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罰則



馬小屋では、見習い兵士たちがせっせと遠出の準備をしていた。

ギルとキースが顔を出すと、それに気づいた数人が顔を上げた。


「ギルにキース。そっちは終わったのか?」

「ああ。手伝おうか?」

「助かるー!」


見習い兵士の一人が顔を輝かせ、馬に餌をやる作業を頼んできた。

ギルとキースは快く頷き、馬小屋の中へ移動した。


「さて、やりますか」

「ああ」


位置について頷いたギルは早速作業に取り掛かった。


馬小屋の仕事も何年もやらされてきたから勝手は分かっているが、実はギルはこの仕事が苦手だ。

馬が気高い生き物でギルがしょぼい人間だということがわかるからなのか、何故かギルは馬に嫌われることが多くて、なかなか思うように仕事が出来ないのが理由だ。


「餌だぞ……って、無視か」


大体の馬は、ギルに話しかけられるのも嫌と言わんばかりにそっぽを向く。

いや、そっぽを向くだけならいいが、威嚇までしてくる馬もいる。


「少し長旅になりそうだから食べてくれ」

「ブルブル」

「少しだけでも」

「ヒヒン!」

「うわ!」


ギルが差し出した餌が馬に振り払われて、バケツごと床に転がった。

そして丁度運の悪いことに、馬小屋の前をアストロンの側近の男が通りかかった。


「おいそこの下級兵!」

「は、はい!」


側近の男はつかつかとギルの方に歩いてきて、バシッとギルを張り倒した。


「い、いきなりなにを……!」

「いきなりって、自分が何仕出かしたか理解もしてないのか?!」

「しかし暴力は」

「はあ?!お前は罰を受けて当然だろう?」


側近の男は隊長のアストロンと同じく、旧帝国の元華族の出身だ。

ギルよりも一つか二つ若いが、アストロンの家と縁が深かったために入団していきなり第七部隊の要職に就いた。

彼もアストロンと同じで、農民出身者を嫌っている。


「ろくに馬に餌やることも出来ない奴を罰するのは当たり前だろう!」

「しかし、これは」

「言い訳をするな、この無能!」


側近の男が冷たく言い放ち、馬小屋はしんとなった。

しかし側近の男は、見習い兵達が青ざめていようと気にも留めずにギルの胸ぐらを掴んだ。


「お前はオッサンの癖にほんとうに仕事ができないな!」

「す、すみません」

「お前なんかより馬の方がよほど使える!」

「申し訳ありません」

「隊長も言っていたが、謝ればいいってもんじゃない」

「しかし……すみません」

「ああ、農民はほんとうに無能だな。身分制度の廃止などやはりするべきでは無かったのだ」


ひたすら謝ると、ギルはやっと解放された。

だが側近の男は「許した訳じゃない」と鼻を鳴らした。


「そうだ。罰として、見習い兵全員、徒歩でアドバル遺跡まで荷物持ちをするがいい。そして、向こうで夕食を作れ。勇者が決まった時に俺があったかいスープでも差しだせば、勇者とのコネが作れるだろうからな」


