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巨木と異変

 砂漠のダンジョンに巨木を生やしてから数日が経過していた。その間も毎日ダンジョンに潜っては巨木の側でミミズを狩り、あれやこれやと検証や訓練を行っていた。


 その間、学校には行っていない。

 心配した霞ヶ丘先生から連絡がきたりしたけど、僕はもう退学するつもりだと伝えておいた。

 それを聞いた霞ヶ丘先生は


『双葉にはもっと理解の得られる場所が必要だと先生は思ってます。待っていてください』


 と、なにが言いたいのかよく伝わらないいつもの言い回しでそれだけ言って、電話を切った。

 待っていてくれとは家に来るということだろうか?それとも社会的にいつかそういう時代がくると言いたいのだろうか?

 よくわからなかったが、霞ヶ丘先生にはちゃんと挨拶もしたいし、また折を見て電話をししようと思う。


 というわけで、今の僕は絶賛ダンジョン攻略中である。

 迷宮型ならともかく、領界型のダンジョンに攻略もなにもあるのか不明だが、僕の砂漠のダンジョン探索はこの数日で十分成果を出せる段階にきたと言っていいだろう。

 訓練も検証も、やってて無駄という結果には終わらなかった。新しくできるようになったこともいくつかあるし、思わぬ副産物も得られた。まあ副産物に関してはどこまで信用していいものかわからないので、今までと行動を変えるつもりはないが。


 そして今日も僕はダンジョンに潜る。

 ネットで買った動きやすい服と靴を装備し、魔石を入れるリュックを背負う。

 庭の歪みの前まできて、家に向かって一言。


「父さん、母さん、行ってきます」


 でもこの時僕は知らなかった。世界中のダンジョンで、異変が起き始めているということに……。



     ◇



 砂漠のダンジョンに入ると、まず目に入るのが僕が生み出した大きな木。高さ100メートルはあるだろうそれは、今日も枝に葉を生やし太陽光を遮っていた。

 最初は困ったものだと悩みの種だったのだが、今ではもう気にならない。

 何故なら


「おはよう大木さん。今日もミミズ処理、ありがとね」


 何故ならこの命名大木さんは、一人でに根を動かしてダンジョンの入り口に近づくミミズを狩っておいてくれるのだ。

 これには当初僕も驚いた。

 事の発端は大木さんを生やしてミミズから逃れたあと、下のミミズを始末しようとしたときだ。


『これ、どうやって始末しよう?』


 今までのやり方でいくなら光線だが、あれは貫通力が高いうえに直線攻撃。どうやっても大きなこの木を傷つけずにミミズだけ打ち抜くには無理があった。

 どうせミミズは登ってこれなさそうだしまずは光線の訓練から、と思ったその時だった。

 

 にょきっ うねっ がしっ すっ


 と、根を動かしミミズを差し出してきたのは。


 その後は大木さんが投げたミミズを僕が撃ち抜く、的当てゲームと化した。これが結構難しくて能力操作のいい訓練になった。この巨木を大木さんと呼ぶことにしたのはその時からだ。

 大木さんも名前が貰えて嬉しそうで、それを見て僕の安直なネーミングが申し訳なくなったことを、ここに記しておく。


「じゃあこれ纏めて消しちゃうね。えいっ」


 というわけで大木さんは頼りになる。今では根でミミズを潰すことも覚えて、僕はここに来たらその死骸を消し炭にするだけで済む。

 ミミズを消し炭にしても魔石には傷一つつかないのだから、僕にとっては楽なものである。


 残った魔石はここでは仕舞わず、帰りに持って帰る。入口の近くのミミズは大木さんが排除してくれるので、その空いた時間は大木さんと一緒に過ごすことにしている。

 この大木さん、性別があるのかわからないが、創造主の僕にとても懐いてくれているようで、放っておくと怒るのだ。

 僕としても大木さんには感謝しているし、一応親という扱いになるのだから、なるだけ一緒にいてあげようと思う。

 

 することはというと、日光浴だ。

 大木さんの葉っぱをベットにして、一緒に太陽光を浴びる。何故か大木さんと一緒の日光は、いつもより気持ちいい。きっとこれが友達ってやつなんじゃないかと、僕は勝手に思ってる。


(霞ヶ丘先生、僕にも友達ができたよ)


 今度会ったら是非紹介しよう、そんなことを考えながら、僕は眠りについてしまった……。






 ――大きな木が見える。あれは大木さん?でもあんなに大きかった覚えはないけど……



『――まだ会えない』



 ――綺麗な声が聞こえる。この声を僕は知ってる。この声の女性は僕を探してる。でも会えない。まだ会えないんだ。………あれ?



『――会いに行くわ。あなたに会いに』



 ――これは懐かしい記憶……そのはずなのに、僕はこれを知らない。


「――君はだれ?会いに来るって、どうやって?まさかダンジョンは、君が――」


『アイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイアイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイ』



 ――だ、ダメだっ!君が会いに来たら、きっと、地球は――!!






『――イマイクネ』


「うわああああああああ!!」


 上から太陽が照り付ける。葉が風で揺れる音がする。


 僕は目覚めた。


「……夢、じゃ、ない………」


 このさんさんと照り付ける太陽も、大木さんの葉っぱのベットも、視界に映る砂の大地も。


 すべて夢じゃない。現実だ。現実になったのだ。


 僕の頬に、一筋の冷や汗が流れた。光合成の能力を得てから、汗なんか掻かなくなったのに。


 ――嫌な予感がした。

 

「……戻ろう。地球で、なにか起こるかもしれない」


 僕は身を起こし、地面に降りようとする。しかし


「大木さん?は、離してくれる?今は急がなくちゃいけないんだ!またすぐに会いに来るから!」


 うねうね がしっ


「大木さんっ!」


 大木さんは離さない。枝で僕の四肢を掴んで逃がさない構えだった。

 僕が寝てしまってからどれだけ経ったのかはわからない。それほど寝ていないのだったら、確かにいつもより大木さんといる時間が短くなってしまう。けれど、こんなことをする大木さんは初めてだった。


「大木さん……?」


 僕にはなんだかその姿が、「ここにいろ」と訴えかけているようで、決して「ここにいて」と駄々をこねているようには見えなくて。


「ごめんね、大木さん。きっと僕を守ろうとしてくれてるんだよね?でもね、僕もね、守りたい人たちがいるんだ」


 脳裏に過るのは2人の女性。

 父と母がいなくなって、それでも生きる理由をくれた先生。

 父と母がいなくなって、それでも形見だけは守ろうとしてくれた軍人。


 大切な僕の生きる希望だ。


 僕がじっと大木さんを見ていると


 うねうね…… するっ


 大木さんは離してくれた。最後に枝でそっと僕の手に触れて、地面に降ろしてくれた。


「……あとがとう、大木さん。行ってきます」


 行ってらっしゃい、と後ろから聞こえた気がした。

 

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