(9) 試練の先
「久しぶりね。少し見ない間に、みんな垢抜けたんじゃない?」
福祉館に菫さんの大きな声が響く。
先程砂埃を上げながらレンタカーを走らせて、颯爽と目の前に降り立ったこのお姉さんは、わたしたちの顔を見るなり満足そうな表情を浮かべた。
「じゃあ、またもや早速だけど、聴かせてよ。貴女たちの成長ぶりを」
小広間のオルガンの椅子に腰かける彼女を前にすると、やっぱりどうしても緊張してしまう。
でも、わたしたちは一か月前とはもう違うはずだ。
毎日神社での奉仕活動も頑張ったし、病院でのミニコンサートも成功させた。
こうした経験を通じて、きっとわたしと同じく他のみんなも今確かな成長を感じているはずだ。
そのことは、それぞれの挑むような目を見れば明白だった。
「それじゃ、行くね」
早百合の掛け声で、リベンジの演奏が始まった。
今回の曲は、この前とは違って少しだけ難易度が高めになっている。
でも、わたしたちにはこの曲を歌い切れるだけの自信があった。
それは、今までに経験したあらゆることが、技術や表現力に化けて、そっと背中を押してくれたからだった。
そうして最後の和音を響かせた時、菫さんはじっと目を閉じて黙っていた。
そのままいつまで経っても動かないので、もしや寝ているのではと思ってそっと近づいてみる。
すると、菫さんは突然立ち上がって、手を大きく叩いた。
そして、呆気に取られている全員に構うことなく、笑顔で叫びだした。
「ブラボー。よくできたわね。まだまだやるべきことは山積みだけど、とりあえず声を揃える、という初歩中の初歩はクリアできたわ。みんな、おめでとう!」
褒められているのかどうかはよくわからなかったけど、ひとまず一歩前進できたみたいだ。
そう思うとやはり笑みが零れてしまう。
だから気づけば隣にいた早百合とハイタッチしていた。
菫さんは、喜ぶわたしたちを感慨深げに眺めながら、突然思い出したかのように呟く。
「そう言えば、グループ名の課題も、ちゃんと考えてきたのかしら?」
みんなはそれぞれ示し合わせたように見つめ合い、代表してわたしが発表することにした。