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【邂逅】――最強の始まり

 ――大きな木が見える。

   天高く聳えるそれを見ていると、どうしてか心か落ち着く。



『――何処にいるの?』



 ――綺麗な声が聞こえる。

   すべてを包み込むようなその声を、ずっと聴いていたいと思う。



『――会いに行くわ、あなたに会いに』



 ――ああ、落ち着く。これは懐かしい記憶だ……。

   あれ?でもこれは本当に僕の記憶?



『――会いたい。あなたに会いたい。一緒にいたい。だから会いに行く』



 ――僕も会いたい。

   だけどそれは叶わない。

   だってこれは僕の選んだ道、試練。

   だからお願い、だから……





『――――ミツケタ』


「うわあああああ!!」


 チュンチュン


 鳥の囁き声が聞こえる。窓から朝日が差し込む。僕は目覚めた。


「朝……夢かな?」


 朝が訪れたことに夢を疑ったのではない。先程みていたやけに頭に残るやり取りが、夢かどうか疑ったのだ。

 僕はベットの上で汗をたくさん掻いていた。今の時期なら外はむしろ肌寒いほどだというのに。


「……でも寝てたんだから夢、でいいよね……?明晰夢ってやつかな?もしくは正夢……」


 そこまで考えて僕は頭をふる。あまり怖いことを考えるのはよそう。

 途中までは心地いい夢だったのにな……。最後の「ミツケタ」と言った女性の声が頭から離れない。


「ご、ご飯たべよ。学校行かなきゃ」


 僕は16歳の高校生、学校に行く準備を進めなければ遅刻してしまう。

 怯える心にそう言い聞かせて僕は部屋を出た。


 僕には両親がいない。兄も姉も弟も妹もいない。まあ後半に関しては最初からいなかったのだけれど。

 両親は僕が高校受験に合格したと共に事故で亡くなった。車を運転中に風で飛んできた看板がぶつかってそのまま崖下に落下したらしい。

 高校の入学を祝ってくれる人は、誰もいなかった。


「父さん、母さん、行ってきます」


 仏壇に手を合わせて、僕は今日も学校に行く。それはいつもと変わらない日常のはずで、だけど嫌な予感が拭えない僕はいつもより長く手を合わした。

 まだあの夢のことが頭から離れないのだ。心がモヤモヤして、何か悪いことでも起きるんじゃないかと怯えてしまう。


「~~~~っ!!いつまでも夢のこと気にしてても仕方ないよね!よし!行ってきます!」


 一度自分に活をいれて立ち上がる。夢は夢と、割り切ることにして……



 家から出て3秒、夢を夢で片付けていいものか悩む事態に遭遇した。いや、厳密にはまだ玄関を出ただけで家の敷地内だからむしろ0秒?ていうかノーカウントかな?


「よし、帰ろう」


 ここから何処に帰るんだという話だが僕は今混乱している。強いて言うなら家の庭から家の中に帰るというところか。

 リビングに戻りテレビをつける。ニュースを見るためだ。ただ混乱のあまり家にいながら家に帰るなどと言ったのではない。庭で見つけた、見つけてしまったものが現実ならばきっと世界的にニュースになっているはず……


『世界各地で突如として出現した歪みは異空間と繋がっていることが既に国軍によって確認されており、その中には危険性を有するモンスターが跋扈しているとの情報が入ってきています。もし歪みを見つけても無闇に近づかずにこちらの電話番号まで……』


 僕はそのニュースを見た途端昨夜見た夢のことを思い出していた。タイミングからみてもあんな夢、無関係とは思えない。確かあの夢の中で女性は「会いに行く」と言っていたけど……ちょっとドキドキする。

 あ、でもあの夢を見たのは僕だけじゃないかもしれない。ニュースでは報じられてないけどもしかしたら世界中みんな同じ夢見てたりして。

 そう思ってネットでいろいろ調べてみたけどヒットする情報はなし。少なくとも地球全体で夢を共有したわけじゃないみたい。ネットに上がってないだけで見た人は他にも少しはいるのかもだけど。


