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(6) 人は見かけによらず

 翌日、土曜日。


 その日は生憎の雨模様だったけれど、わたしと早百合は予定通り二人で先に福祉館の小広間に来ていた。


 ウキウキするわたしとは対照的に、早百合はどこか不安そうな表情をしながらその場をうろちょろしている。

 そして、そろそろ一時になろうとしていた時、スマホから通知音が聞こえた。


 どうやら美樹ちゃんたちが、建物の前まで来たみたいだ。

 早百合に一声かけると、わたしは急いで部屋を出た。


 玄関の外には、二つの傘が広がっていた。


 一つは赤色の傘で、わたしを見るなりすっと持ち上がって中の顔を見せる。

 もう一方は、黒色で隠れてその場からじっと動かなかった。


「美樹ちゃんゴメンね。雨の中、わざわざ来てもらって」


 透明なドアを出て赤い傘の前まで来ると、美樹ちゃんは、いいよ、と右手を顔の横に小さく挙げた。


 ひとまず二人を中へと促し、玄関先で二つの傘が閉じられる。

 屋内の電気に照らされ、黒い傘の持ち主の姿が見え始めた時、その見た目に思わずたじろいでしまった。


 黒い傘の女の子は全身が黒系の格好をしていて、十字架や髑髏を模した派手なアクセサリーやネックレスで身を固めていた。

 整った顔立ちの目元にはこれまた派手な紫色のアイシャドーを入れていて、見るからに攻撃的で人を寄せ付けない印象を受ける。


 鮮やかな色に塗られた爪を弄りながら、その子は低い声で短くつぶやいた。


「ども」


「先に、桜良ちゃんに紹介しとくね。この子はうちのクラスの藁部(わらべ)野薔薇(のばら)ちゃん。前話したら、たまたま趣味が合って仲良くなったんだ。少しシャイな子だけど、よろしくねー」


 横から美樹ちゃんが軽く紹介する。

 いかにもスポーツ少女な彼女と、目の前の野薔薇ちゃんという子がどうして仲良くなったのか、かなり気になるところだ。


 でも、昔おばあちゃんが、人を見た目で判断してはいかんよ、と言っていたのを思い出して、とりあえず笑顔でその子に挨拶した。


「はじめまして! 隣のクラスの、桜良といいます。美樹ちゃんとは昨日喋って仲良くなったんだけど、野薔薇ちゃんとも仲良くなれたら嬉しいな。これから……」


 彼女はそれを無視し、厚底のブーツを脱ぐと一人先に奥の方へ向かっていく。

 わたしは、美樹ちゃんと慌ててその後を追った。



 小広間に二人を招き入れた時、野薔薇ちゃんを見た早百合は予想通りの反応をした。

 でも、その子は全くお構いなしといった感じで、近くの壁にもたれかかって腰を下ろす。


 これで一応部屋に全員が揃うと、若干気まずい空気の中、わたしは意を決し言った。


「……じゃあ、改めて紹介するね。わたしは遠矢桜良。そしてこの子は北平高校の横峯早百合ちゃん。わたしたちは幼馴染で、今年から一緒に合唱活動を始めたんだ。よろしくね」


「横峯早百合です。基本的には桜良の言う通りだけど、歌うことが好きで、少しだけピアノも弾けます。よろしければ仲良くしてください」


 早百合も後に続けて、自己紹介する。

 その直後、甲高い元気な声が室内に響いた。


「どーも、です! はじめまして。早百合ちゃんって、おっとりしててかわいいよね」

「え、……かわいい、ですか?」


 ニコニコ顔の美樹ちゃんのノリに対応できず、ますますおどおどする早百合。


 うーん、これはマズい。

 慌てて何かその場を取り繕う言葉を考えていると、そんな焦りなど全く知るよしもない張本人が勢いよく手を挙げた。


「はいはい! じゃあうちたちの番だね。うちは相星美樹! バスケが好きで、よく学校で遊んでまーす。よろしく! そしてそこにいるのが藁部野薔薇ちゃん。確か、何とかっていうバンドの大ファンなんだよね。……あれ、何だったっけ?」


 美樹ちゃんが明るく自己紹介してから、俯く野薔薇ちゃんの顔を下から覗き込む。

 するとそれをさっと手で制し、面倒くさそうに顔を上げてわたしたちの方を一べつしてから、淡々とした口調で小さく呟いた。


「藁部野薔薇。こいつが、どうしても来て、っていうからついて来た。とりあえずよろしく」


 それから、ジーンズのポケットからスマホを取り出すと、黙々といじり始める。

 だんだんその態度にムッとしてきたけど、少しして野薔薇ちゃんはピタッと手を止め、画面をわたしたちに見せてきた。



「……『マッド・サタン』。知ってる?」

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