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(6) 決定打

 今まで生きてきた中で、今年の十月程、長く感じた一か月はなかった。


 普段の生活も、学校の時も、そして練習時間も、色んな場面で人と人との間にできる距離を痛感した。


 それは目の前にいるあらゆる「二人」にも感じたし、「わたしと誰か」の間にも強く感じてしまった。


 そしてわたしは、時折ナナ様との距離についても考えた。

 彼女は今遠く彼方、出雲にいる。


 単純に島根県の何処かとしてみればたいしたことはないかもしれないけれど、神様が集まる場所なんて、きっとそこからさらに想像もつかないくらい離れているに違いない。


 その彼女がいない間、周りでは様々なことが同時に起きて、正直かなり憔悴してしまっている。

 それに加え、眩暈や吐き気も頻繁に起こるようになっていって、まだ未成年なのに、既に身体の限界を感じつつあった。


 それでもわたしは、何とかして毎日をやり過ごした。

 いつか月が替わって、あの優しい笑顔でナナ様が目の前に現れてきてくれることをひたすら願って。



 しかし、とうとう月末に事件は起きてしまった。



 六時頃、家に帰り着くと、奥の方から妹の桃萌が慌てて玄関まで駆け寄ってきた。

 かなり取り乱し、落ち着いて喋ることができない状態でいたものの、しばらくして大きく深呼吸をすると、桃萌は大声で叫んだ。


「お姉ちゃん、大変! さっき電話があって、お母さんが、事故に遭って病院に運ばれたの!」


 今度はわたしが心を乱す番だった。


 その後、急いで用事から戻ってきたお父さんの車でわたしたちは病院に向かった。

 救急隊や警察の人の話によると、どうやらお母さんは、買い物から帰る途中車に轢かれてしまって、現在は意識不明の重体らしい。


 それからというもの、待合室で落ち着かずにうろちょろしたり、目を覚ますようじっと祈っていたりしたけど、結局事態は好転せず、そのまま一旦家に帰ることになった。


 さっきからずっと泣きじゃくっている桃萌の隣で、わたしは自分でも驚く程冷静に、あることだけをじっと考えていた。




 十月が終わり、十一月が始まった。


 最初の日は休みだったため、わたしは朝早く一人で山中の祠まで向かい、そこでナナ様の登場を待った。

 しばらくそのままで念じていると、やがて彼女は目の前にうっすらと現れ始め、能天気な声で話し掛けてきた。


「あら、桜良。久しぶりね。寂しくて会いに来てくれたの?」


 しかし、何も答えないわたしに違和感を抱いたのか、次第に真剣な表情になっていく。

 その顔をじっと見つめると、わたしは今までずっと考えていた疑問を彼女に尋ねた。


「……ねえ、ナナ様。何かわたしに隠していることがあるでしょ」


 徐々にナナ様はバツが悪そうに目を逸らし始める。

 それでもわたしはじっと前を見据えながら話し続けた。


「最近、凄く体調の悪い日が続くんだ。今までそんなことはなかったのに、ここ何日かは特にきついんだよ。そして、本当はわたしがきっかけなんだけど、みんなの仲が一気に悪くなりだした。さらに追い打ちをかけるように、みんな揃ってこの時期に何かを抱え込み始めたんだ。

 それから、昨日お母さんが交通事故に遭った。重体だって。今も全く目を覚まさないの。さすがに、一カ月の間に色々なことが起こり過ぎるよ。

 それで、この間学校で聞いたんだ。『さわり』っていう言葉を。ナナ様、多分神様なら知ってるんじゃない? 何となくだけど、そんな気がしてるの。

 ……ねえ、もし知ってるんだったら、教えてよ。わたし、もう限界なの。お母さんが目の前からいなくなるかもしれないなんて。しかも、こんなことがこれから先もずっと続いていくような、そんなイヤな胸騒ぎもするし。

 だから、お願い!」


 わたしの叫びを聞きながら、ナナ様は合間で頷いている。

 そしてじっと考え込むと、やがて観念したように口を開いた。


「……わかったわ。教えてあげる。一年前に貴女と契約した時、私が言わなかったことを」


 そして、彼女はわたしのずっと知らなかった、ユラの真実について語りだした。

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