日光浴とミミズ狩り
なんだかよくわからないけど、一つ言えることは、気分がいい。
ゴブリンを倒せたからではない。いや、もちろんゴブリンを倒せてよかったと安堵してはいるが、そうじゃない。さんさんと照り付ける日の光が、言い様がないほど心地いいのだ。
その理由も、今ならわかる。
「これが、光合成」
先程聞こえた謎の声。それによると僕は光合成という能力を得たらしい。ただ生み出しているのは酸素などではなく謎のエネルギーのようだが。
今ならなんでもできそう、そんな全能感に打ち震えていると、後ろから声がかかった。
「あ、あの……助けてくれて、ありがとう。君も大丈夫?怪我とかない?」
「あ、はい。間に合ってよかったです。僕は後ろから刺しただけなので、全然平気ですよ」
まあ実際はゴブリンも振り返って襲い掛かってきてたし、それをきっとこの女性も見てただろうけど、結果的に無傷なのは間違いないのだからこういう返答でいいだろう。
その後、女性は何度もお礼を言って去っていった。お金払うとかも言ってきてたけどそれは丁重に断った。一度は見捨てて他の人に任せようとか考えてた身としては、そういうのを貰う気にはなれなかったのだ。
「さて、僕も帰るか。って、あ!庭の歪みのこと通報してない!」
僕の家の庭は塀で囲まれてるから外からだと気付けないだろうし、もしうちの庭からもモンスターが出て来てたりしてたら一大事だ。
とはいってもうちはすぐそこだしここからでも見えるけど、モンスターやらが出て来てる様子はないな。それに今ならもしまた戦うことになっても……。
そんなちょっと危ない思考を抱えながら家に戻ると、やはりというべきか歪みはまだそこにあった。そしてここでいけない考えが頭を過る。
「ちょっと覗いてみようかな……いやここうちの庭だし、完全確認安全確認」
ニュースで既に歪みの中は危険だと報じられているのに安全確認もなにもないのだが、僕はこの光合成という能力を試したくてうずうずしていた。
今この瞬間も光合成により体内にエネルギーが蓄積されている。いきなり持ってしまった大きな力に、僕の少年心が抑えられなかった。
そして僕はひっそりと歪みに侵入した。歪みには触れるだけで、次の瞬間には目の前の景色が変わっていたのだった……。
歪みに入ってすぐ、僕は興奮していた。
「ここは天国かな?」
歪みの中は迷宮などではなく、その光景を一言でいうなら「砂漠」だった。そして砂漠ということはもちろん太陽もあり、それを妨げる遮蔽物などあるわけもなく……。
「オアシスだ……しばらくここにいよう」
僕は上半身裸になり腕を広げる。オアシスと言ったがもちろんそんなものはない。ただ気分は完全にオアシスだった。
「暑いとか思わない……これが葉っぱさんの気持ち?なんだか地球の日光より幾分か気持ちいい気がする。太陽にもブランドとかあるのかな……」
僕がそんな変なことを考えていると、ズズズ、と砂をかき分ける音がする。そちらの方を見ると人間くらいあるミミズがこっちを見ていた。
「……き、キモイ……かも……」
「ギシャーーーー!!」
ミミズが怒ったように突撃してくる。でも僕は悪くないと思う。現代っ子がでかいミミズなんか見たらそらそう思うよ普通。でもやっぱりごめんね。
今更謝罪したい気持ちもでてきたけど向こうはもう臨戦状態。殺意マシマシで突撃してくる。ならばこちらもやるしかあるまいて。
光合成で得たエネルギーは色んなものに変換できるみたい。けど変換効率というものもあるみたいで物を創り出すとかはちょっと今は無理そう。今できる攻撃手段になりそうなもの。それは……
「いけっ!レーザー砲!」
光線である。日光を吸収して得たエネルギーを光線として射出する。これが結構エコなんだ。
チュィィィィン、と音がして僕の胴くらいある太さの光線がミミズが飛来する。光の速さの攻撃を避けられなかった哀れミミズは消し飛んだ。南無。
「結構あっさりいけるかも?散歩がてら駆除していこうかな」
そこから僕は全方位に光線を撃ちだす破壊兵器と化してミミズを屠っていった。ミミズの死体がちょっと残るけどもちろん回収しない。
歪みの中の砂漠は日が落ちるということがないようで時間間隔の狂った僕は一日中ミミズ狩りをしていた。
地球に戻ったその夜に学校の先生から電話がかかってきたのは言うまでもないことかもしれない……。
余談だが、ミミズ殺戮兵器と化してあれだけ光線を放っていても、僕の中のエネルギーが減ることはなかった。むしろ歪みに入る前と比べ倍以上になっていたのは、喜んでいいのやらなんやら……。