第6話③ リュギオンの帰郷? 「俺は、ババアについていく!!」
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と、その時!
「ぎゃああああ!」
男たちの叫声があがった。
「リュギオン!」
リュギオンが到着し、私にまとわりついていた男たちを一掃したのだった。
ほんの一瞬での、一掃。
何人もの男たちが顔面を殴られ、吹っ飛んで宙に舞っていくその様は、圧巻としか言いようがない。
た、たすかったぁ〜。
私のピンチを救ってくれる、頼もしい騎士様というか特撮ヒーローというか用心棒というか。今回ばかりはいつも以上に、素直に、リュギオンが素晴らしい英雄に見えてしまった。
「な、何だ、テメェ!」
「クズどもが、俺のババアにさわるんじゃねぇよ」
「おい、おまえら!来い!やっちまえ!」
リュギオンからの突然の暴力行為に、メンツを潰された男たち。対抗手段としてだろう、男たちの仲間らしきチンピラ集団が呼び寄せられた。
路上にたむろしていた喧嘩好きで暴れたがりの不良水夫たちも加わって、あっというまに大勢に取り囲まれてしまうリュギオン。
あああ、バトル展開!
戦闘が始まっちゃったー!
「だ、だめよ〜剣技は!街中で刀を抜いちゃだめなんだからねー!」
「ふん、わかってる。素手で十分だ」
リュギオンは武器の使用を封印して、拳闘のみで、この多人数を相手に立ち回るつもりらしい。
右拳は顎に置き、右腕は肘を右脇腹にくっつけて、腹部も右肘で防御していた。左拳は目線より少し高い位置に構え、左肩で顎を護る。
常にガードを崩さない、拳の構え。
とても美しい、拳闘フォームだった。
構えを保ちながら、頭や上体を上下左右に動かしたり、Uの字を描くようにスイングした。
半歩下がったり左右に揺れ動いたりと、俊敏な体重移動、優雅で華麗なサイドバックステップも織り交ぜて。
これで、敵は的を絞りにくくなるというわけだ。
ウィービング、ダッキング、スウェーバック、膝の屈伸を巧みに使った回避と防御テクニック。身の捌き方ひとつで、次々と敵の攻撃をかわしていく。
頭を軽く振ってかわすヘッドスリップなども混ぜて、冷静さと余裕っぷりを見せつける。
おお、本物のボクサーさんみたい。
階級はどのくらいかしら。
そういえば、リュギオンの体重って、何㎏くらいあるんだっけ。
ミドル級が、72.57kg以下だから〜、そんな軽くはないか。
スーパーミドル級が、76.20kg以下。
ライトヘビー級が、79.38kg以下。
クルーザー級が、たしか、90.72kg以下よね。え、もしかして、それ以上あるのかしら。
ヘビー級?90.72kg超え?
そうこう言ってる間に、リュギオンの反撃が始まっていた。
まずは敵に撃たせて疲弊させ、一人一人の動きを鈍らせてから、そこを攻撃するという戦法だったらしい。
相手との距離を測り、牽制し、フェイントをかける。リーチを最大限に生かした長距離攻撃。
次いで、体の回転で遠心力を使った、巻き込むようなフックが放たれた。
相手の視界外から打ち込むショートフック。そこから始まるコンビネーションは、ボディブローと繋がっていく。
リバーブローと呼ばれる、肝臓打ちが決まった。
リュギオンはこうして的確に急所を狙い、次々に仕留めていくのだった。
敵のチンピラ集団や、やさぐれた不良水夫たち。それに、戦闘の混乱に乗じて漁夫の利を狙い、金目の物を奪おうと隙をうかがっていた浮浪者たち。
彼らは、あっという間に全滅した。
今や全員が、呻き声を上げながら、血反吐を吐いて地に倒れている。
「どうした、かかってくる奴はもういねぇのかよ」
圧倒的な身体能力と拳闘技術を見せつけられ、あたりはしーんと静まり返った。
巻き添えをくらうのを恐れたのか、見物客までが我先にと逃げ去っていった。
この圧倒的強者リュギオンに向かってくる命知らずは、もはやこの場にいない。
こちらも撤収すべき、ちょうどいいタイミングだ。
だというのに。
彼、リュギオンは、しつこく殴り続けた。すでに地に付し降参しているチンピラの一人を執拗に、容赦なくボコボコにしているのだった。
「ちょっと何してるのよ、もういいじゃない!」
「止めるなババア」
「や、やめてぇ、やりすぎ!殴りすぎよ!」
プロボクサーのパンチは凶器扱いなのよ!あなた職業拳闘士みたいなもんなんだから!それ以上殴ったら死んじゃうわよ、この人!