 そこまで確認した時には時刻はもう遅刻確定。まあこんなことが世界中で起きてるんだから今日くらいはそう怒られることもないと思うけど。

 

 なんにせよ僕の家の庭にもその件の歪みは出現しているのだから、まずは通報かな。

 そう思って携帯を手に取るのと同時だった。外から生々しい悲鳴が聞こえたのは。


「キャーーーーー!!」

「まだなにかあるの……!?」


 僕はいつでも通報ができるよう携帯を手に持ったまま外の様子を窺う。するとそこに見えたモノは、緑色で醜悪な怪物。ラノベでよく見る、ゴブリンだった。


「おいおい歪みから出て来てるってこと!?もしかしてうちの庭!?」


 僕は急いで窓から庭を確認する。カーテンをちょっと捲り覗いてみると……


 シーン……


「う、うちの庭じゃない。よかったぁ……」


 ということはあのゴブリンは別の場所の歪みから?ていうかさっきの悲鳴の主の安否は!?


 外に駆け出そうとして、思いとどまる。僕が行ってなにができるっていうんだ……。ゲームじゃゴブリンは雑魚敵だけど、ここは現実。色々ゲームっぽいところが現れたけど、現実で間違いないのだ。……多分。


 とにかく、碌に武術もなにも教わってないただの高校生で勝てるかどうかはわからない。僕で勝てるなら他の人でだって勝てるだろう。それにもう通報だっていっているはず……。


「……………………」


 なんか、違う気がする。自分が勝てるかわからない、とか、誰か他の人でも、とか。こんなの言い訳だ……。

 命大事に。もちろんそうさ。誰だって自分の命が恋しい。だけど「命大事に」は、自分の命だけ思いやってても命を守れない。いつだってお互いが気に掛けるから、秩序は生まれるんだ。


 僕はキッチンから包丁を持って、外に駆け出した。


 庭の歪みは一旦置いておいて道路に出ると、左側20メートルくらい先にゴブリンがいた。一体だ。そのさらに5メートルほど先には、へたり込んでいる一人の女性。

 僕はそれを見た瞬間、走り出した。

 ゴブリンはまだこっちに気付いてない。ゴブリンの背丈は僕の腰くらいで、武器は持ってない。


 ――いけるか?


 理想はここままゴブリンがこちらに気付かないで後ろから包丁で倒すことだけど、足音とか全然消してないしばっちし聞こえてるんだろうなぁ……。そう思っていると案の定、ゴブリンがこちらを振り返った。

 その目を見た途端わかる。悪意を宿す目だ。一体これから女性をどうするつもりだったのか、問いただしたい気持ちもあるけどそれより。


「――死ね!」


 僕のゴブリンに対する殺意の方が上回った。


 ゴブリンは跳躍してこちらに襲い掛かってきている。でもその体の大きさで武器も持ってないなら、リーチはこっちが有利!

 胸の前で包丁を両手で握り、勢いそのままに前に突き出す。包丁の刃先がゴブリンの胸に当たり、そのまま嫌な感触と共にズブッと入っていく。

 包丁の大半が刺さったと思ったとき、流れるように腕を横に振るい、手を離す。ゴブリンは胸に包丁が刺さった状態のまま、ドサリと地面に倒れ込んだ。


「はぁ…はぁ…」


 ゴブリンは動かない。代わりに胸から緑色の血を流している。……死んだか?と呆然と眺めていると、瞬間――


【異界ナバラとの接続を確認】

【個体情報検出中……】

【コネクト可能な上位存在を確認】

【■■■:■■■■■と接続開始……】

【コネクト】

【次いで■■■:■■と接続開始……】

【失敗】

【リンク能力一部発現:光合成】

【情報検出を終了します】


 その声が聞こえたのは一秒にも満たなかっただろう。けど十分に理解できた。


 さんさんと照り付ける太陽を見上げる。


 僕の中で力が渦巻いていた。

 

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