怒りと羞恥
本日二話目です。
いつもお付き合いくださりありがとうございます。
僕の通った学校まで歩いて15分。今の空を往くやり方なら、きっと3分もかからない。
でも
眼下に広がる光景は決して穏やかなものじゃなかった。
荒れた地形に、血を流して倒れている人もいる。モンスターとの戦闘もまだ終わっていない。
高速で空を飛びながらも見えるその光景は、つい速度を緩めて手助けに入ろうかと思えてしまうものもしばしば。
けれど大体何処も既に安定した状態になっていることを見て、血を流し倒れている人たちは任せても良さそうだと学校へと進む。
こんな景色、見たくない。
この町は名物もないけど治安も悪くないいい町だった。なのに何故こんなことに……。
『会いに行く』。こんな状況を見せられて思い出すのは夢の中のあの女性の言葉。
あの言葉から僕の生活がまたガラリと変わった。そして変わったのは世界もそうだ。ダンジョンが現れて、モンスターという危険生物が出てきて、異能なんて力を得られるようになった。
関係なんてないのかもしれない。偶然か必然かどちらにせよ、まだ彼女が悪と決まったわけではない。
でも眼下の光景は嫌でも僕に責任を問うてきて、酷く心が疲れた。
そんな心理状況の僕の視界に、またもストレスが溜まる光景が目に入る。学校だ。
学校ではその広い校庭を戦場に、6割モンスター、4割人間という、なんとも予想外の事態が繰り広げられていた。
(僕はてっきり学校で避難民を守りながら防衛戦をしているのかと思ってたよ、大賀さん……)
心の中でそう愚痴を溢す。けれどその大賀さんらしき姿も戦場で見つけたことにより、また酷く僕の心にストレスが溜まることになる。
大賀さんはその体を、髪も、肌も、目も、爪も角もすべてを紅く染めて孤立奮闘していた。所々破けている軍服までもが赤黒く染まっているのは、僕の心を酷く痛めつけた。
なにより腹が立ったのが、彼女が孤立して戦っているということだ。
同じ軍服を着た奴らは別の場所で纏まって戦っているのに、どうしてか大賀さんのもとへは駆けつけない。
誰も鬼のように戦う大賀さんに近づこうとしない。なのにその大賀さんは他の誰よりも活躍しているように見えるんだから、やっぱり彼女はかっこいいと思う。
(ああ、でも、ストレスが半端ない……)
すぐにでも大賀さんの元へと駆け付けたいのに、今の心境で突っ込んだら手元が狂いそうだ。あんなでも一応大賀さんの味方なわけだし……いや本当にそうだろうか?ダメだ、考えるとまたストレスが溜まる。
仏の心を取り戻そうと、一度空を見上げる。そして大きく深呼吸。
ああ、こんな時でも
「太陽が、気持ちいい」
あの光は、僕の心に優しさをくれる。
また平静をなくしたら上を見よう。そう決めて心を落ち着かせた僕は、下を見てある人と目が合った。
「霞ヶ丘先生……!!」
よかった、彼女も無事だった。そのことに安堵しつつ、それでも今は最前線で戦う大賀さんのほうが先決だと彼女の元へと降り立つ。
そのとき彼女に群がるゴミ共は光の面攻撃で消しておいた。これくらいなら瞬きする間の出来事だ。
でも一瞬とはいえちょっと眩しかったかもしれない。光は集約して放っているので直撃しなければ電球をジッと見つめたくらいにしかならない。でも多少視界がぼやけるくらいはあるだろうし、大賀さんにはもう休んでて貰おう。
因みに直撃したら消し炭なので失明の心配はいらない。
「大賀さん」
「きたか、ふた……いや朧くん。君の事、待ってたぜ」
待ってたなんてそんな、嬉しいやら申し訳ないやら。でも朧ってダレ?
「………?朧って誰です?ま、まさかもう僕のこと」
「忘れるわけないだろ?だが話は後だ。とにかくその腕輪をつけてる時は朧とでも名乗るんだ。いいな?」
「は、はい」
よくわからなかったけど大賀さんの言うことなら僕に否やはない。僕はまだ見たことないけどそういう魔法的なアイテムなのかもしれないな、この腕輪。
そんな会話をしている間にもモンスター共は際限なく湧いて出てくる。
ゴブリンにオーク、オーガにコボルト……どれも日本人には馴染み深いやつらだけど、大賀さんみたくかっこよくない。むしろあんな醜悪な奴らが角なんか生やしてるせいで、大賀さんのイメージまで悪くなっているんだろう。
大賀さんはこんなに魅力的でかっこいい女性なのに。
許せない
「大賀さん、見ててください。この朧、ただ日光浴が好きなだけの物好きじゃないんです。太陽さんから貰った元気は、いい子には分けてあげて、悪い子には消えて貰うために使うんです」
「ふた、朧くん?」
「悪い子悪い子いなくなれって、きっといい子みんなの願いですよね。僕はそれを、少しでも叶えたい」
「落ち着くんだ朧くん。なにやらおかしなテンションになってないか?」
大賀さん、僕は怒ってるんですよ。あなたが傷ついているのを見て、腸が煮えくり返っているんです。
こんなこと、恥ずかしくてとても本人には言えないけど。
けど見ててください、これが僕の気持ち。
「天照」
それは燃え盛る炎。僕の怒りを表すように、僕の想いを示すように。
僕が手を振れば火柱が立ち昇り、見えるところに敵がいなくなれば僕も空に昇る。
そして炎はやがて校庭のモンスターすべてを包み込み、湧いて出てくるやつもいなくなったあと、僕は言うのだ。
「お天道様が輝く下で、悪いことは許されませんから」
少しでも僕の怒りが伝わればいいと、声を大にしてそう言った。




