説教と来訪
歪みから帰ってきて取り敢えずお風呂に入った。汗なんか掻いてないけど気分だ気分。日本人は毎日お風呂に入りたがる生き物なのでは?と僕は考えている。
お風呂からあがるとちょうど電話が鳴った。こんな時間に誰だよもうと受話器に近づく。因みにまだ八時である。
「はいもしもし双葉です」
『あ、やっとでたわね双葉!今まで何してたの!?先生心配してたんだから!ちょっとそこ座りなさい!』
「うげぇ……」
電話の相手は担任の先生だった。霞ヶ丘先生は美人で優しくて生徒たちから人気なんだけど、結構厳しいところもあるんだよな……。今も無断で一日学校をさぼった僕に説教をしようというのだろう。そこ座れって目の前にいないのに言うセリフかな……?
でも僕自身、霞ヶ丘先生にはお世話になっているので、大人しく地面に腰を下ろした。もちろん正座ではない。
すると僕が座ったことが伝わったのか霞ヶ丘先生の説教が始まった。きっと正座じゃないことくらい察してるんだろうけど、そもそも座らせたのだって話が長くなるからだろし、こういう優しいとこのある先生なのだ。
『双葉はもっと真面目な子だと先生は思ってましたっ(ダンッ)!友達こそいないみたいだけど無断で学校をさぼる子じゃないと先生は思ってましたっ(ダンッ)!!今世界的に大きな事件が起きてるみたいだけどそんなのに誑かされる子じゃないと先生は思ってましたっ(ダンッ)!!!』
なんだろう、言葉の後に机を叩く音が聞こえる……。霞ヶ丘先生は物に当たる人じゃないと僕は思ってましたっ(ダンッ)!……流石にやったら怒られそう。いや今も怒られてるんだけど。
『ちょっと双葉!ちゃんと聞いているのでしょうね!?真面目にしてくれないと先生怒りますよっ(ダンッ)!』
「き、聞いてます聞いてます。ちょっとびっくりしただけで……」
なんだか電話越しなのに見られているような気がして僕は正座になった。最初からこうしておけば台パン説教は逃れられたかも……?
『そもそも今日何処でなにしてたのっ(ダンッ)!?言いなさいっ(ダンッ)!!』
正座しても霞ヶ丘先生の台パンは収まらなかった。ていうか霞ヶ丘先生そろそろ拳痛くなってるんじゃ?あんなにダンダンしてたら先に机に限界が訪れるかな。ふふふっ。
『(ダァァァァンッ!!バキバキごろごろ……)』
「…………え?」
『……答えなさい、双葉。今日、何処で、なにしてたの?』
こ、これはまずい……。明らかに何かが壊れる音とか急にやんだ台パンとか気になることはあるけど、そんなことよりこれはやばい……霞ヶ丘先生が、ブちぎれてる……!!
「……あ、えっと……そのぅ……」
『うん、怒らないから言ってみ?』
ホントに怒らないのだろうか?いや仮に怒らないとしても言っていいのだろうか?こうやって説教されてると頭が冷える。その冷えた頭で考えれば、今日僕がやったことは全部暴走だ。人助けの暴走はまあいいとして、その後の暴走に関しては言い訳のしようもない……。
しかしここで嘘をつくことは更なる暴走を呼びそうだと思った。ここで一回霞ヶ丘先生にこってり怒られた方がいいかもしれない。
僕は腹をくくった。
「人助けをして、その後調子に乗って庭の歪みに突撃して暴れてました……ごめんなさい。反省してます……」
『…………すぅ』
あ、くる。怒鳴られる。
『…………はぁ』
「…………?」
『怒らないと言いましたから。先生我慢します。それに人助けをしたんでしょう?双葉は人を思いやれるいい子だと先生は思ってました』
「…………!!先生ぇ!」
これが霞ヶ丘先生が学校一人気になった理由……!一部ではカスミせんせーと呼ばれる(ていうかそっちが多数派)その信頼を勝ち取った人柄!なんか僕もこの先生のこと大好きになってきた……。
『それはそれとして今から先生双葉の家に行きますね。さらっと庭の歪みとか言ってましたけど、そういうの一大事ですから。どうせ君のことだ、通報もしていないんでしょう?』
「あぅ……忘れてました」
『よろしい、では今から先生が行くまでしっかり見張っておくように。やんちゃになってしまった君のことだ、戦う力も獲得してるんでしょう?無理はせず、できることをなさい。では』
そこで電話は切れた。ここから学校まで徒歩で15分程度。霞ヶ丘先生なら車でくるだろうしそんな待たないかな。そう判断した僕は急いでパジャマから制服に着替えて歪みの側の窓辺に座った。
すぐ来るだろうことはわかってるけどこうして歪みを見ているとゆっくり考える時間が欲しくなる。
僕が得た能力は光合成。太陽光で謎エネルギーが溜まる。そして僕の家の庭にできた歪みの中は常時真昼の砂漠地帯だった。そこで照り付ける太陽はこの地球の陽射しより得られるエネルギーが多い。
考えればすぐ浮かぶ疑問。これがただの偶然か?
あまりにも僕に都合がよすぎる展開だ。そもそも都合がいいと言い出すなら最初のゴブリンは?あれからまた魔物がこの辺に出た様子はないし、たった一匹何故現れた?
わからない。今の現実自体、わからないで溢れてる。今すぐ謎を解き明かそうというのも無理な話か。
ブロロロロ……キーッ
「あ、来たかな?」
実のところ制服の上着が砂だらけできれいにするのに時間がかかったから電話から15分くらい経ってる。車で来たにしたは少し時間かかったな。まあ明らかに机壊してたし……うん、気を引き締めよう。
またお小言を言われるかなくらい覚悟して外から玄関に向かう。窓辺から降りて向かったので靴も履いてないけど芝生があるから痛くない。
そしてそこで僕は霞ヶ丘先生を迎える。のだが――
「いらっしゃい霞ヶ丘先生。……あの、先生そちらは?」
「まあ詳しくは家に入れて貰ってから……だけどま、名前くらいはいいかしらね?」
霞ヶ丘先生はそう言って横の女性に視線を送る。青色の軍服を身に纏った背の高いその女性は
「はじめまして、双葉 雛鳥くん。私は国軍緊急特設異能部隊所属、大賀 雫だ。君を、見定めにきた」
そう言って、鋭い眼光を向けてきた。