鬼人と告白
「発動―――阿修羅門」
「構築 展開 付加 選択 誕生―――破壊の魔導書」
霞ヶ丘先生と大賀さん、2人が能力を発動する。前者が大賀さんで、後者が霞ヶ丘先生だ。2人の異能は発動と同時にまず見た目に変化が現れた。
「開門率20%と言ったところか。これくらいなら初めて見る双葉くんでも警戒しないだろう?」
そう言った大賀さんの額には、細く紅い二本の角が生えていた。これはあれだろうか、アニメでよく言うところの……
「鬼人、ってやつですか?か、かっこいいですっ!種族変化?みたいな能力もあるんですね」
「私のはまだここから先がある。本気を出せば出すほど、鬼の見た目に近づいてくる。こんな世界になった今、頼もしくもあり、厄介な能力だよまったく」
厄介と言いながらその顔には三日月型の口がしっかりと現れており、その様子から今は楽しいが勝っているのだろうと勝手に予想した。だから僕は取り敢えず――
「ないす!」
何がナイスなのか定かではないが、親指を立てて僕も口を三日月にしておいた。
「なにを褒められたのかいまいちわからんが、こう返しておこうか。ありがとう、双葉くん。こんな私でも笑顔を向けてくれる君のことが、私は気に入ったよ。愛してるぜ」
「へ?あ、愛っ!?」
突然の愛の告白。気が動転した僕はきっと間抜けな顔をしていただろう。でもクールに身を翻してミミズを粉砕しに向かった大賀さんにはきっと見られてないはず。
それにしても愛してるって……冗談かな?でもそんな感じでもなかったし、能力でもう苦労してるのかもしれない。モンスターが存在する世界で、モンスターのような見た目になる能力は必ずどこかで反発する人がいるのだろう。それ故の僕の対応を目にして愛の告白、と考えれば納得もいく。異性とか恋愛的な意味での「愛してる」じゃなくて、僕の性格に好印象だとかそういう意味での「愛してる」。
勘違いしちゃいけない。こんな年頃の少年に放つ言葉としては勘違いを誘発して仕方ないけど、大賀さんとは今日会ったばかり。でもちょっと、あれだ。……ドキドキする。
そんな心境の僕が目で大賀さんの動きを追ってしまうのは無理からぬことで、もし女性が見たら「これは確実に気がある」と誤解されかねない挙動だった。
そして忘れてはならない。この場にはもう一人、最初からいる女がいることを。
「ははぁーーーん。これは確実に気があるわね」
「っ!?ち、違いますよっ!僕は全然そんな勘違いなんか――」
「双葉はピュアだからちょっと女性に優しくされたら軽く堕ちちゃう簡単な子だと先生は思ってましたっ!」
「やめてーーーーっ!?」
僕はそんなクソ雑魚単純思考じゃないやいっ(ダンッ)!出会って一日の女性に堕とされるほど安い男じゃないやいっ(ダンッ)!!
「なにを頭抱えながらダンダン言ってるのよ。台パンしてるつもりなの?」
「う、うるさいやいっ!」
光合成の力があれば音だって創り出せるんだぞ!そんな無駄なことにエネルギー使いたくないからやらないけど!せめて心の中で台パンで机壊すんだ……!!
「ダァァァァンッ!!ガラガラごろごろ………ふぅ、よし」
「傍から見てるとなかなかユニークな人になってるわよ。そろそろ雫も帰ってくるから落ち着いときなさい」
「清々しい気分です。もう大丈夫」
「そう」
さっきまでの動揺が嘘のようだ。台パンがこんなに気持ちいいものだとは知らなかった。これは霞ヶ丘先生がやってしまうのも頷ける。その霞ヶ丘先生はというと、「双葉はこんな個性の強い子じゃないと先生は思ってました」とか、「双葉がその個性を普段から表に出してれば友達もたくさんできるんじゃないかと先生は思ってます」とか色々言ってくれてるけど、仏の僕に届くことはない。
それにしてもさっき目で追っていたとき見た大賀さんの姿は圧巻の一言だった。跳躍してミミズの上から腕を振り下ろす。それだけで凍ったミミズはバラバラに砕けていく。速さと距離で良く見えなかったけど、爪も伸びて色も紅くなっていた気がする。これで地面が砂地という立地でなければもっと動けていたのだと思うと素直に感服する。
その大賀さんは僕たちがくだらないやり取りをしている間にすべてのミミズを砕き終え、歩いてこちらに戻ってきていた。その目はまっすぐ僕を見ている。
そして僕の前に立つと、彼女は頬を赤くして更に近づいてくる。
(こ、これはっ――!!)
あるのか?ないのか?仏の僕に問いかけられるその答えの行く末は――
「あ、暑い……双葉くん、もっと冷気を出してくれ……あと水……」
言うまでもないが僕は仏だ。今の僕は仏と化している。故にドキドキしてたりなんかしてない。
僕は言われるがままに冷気を強めて氷のコップに水を注いだ。その時手元が狂って目頭にまで水を注いでしまったけど、顔が熱かったからちょうどよかった。
余談だが、ダンジョンから出た後もしばらく大賀さんに抱き着かれたりして、ちょっとドキドキした。