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出発の準備



「それにしてもすごいよなー、神器。神器持って戦うだけで魔物殺せるんだろ?!」

「まあ、簡単に言うとそうだな」

「ああー、すごすぎ!一体なんでそんなこと出来るんだよ!あのヤバすぎる魔物相手に!」

「それだけ強いから特別で、神器なんだろうな」

「いやそうだよなー。神器なだけあるわ!」


朝礼が終わり、まだ興奮が冷めないギルとキースは、アストロンの為の荷造りをしながらひそひそと喋っていた。


「それで神器って言ったら、勇者だよなー。ロマンあるよな。選ばれし者。どういうヤツが選ばれるんだろーな?!って、アストロンではないよな?」

「まあ、アストロンじゃないといいな」

「だよな!あいつクソ差別野郎だし、あんなのが勇者になったら俺ら絶対迫害されるじゃん」

「アストロンが勇者になる可能性なんて多分ないだろ。選ばれるのは普通に考えて、強くて才能の有る人間だ」


キースは間違いないとウンウン頷いて、楽しそうな顔になった。


「じゃあさ、もしギルが神器だったとしたら、誰選ぶ?!」

「え、俺が?……そうだな、第一部隊のゲルギウス隊長かな」

「あー、ギルはゲルギウス隊長のファンだもんな!でも、俺だったら第六部隊隊長のアイリーン様選ぶかな!美人だし!」

「顔か……。なんか不純だな」

「いやいや、美女と組みたいのは何より純粋な動機だって。やっぱ神器も気分が上がる相手がいいじゃん」


キースは愉快そうに笑いながら、ギルから荷物を受け取って、馬車の中によいしょよいしょと詰めていく。



「てかさ、思ったんだけど」

「どうした?」


ギルはキースのペースに合わせて荷物を渡していたが、キースが突然ピタリと手を止めたので顔を上げた。

キースはいつものように冗談半分の思い付きの話をするぞという顔をした。


「思ったんだけどさ。もし本当に、神器が気分上がる相手と組みたいって考えてた場合ってどうなると思う?」

「……は?」

「だから、もし神器と意気投合でもしてさ、めちゃくちゃ気に入られたら、俺みたいな雑魚でも勇者になっちゃう可能性もあるかもしれなくない?」

「え?」


……俺みたいな雑魚でも、勇者に?

キースの顔を見てギルは一瞬考えたが、すぐに首を振った。


「いやいや。いくら何でも、俺達のような雑魚が神器に気に入られることは無いよ」

「んだよー。そんなにバッサリ否定するなよー」

「というかそもそも、意気投合ってどうやってするんだ」

「意気投合はモノのたとえだし、少しくらい夢見たっていいじゃん!」

「まあ、見るのは自由だけど」



……俺達は雑魚だから、夢見たって辛いだけだぞ。

明るく前向きなキースにそんなことを言ったら自分が嫌なやつになると分かっていたので、ギルは口をつぐんだ。



今はすっかり身の程を知って諦めているギルだが、防衛団に入団した当時は違った。

勇者ほど特別になれなくとも、自分ならば何か為せるのではないか……なんてこっそり思っていた。


ギルがそう信じた理由は、魔物の襲撃にあったのにも関わらず運よく生き残ったからだった。


遡る事数年前。

ギルの住んでいた村は、魔物によって壊滅した。

両親と兄は、ギルと妹の目の前で魔物に食われて死んだ。

今でも悪夢に見るような酷い光景だった。


だけど、ギルはその恐ろしい経験を乗り越えた。

からこそ、ギルは自分ならばきっとできると思った。

誰よりも魔物を憎んでいる自負がある。生き残ったのだから、魔物に立ち向かわなければ。絶対に、この憎しみを力に変えてやる。


少しだけ、自分が悲劇のヒーローのような気もしていた。

あの時のギルはそう考えて、農民の出身でありながら怯えて逃げることはせずに、防衛団に入ったのだった。



だが勇んだ気持ちとは裏腹に、現実は過酷だった。

ギルに魔物と戦える才能なんてものは、全くなかったのだ。


第七部隊に所属になったギルは剣を握った経験もないということで、兵士見習いという最も下級の立場からスタートした。

兵士見習いは本当は、訓練を受けて基準を満たせばいつでも兵士に昇格できる階級だ。

なのにギルは、いつまで経っても弱いままで、ずっと見習い兵士のままだった。


自分より若くて生意気な兵士が、どんどん正規兵に昇格して行く。

そのうち、あまり予算が回ってこなくなって補給部隊が無くなった第七部隊では、見習い兵士に全ての雑用が課せられるようになった。

そして毎日毎日大変な雑務に追われて、いつしかギルは模擬剣さえも握らなくなった。


大切な家族を失って死ぬほど悔しかったのに、ギルは魔物と相対することも叶わない程弱い。

しかも、もうどこかで強くなることを諦めてしまっている。

家族を奪われたことを思い出して苦しむだけで泣き寝入りすることしかできず、何もできないうちに歳ばかり取る。


それは、とても惨めな気持ちだ。




黙ってしまったギルの背中を見て、キースがわざと明るい声で言った。


「ま、今はさっさと仕事終わらせようぜ」


キースの気づかいを感じて、ギルは「……だな」と小さく頷いた。


ギルはくるりと反転してから手に持っていた荷物を馬車に押し込んだ。

これが最後の荷物だった。

荷物の方の準備は済んだから、あとは馬の整備をしている連中の仕事を手伝おう。


ギルとキースは互いに目くばせし合い、馬小屋へと移動した。



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