側近の男はいいアイディアだと言わんばかりにふふんと笑うと、馬小屋にいた見習い兵士たちに指示を出した。

それを聞いた見習い兵たちは、えっと息をのむ。

色々言いたいことはあるけれど、なにより、アドバル遺跡まで荷物を背負って徒歩でいくなんて、馬の餌をこぼした罰にしては大変過ぎる。


しかし側近の男が決定を覆ることは無く、ギルを指さした。


「恨むならこいつを恨めよ」

「待ってください。責任は俺だけで……!」

「罰は連帯責任に決まっている!アストロン隊長もいつも言ってるだろう。無能をまとめるには連帯責任が良いのだ」

「そんな」


ギルの抵抗も虚しく、側近の男は高笑いをして去っていった。


残されたギルは、がっくりと肩を落として、駆け寄って来た見習い兵士の仲間に謝った。

申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


「ごめん」

「いや良いって。それよりギル、大丈夫か?」

「俺は大丈夫。でもまたみんなに迷惑かけて……」

「今日は目付けられて災難だったな」

「本当にごめん。俺、せめて一番重い荷物持つから」

「いいって。みんなで順番に持とうぜ。ってかあいつ、俺等とそんなに歳変わらないのにギルのことオッサン呼びしてたぜ。そんなこと言ったらあいつだってオッサンだよなあ」


人の良いやつばかりの見習い兵士の仲間は大丈夫と笑ってくれたが、それがまた申し訳ない。


ギルは仲間の手を借りて立ち上がり、パンパンと服を叩いた。

小さくため息が漏れる。


自分が特別だったらと思ったこともあったが、ギルは特別でないどころか、普通の仕事も満足にできない出来損ないらしい。







こうしてあっという間に準備が整い、出立の時刻になった。


訓練場に並んだ馬車のうちの、一番大きな物にアストロンが乗り込む。

そして次々と馬車が拠点を出て行き、最後に大きな荷物を持った見習い兵士たちが続いた。

ギルは重い気持ちで、他の見習い兵士たちと共にアドバル遺跡への隊列に加わった。


アドバルの遺跡は、ベンレムから西にいった山岳地帯にある。

魔族が現れることが少ない地域ではあるが、それでも安全が保障されている訳ではない。

第七部隊の面々は、周りに警戒をしながら歩みを進めた。


そして日が暮れた頃、遂に一行はアドバル遺跡へとたどり着いた。


「つ、着いたー!」

「疲れた……」

「あ!疲れたなんて言ってる場合じゃない。ギル、見てみろよ。向こうに華の第一部隊がいるぞ。ギル憧れのゲルギウス隊長だ!」

「え!ほんとうか?」


ギルはもう一歩も動けないと思ったが、キースの声に一瞬で疲れを忘れていた。


アドバルの遺跡の入り口は大きな洞窟のような見た目で、大きな山の内部が全て遺跡になっている。

そして遺跡前には石床の広場があり、そこに他の部隊が集合している。

キースの言う通り、ギルが憧れるゲルギウス隊長も見える。

長い白髪と貫録のある長身はとても目立つ。

第一部隊の隊長であるゲルギウスは一番の精鋭部隊である第一部隊の隊長だけあって、数々の功績を上げてきた強者だ。


「それからあれは、第三部隊のアイリーン様だ!あんなに可愛くて強いなんて反則だろ!あ今、目があったかも!」

「合ってない合ってない」


金髪を高い位置にひとくくりにした第三部隊の隊長であるアイリーンは、半分もいない女性兵の中でも群を抜いて強い。

しかも見た目も可愛いので、一番槍の戦姫なんて呼ばれて人気が高い。


「それからあっちは第四部隊のクーロンだ。あいつ、俺等と同い年なのにもう隊長だぜ。やっぱ天才は生まれた時から天才なんだろうな」

「この前も最大討伐数を更新したらしいな」


長い髪を三つ編みにした第四部隊の隊長はまだ若い見た目をした青年だ。

細めの見た目をしているのに、得意な武器は素手で戦う柔術剛術ときている。生粋の天才というやつだ。


「やっぱり神器の継承者ともなれば、そうそうたる面子勢ぞろいだなー」

「そうだな」


防衛団の隊長たちは、やっぱり雰囲気からして全然別格だった。

凡人とは格が違う。


……ああいう人が勇者に選ばれるんだろうな。


ギルのようなモブとは全然違う。


小さく納得の溜息を吐いた丁度その時、ギル達は例の側近の男にどやされた。


「何ぼーっとしてんだよ見習いども!さっさと夕食の準備でもしてろ!」

「は、はい!」



ギル達は取り敢えず返事をして、素早く自分の持ち場に戻った。





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