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探索と検証

 翌日。朝起きて僕は出かける準備をしていた。

 昨日は久しぶりに色々あって楽しかったけど、本来なら昨日だって学校があったはず。ただ学校にいたはずの霞ヶ丘先生がどうやってか異能を獲得しているのだから、きっと事件かなにかあったのでは?と睨んでる。


「ま、どうでもいっか」


 そう、どうでもいい。何故なら僕はもう、学校に行く気はないからだ。出かける準備というのは、もちろんダンジョンに出かける準備である。


 昨日、2人と別れたあと。僕は決して一人が好きなわけじゃないんだと悟った。でも一緒にいるのは誰でもいいわけじゃない。霞ヶ丘先生や大賀さんのような、魅力的な人がいい。


 僕は我儘だ。


 その事実に気付いたらもう、自分を抑えて一人ぼっちでいいと思えてしまった。こんな我儘な僕が誰かと一緒にいたいだなんて、ちょっと許されないと思ったのだ。


 そういうわけで僕は砂漠のダンジョンに向かう。生きている以上、お金はいるし任された仕事もきっちりこなさねばならない。

 なにより大賀さんが信じて任せてくれた管理者の仕事を、僕は完璧にこなしたいと思っていた。


「行ってきます、父さん、母さん」


 そして僕の砂漠のダンジョン探索が、幕を開ける。



     ◇



 砂漠のダンジョンに入ってすぐ、まずは能力の検証がてら近場のミミズ狩りをすることにした。

 やりたいことはいっぱいある。光合成の能力でできるかどうかは置いておいて、小さいころからの夢だとか、魔法に憧れ奇跡を願ったことだってある。

 まずはそれを一つ一つ試していこう。


 とはいっても最初から難しいことをやっても時間がかかるのは目に見えてる。ある程度自分の力を理解して、応用の段階に入るのはそれから。


 最初に試したいのは、この謎エネルギーを同時にいくつも変換できるのか。

 僕の攻撃方法は今のところ光線か氷結だけど、これを同時にできるだけでも色々可能性が広がってきそうだと考えた。氷をレンズにして光線を拡散、とかロマンがある。周りに誰かいたら使えないけど。


 そんな思考をしているうちにまたもミミズによる包囲網が構築されつつあった。そして今回は前回よりも数が多い……50はいるだろうか。


「……ま、まずは数を減らそう。検証はそれからだ」


 決して一人だとこの数相手は心細いだとか考えたわけじゃない。一人でこの数の巨大ミミズに囲まれていることに寒気がしただけである。


 僕は両掌を横に向け、集中した。今回は前回より数が多いうえに、まだ包囲が完成してないぶん距離がある。より多くのエネルギー変換が必要だ。


「一度にどれだけ変換できるかもわかってないな……ここで試すか」


 両掌に力が集約していくのがわかる。まだ変換していないただの謎エネルギーが、僕の掌でまだかまだかと押し寄せている。

 まだ限界は見えそうにない。けれど流石にこれ以上は必要ないだろうし、この状態で発動することにした。


 そう、あれを。


「――ニブルヘイム!」


 瞬間吹き荒れるブリザード、視界は白に染まる。

 今回の吹雪は前回よりも威力が高い。数を揃えただけのミミズたちでは耐えきれないだろう。

 そして威力が高いからこそ前回は我慢できた問題が浮上する。

 それは


「ささささ寒いっ!ガクガクぶるぶる……も、もう止めていいよねねねっ?」


 僕はあまりの寒さに吹雪をとめた。自分で出しておいてこの様は実に情けない話である。

 掌から熱気を創り出して温まる。別に掌に限定する必要はないのだが、今の僕はあまりの寒さに思考が麻痺していた。

 検証とはいえ、こういう問題を甘く見ているとそのうちうっかり死にそうだ。今回も途中で止めなければ仮死状態くらいにはなっていたかもしれない。


 ――が


 今回はその失敗がいい方向に回ってくれたようだった。


「失敗は失敗だけど、大失敗にならなくてよかった」


 そう呟く僕の視線の先では、凍った地面が盛り上がりながらこちらに迫っている様子があちこちで確認できた。


「そら砂漠のミミズって言ったらワームだもんね。砂の中に潜るくらいするか。さて、どうしよかっな」


 幸いなことに表面の地面が凍っているからか、砂の中を進むミミズたちの速度は遅い。それに加えニブルヘイム発動時まだ距離があったこともあり、考える時間はありそうだ。


「砂に潜って回避される攻撃はダメ。でもこの数相手だと範囲攻撃が望ましい、それでいて自分を巻き込まないもの……う~ん」


 こうやって口に出してみるとなかなかに難しい。範囲攻撃というと炎とかだろうが、砂の中まで通す火力となると僕が危ない。地面をプレスするのも考えたが、それをどうやるのかが思いつかない。重力とかで圧し潰せればいいけど、砂の中のミミズまで潰せるかはわからない。


 色々考えてはみるが、いまいちピンとくるものがない。もうそろそろミミズも僕に到達するし、一度歪みを抜けて家に戻ろうか、と考えた時。


「……そっか。なにも一度に排除することに拘らなくても、安全圏から一匹ずつ消せればいいんだ」


 そんなことを閃いた。


「空を飛ぶ……のは風?でもそれは練習がいりそう。いつかは叶えたい夢だけど、今はミミズを狩るのが先決。純粋に揺らがない高い足場がいいかな。この砂地でそれを実行するには……」


 僕の頭が急速に回る。一度スイッチが入れば、それは普段なら「いやいや」と思うような発想も、いくつも思いつく。

 

 ミミズが近い。盛り上がる地面は何列にもなって、僕一人を敵として排除しようと躍起になっている。

 そんな殺意を前に僕は落ち着いて答えをだした。


「うん、これでいこう。―――根付け、大きな木」


 僕が考えた砂地でも揺るがない足場。普通に考えたらこんなのおかしいって思うはずなのに、どうしてか僕にはこれだけが正解のように思えた。


 そしてそんな謎の確信は、謎のエネルギーによって現実に現れる。


 それは最近どこかで見たような気がする、けれどアレには到底及ばない言わば贋作。


 僕は砂漠に聳える高くて太い木の上から、遠く地面のミミズを見つめていた。

 ミミズたちはカジカジと巨木に齧りついたり、よじよじと頑張って登ろうとしている、がこの巨木はどこ吹く風だ。


 夢のあの木はもっと安心感があったな、と思いながら、僕はミミズ撃ちを始めた。

 

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