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やれ ヤレ 

「二人とも、お喋りはそこまでだ。モンスターのお出迎えだぞ」


 大賀さんのその一言で軽いコントをやっていた僕と霞ヶ丘先生は前を向く。

 この蛮鬼の迷宮は幅5メートルの道が迷路状になっていて、モンスターに気付いたら囲まれてたなんて話がよくある場所らしい。

 そしてそのよくある話が、今この場でも起きていた。


「ちょっと囲まれてるじゃない。きゃー!双葉助けて!」

「囲まれてしまったか。うっ!傷が痛む。双葉くんに助けてもらわないと」


 最初に言っておくと今の状況は想定内の出来事である。スタンピードで溢れたモンスターは大半が外に出たと考えたいが、あの業火の中に飛び込むような思考は生き物ならきっと持たないだろう。故にこうして出口付近に集まったけど出るに出られなくなったモンスターたちを狩りに来たわけだ。


 だからこの場での想定外と言えば、白々しくもか弱き乙女を演出するこの大人二人のことだけである。


「何やってるんです?白々しいし僕の名前は朧です」


 この大人二人の行動が想定外だっただけでモンスターに囲まれるのは想定内。このダンジョンは迷宮型でありその通路幅は5メートル。ここは十字路だから前後左右に極太レーザーを撃てば終わりである。

 最初僕一人で潜ろうとしたのも、これを繰り返して溜まったモンスターを排除しようと考えたから。最初から大賀さんも霞ヶ丘先生も戦力として期待して連れてきたわけではない。

 なのでこの状況は困るというわけではないのだが、残念ながら僕には女性経験というものがなく、言うなれば「やれやれだぜ」ということになる。ちょっと強がり過ぎかもしれない。

 でもこういうとき強がって女にいいとこ見せるのが男ってもんなんだって、父さんが言ってた!


 よし!


「や、ヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレレレレレ………」


 くぅ!舌が回らない!そのくせ早口に……!でもなんとかやれやれって言えたしこれちょっとかっこいいのでは……?

 未だ曲がり角から押し寄せてくるモンスター共に光線を放ちながら、2人にチラと視線をやると


「あ、ああ任せろ朧さん。私もすぐにこいつら殺るからホント任せてほしい」

「おおお朧様ばかり働かせてなにもしないのは先生もいけないと思ってましたっ!はい!殺戮の魔導書(グリモワール)!」


「…………?」


 …………?


 思ってた反応と大分違って二重思考で疑問符が湧いてしまった。

 大賀さんも霞ヶ丘先生も急にどうしたんだろう?朧さんだったり様だったり急によそよそしいし、妙に焦ってるような……?それに加えモンスターに対する殺意も半端じゃない……。


 ん?


「やれ……ヤレ……殺れ………っ!!」


 もしかして殺れってこと!?そんな悪の首領みたいな命令を出されてると思ってるの!?

 違う!僕は人畜無害なか弱き一般人、百歩譲って仏がいいところだ!いや進んで?いやいや今はそんなことより誤解を解かなければ。

 ちょっと考え事してて手も止まってたけど、モンスターが僕のとこまで来ないってことは二人が守ってくれたんだ……!この絆があればきっと分かち合える。

 でもやっぱりちょっと怖いから目玉だけ動かして様子を見ると


「殺ります殺ります任せてほしい!!あー!殺戮が楽しいー!………ひぇっ、こっち見てる……」

「先生は殺るときは殺る先生だって先生思ってますっ!!………ひゃぁ、今度はこっち見てる……」


「………………」


 しばし呆然と二人との絆を確かめた後、僕はスッと上を見る。こんな時はお天道様を見れば心が安らぐんだって僕知って…………。


「クソッ!ここ太陽がない!うわああああああああ!!」


 やるせない。僕はそんな気持ちをエネルギー変換してモンスターに突撃したのだった。


 後に『朧と二人の従僕』という物語で、ダンジョンにまつわる逸話として今日の出来事が残ったとか残らなかったとか……

 

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