「こいつ、ババアをさわったろう」
「肩に手を置かれただけよ!」
「肩ならいいのか。じゃあ今後は俺も遠慮なくさわるぞ」
「とにかく、もういいからやめなさい!早く行きましょう!ほら、船に乗るのよ!あの船、すぐ出航しそうだから!」
私は強引にリュギオンを引っ張って、その場を離れた。
港には、出航準備中の船が、何隻か待機してあった。ありがたいことに待ち時間もほぼなく、すぐに出られそうだ。
これにて。
なんとか無事、私たちの撤収は完了した。
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イオニア海を進む。
陸地からはあまり離れないような航行ルートを通る船だった。
甲板からはすぐに対岸が臨めたので、私はいくらかほっとして、今回の航海を愉しむことができた。
甲板の手摺りに肘をつき、リュギオンと私、二人並んで波面を眺める。
はあ。
あの半島での喧騒が、嘘のように静かだわ。
大騒ぎ大暴れの限りを尽くした狂乱の街とも、これでお別れ。
今はもう、ザザーンザザーンという、穏やかな波の音しか聴こえない。
ヒーリング効果期待大。海水からは、きっとマイナスイオンとかが漂っていることでしょう。
ああ、癒される。
のんびりと会話を交わす私たち。
話題はやはり、彼の身の上話に関することだった。
「じゃあリュギオンって、7歳で、親御さんと引き離されたのよね」
「まあ、そうだな」
まだ小さかったでしょうに。かわいそうに。
まだまだお母様に甘えたい年頃の小さなお子さんが……。
思わず想像してしまった。
まだ幼かった頃の、子供時代のリュギオンの姿を。ちっちゃなリュギオン、チビリュギオン、ミニリュギオンとでも呼ぶべき、お子さんの姿を。
故郷の母上を想いながら、小さな体で槍を持ち、一生懸命に訓練に耐えている、そんな姿を。
……わああ!辛い、哀しい!!
私、想像をしただけで無理ぃ!
涙が出てきそうなのを堪えられない!!瞳が潤む!!
「お母様のこと、恋しかったでしょうね」
「そんなことはないが」
「え」
「その頃にはもう、自立心くらいは出来上がってる」
「えー?でも、まだ、7歳よ?」
「西のほうでも、お貴族の子息どもが全寮制の寄宿学校に入る年齢が、そのくらいだって言うぜ。特に珍しくもないだろう」
た、たしかに西……ブリタニカーとかのほうでも、そういう幼年クラスとか低年齢向けの寄宿舎ってあるけども……。
えー、親に甘えられる時間、家族と過ごす時間、少なすぎない?
「でもね、無意識のうちに、お母様を想う心を募らせていたのではないかしら」
「そんなことはない」
「ねぇリュギオン、私、ずっと考えていたのだけど」
「なんだよババア」
「熟女、いえ、高齢女性……年上女性を好む深層心理としてね。あなた、もしかして恋愛対象ではなく、無意識に母性を求めてるんじゃなくって?」
「母性?」
「幼少期に親元から引き離されたのですもの。母恋しさに意識を歪ませ拗らせてしまったことがきっかけだったのかもしれないわ。だったら今からでも遅くはないと思うのよ。母性への憧憬や渇望を正しく満たしたりまっすぐにすることで、あるいは。年上女性への執着が吹っ切れて、今後は、同世代の異性にも興味が持てるようになったりするのではないかしら?」
「ふーん、それで?」
「私、これから、あなたの母代わりになってあげる。母親役くらい、こなしてあげるわよ」
恋愛ではなく、友情の一環として。
役目として、あなたのお母上役をかって出てあげるわよ。
「さあ、母と慕ってくれていいのよ」
「慕わねぇよ。面白いことを抜かすババアだな」
つづく!!━━━━━━━━━━━━━━━━




