霧と道化
やることやって言いたいことも言えたので、地面に降りて大賀さんの様子を窺う。そのときチラと周りの反応も確認したのだが、誰もが呆然と僕のことを見ていてなんだか恥ずかしかった。やはり慣れないことはするべきじゃなかったかもしれない。
それに、あの目には畏怖と尊敬が両方含まれた、面倒ごとの予感がしたのだ。
名を朧と偽ってはいても、この顔がしられていては意味がない。そのことで早速頭を悩ませながら降りたのだが、大賀さんが
「朧くん、今の君は霧に包まれた人型のナニカだと周りには見えている。その腕輪は魔法具でな、付けている間は能力者『朧』として振舞えばいい」
と、小声で教えてくれた。
これはつまり、僕が双葉 雛鳥という人間だと自分で明かさなければ、謎の能力者『朧』で押し通せるということか?素晴らしくないかな?素晴らしいな。やっほーい。
「あ、でも……なんでこれを僕に?だってこれがあれば大賀さんは……」
気付いてしまった。外見を霧で隠せるこの腕輪は、本来大賀さんのような人にこそ必要とされるものだろう。これをつけていれば、能力で見た目が変わっても、それこそモンスターのようになっても「霧の人」で通せるのだから。
この戦いでだってこれを僕に渡していなければ大賀さんは……
「おいおい朧くん。君まで私をモンスター扱いするのかい?流石に泣いてしまうぞ」
「ち、ちがっ!?大賀さんは誰よりも気高くモンスターと戦ったじゃないですか!それでみんなを守ったのに、モンスター扱いなんてそんなことしませんっ!!」
突然の大賀さんの言葉に慌てた僕は、ついそう声を大きくして反論していた。その声は、黙ってこちらの様子を窺っていた他のみんなにも聞こえたようで
「……そうよ。むしろ国軍で一番活躍してたのあの人じゃない!」
「俺、一人でよくやるなぁって、マジあの人の安心感半端なかったべ!」
「あの霧の人の知り合いみたいだし、もしかしてあの二人は天の使いなんじゃ!?」
「恩知らずな悪い奴はお天道様が許さねーべー!」
そんな大賀さんわっしょいムードが巻き起こっていた。ついでに僕のことも一緒になんか言ってる人がいるけど、天の使いってちょっと飛躍しすぎじゃない?
だけどなんにしても、この雰囲気になって良かった。僕が降り立つ前から一人で鬼と化して戦う大賀さんのことを、恐れや敵意の視線で見ている人もいたようだから。
その人たちの全員がこの場で意見が変わったとは考えないけど、発言できない空気に持っていけたのは僥倖だった。
「もしかして狙いました?」
「それは君じゃないか?ふふっ」
だからそんなことを僕たちは小声で囁き合って、お互いに笑ったのだった。
あれから学校にいた軍の人達は、後処理に少しを残して散っていった。きっとまだ戦闘が終わってない場所に救援に向かったのだろう。
僕はというと、大賀さんと一緒に校庭のダンジョンに潜っていた。
大賀さんは傷が酷いんだから休んでてと言ったのだが、鬼の再生力を舐めるなと胸を張り、その後僕と離れるのは心細いと下を向いたので、僕はやられた。やっほーい。
そしてこの場には何故か霞ヶ丘先生もいる。
僕と大賀さんが念のためダンジョン内のモンスターを一掃しようと入口に近づいたら、後ろから彼女もついてきた。
彼女は今も無言で僕たちの後ろをついてくる。僕としては大賀さんに相談したいのだが、こうもぴったりついてこられるとその隙もない。
大賀さんも何も言わないし、どうしよう、と思考を潜らせていると
「双葉は数回会っただけの女性より担任の先生を慕ってくれるいい子だと先生は思ってました!(ダンッ!)」
と、いきなり後ろで叫び出した。謎の効果音までつけて。今の音なに……
あれ?ていうか今双葉って言った?もしかして僕の正体ばれてる!?霧で包まれた謎のエージェントのはずなのに!
どうなってるんですか大賀さん……!でも今はそんな事すら話せない。なんとか誤魔化さなぃ……と?
そもそも霞ヶ丘先生にまで隠す理由ってなんだろう?ただ今は漠然と『朧』として正体を隠さなきゃと思ってたけど、この人になら話してもいいのでは?
話す?話さない?謎と霧に包まれた僕の答えの行く末は――
「双葉は落ち込んでいる先生のことを無視するいけない子だとは先生思ってませんでしたっ!(ダンッ!)」
「双葉はもっと先生のこと信頼して好ましく思っていると先生勘違いしてましたっ!(ダンッ!!)」
「先生は自分の救世主に少しでもお近づきになりたいと浅い考えで寄ったらまさか双葉にシカトされるとは夢にも思っていませんでしたああああっ!!(ダァァァァンッ!!ガラガラごろごろ……)」
それは霞ヶ丘先生の猛アタック。主に言葉の勢いと謎の効果音でその場を支配した!
「……いや、その効果音なんです?霞ヶ丘先生」
「道化の魔導書。これ便利よ、音だけ出せるの」
知らんがな。




