんだかどこか、掴みどころがないというか、何を考えているかわからない、というか。

 たしかに、目的も思考の傾向も推測の範囲に収まらない。言動が予測できない人なのかもしれない。


「ジオファラスと言ったな、どういうつもりだ!ババアに催淫剤なんか渡しやがって!」

「ああ、あれ。お役に立ちましたか?いいのですよ、お礼など」

「いえ、私は結局、ひと舐めもしていませんので……彼が、実況見分で毒見してしまって」 


「おや、それはなんと、もったいないことを」

「ふざけるな!あんな媚薬をババアに渡してどういう目的だ⁈ババアが淫乱になったらどうなってたか!そのへんの男相手に簡単に股開いてたとこだっただろうが!」


 リュ、リュギオン、やめなさい……。

 生々し過ぎる……想像しただけで痛々しいわ。


「君が、毒見?彼女に処方された医薬品を勝手に服用したのですって?ああ、なんてことを」

「なんだよ、薬売りヤロウ」


「医薬品は、用法、用量を守って使いましょうね。誤った使い方をすると、期待される効果や安全性に影響が出ることがありますよ」

 ジオファラス様による、服薬指導が続いた。

「お客様それぞれの症状、体質、体力、年齢などを考して処方しているのですからね、誰にでも合うというものではないのです。特に、消炎鎮痛解熱薬などに対しては、過敏症の方もいますので、どんな事故が起こるかわかりません。ですから、処方された医薬品は他人が使用してはいけませんよ」


 ご、ごもっとも。


「俺の毒見検証の結果を、適当にはぐらかして言い逃れするつもりか!ババアが淫乱になる飲み物なんて害でしかない!二度と配るなよ!在庫を出せ!残すことなく叩き割ってやる!」

「おやおや。君も含めて、世の男性はもっと女性の娯楽に寛容さと理解を示すべきかと」

「なんだとぉ?」

「人生に彩りと潤いを。退屈な毎日に、甘美な刺激と興奮を。私は、美しいご婦人方に、密かな愉しみを享受して差し上げているだけなのですがね」


 ジオファラス様は、堂々と、声高らかに言い切った。


 悪びれる様子は一切ない。

 まったく悪気はないようだ。

 それどころか、女性の娯楽の手助けにと、親切心から厚意で配っているだけとでも言いたげだった。


 そ、そういうお考えの方でいらしたのね……。

 ……とりあえず、悪い人でないのはわかったわ。



「帰りましょうリュギオン。ジオファラス様、お騒がせしてすいませんでした」


 私は、ジオファラス様を問い詰めるのはやめにして、リュギオンを制することにした。


「ねえリュギオン、あれは、若いあなたが飲んだから、効き目が強く効きすぎたのではないかしら。男性と女性でも薬の作用っていうのは、全然ちがって出るものなのだろうし」

 マカとか、スッポンとか。オットセイとかオオサンショウウオとかよねぇ。

 若い男性が食すとそういった効果が覿面でも、私のような層にはねぇ。

 マカなんか、ふつうに栄養サプリだし、スッポンスープもただの健康食品だしねぇ……。


「枯れた私が飲んだところで、せいぜい体調がよく感じる程度だったんじゃないかしら。そう、ジオファラス様の最初の説明通りに、栄養剤程度の効能にしかならなかったんじゃないかと思うわ」


 あとは、踵のカサカサが治ってしっとり潤うとか。ドライアイがよくなって、瞳の輝きが戻るとか。

 まあ、その程度だと思うわ。

 若い娘さんならいざ知らず。

 老齢者の活力や生気って、医薬品ごときで上げたり下げたり手軽にコントロールできるものでもないだろうしねぇ。

 よくも悪くも、そこまでの影響力があるとは思えないわ。


「ジオファラス様は、悪くなかったのよ」

「ババア、あんたなぁ!」


 わあわあぎゃあぎゃあと、私たちは一悶着。

 無理矢理リュギオンをいなして連れ帰るしかない。私はジオファラス様に頭を下げて、挨拶を済ませようとした。


「それではジオファラス様、さようなら」

「ああ、お待ちを。美しい旅人さん、お名前は?」

「え、あ、私、瑠奈(ルナ)です」


「そうですか、瑠奈(ルナ)さん。旅を続けるなら、またどこかでお会いできるかもしれませんね。私はたいてい、街道の大きな分岐点や港などで行商していますので」

「まあ、そうなのですね、私、またぜひお会いしたいです」

「ええ、また、お気軽に立ち寄ってくださいね。ああ、用心棒の君もね、たしかリュギオン君。お待ちしていますよ」

「…………………」


 こうしてジオファラス様は、店じまいを済ませると、船に乗って次の行商地へと旅立っていった。


 リュギオンは、挨拶も無視で睨みつけたまま。ジオファラス様に対する警戒を解かないまま、彼の背中を見送った。



 とりあえずのジオファラス様への誤解は、これで解けた。疑惑も晴れた。

 懐かしい方との再会は、やはり嬉しい。


 旅の手助けをしてくださる行商人の方々。

 薬師様とも、この先、またどこかで会えることだろう。


 道中記をにぎやかに彩る。

 旅の楽しみが、励みが、またひとつ増えていったのだった。




第6話 リュギオンの帰郷? 「俺は、ババアについていく!!」

 ━━━ 終わり ━━━

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