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アキラの告白

 彼は軽自動車の女性に話しかけている。怪我は無いみたいだけど、、ふらつく彼女を支えながら、落ち着かせるように歩道の方へ連れていく。


 トラックの方は路肩に車を停めると警察にでも連絡を入れたのだろう。直ぐに駆けつけてアキラも何故か事情聴取に加わってた。



 この人ほんとに困っている人がいると私もそうだったけど、見捨てない。私も車から降りて電信柱の横で事件現場を眺めている。


「ケホッ……」


 口元を抑えると手に紅の鮮血がついて、二度見した。凍りつきそうになる。だ、大丈夫だから。ハンカチで口を拭く。


 その日は家まで送ってもらい、また次の日アキラと会う約束をした。私には思ったより時間がないのかもしれない。アキラの恋だけでも何とかしてあげたい。


 次の日。


「今日こそは気合い入れてやってもらわないと」


 腰に手を当てて、彼を指さすが、キョトンとしたとぼけた顔で私を見てくる。


 月日は早い。今日という日は二度と訪れない。やると決めることがあれば、早いに越したことはない。なのに、アキときたら、何もしない。だいたいまだ顔も覚えてもらってないし。


「まさか……告白?」


 オドオドした顔になり、私の方を甘えた顔で見てくる。ここで甘えさせたら、せっかくのデートの練習が水の泡となってしまう。気持ちが高ぶっている今が勝負時なのだから頑張ってもらわないと。


「とりあえず告白してきてよ!」


 まるで虎の子が崖から親に突き落とされるような感覚がしたけど構うものか。何かを得ようとするものは、恐怖に打ち勝たないと、手に入らないなんて当たり前のことじゃないの。


「別に今日じゃなくてもいいんじゃない? そうだ。来週。来週に告白ってことにすれば」


「駄目だよ。そうやっていたら、いつまで経っても進展しないし。無理なら、サッサと諦めて次に行った方がいいよ」


 花屋の入口付近で誰かを待つ素振りをしながら店内をのぞく。


「あのっ……」


 いいよー。いけいけっ。頑張れっ。今までの成果見せて!


「いらっしゃいませ。色々ありますので見ていってくださいね」


 場の空気を一変させるような、明るい透き通った声。私でも、この店に入ったら何か買ってもいいと思わせるようないい声。顔もよく見ると可愛らしいじゃないの。肩まで伸びる黒い艶のある髪にモデル体型のスタイル。私とは全然違うタイプだった。


 彼の体に垂らした手が震え、足が落ち着いてない。


「実は前から気になってて」


「あー、このお花ですよね。蘭の1種ですね」


「はい……」


 とんだぽんこつ。そんなふうに育てた覚えはないよ。ちゃんとしてよ。


「それじゃなくて」


 そう、花じゃないの。しっかりして。私は彼のお母さんじゃないのに。応援が止まらない。


「はいっ?」


「あなたのことなんです?」


「わたし?」


 彼女はぽかんと小さく口を開けると、すぐに手で隠す。これはダメかもしれない。


「前から気になってまして、良かったらこれ」


 手に持った紙切れを渡そうとしている。あそこには名前とメルアドを書くようにアドバイスした。


 彼女は一瞬迷い手をお腹の前で組む。ダメかな……。


「ごめんなさい。受け取れないです。あなたのことわからないから」


 とは言うものの、彼女の頬が何やら赤くなってきた。まだ分からない。


「僕は教師をしてます。あさひ中学の1年生を受け持ってます。たまたま、ここを通った時にあなたを見かけて」


「え? 学校の先生なの? 」


 少しだけ、身体が仰け反り、驚く花屋の女の子。さっきまでの戸惑った表情が代わり、外に聞こえるような甲高い声を上げた。そうして、手を遠慮がちに差し出した。


「仕事中なので、家でゆっくり考えてから連絡してもいいですか?」


「分かりました、ストーカーとかなるつもりもありませんので大丈夫です」



 感極まって泣き声になる彼を見て、気持ちが私も高ぶるけど、なんで余計なひとこと言うのかな。ここで引きでもしたら全てがおわっちゃうじゃないの。


「はぁ」


 ため息をつきながら、店から出てくる。そんなに悪くなかったと思うけど。



「ここだと、あれだから少し歩くよ」


「どうだった? 上手くいってた?」


「ダメかもね」


「なんで?」


 いきなり恐怖心煽ってどうすんのよ。そんなんでよく生徒の前に立ってられたわよね。


 なんで、私はイライラしてるの。

正直、良くも悪くもない。でも、明らかに職種を知ったあとで対応がわかりやすいぐらい変わってた。ということは、人に貼られたラベルに弱いタイプで家にはブランドバッグがあるんじゃないのかなとか、想像力を膨らませていた。



「ほんと、ありがと、一人だったら何も出来なかった」


 もう少し離れたとこでやりなさいよ。ここはまだ店から近いから聞こえたら困るのはあなたなのよ。小さい声出すとか少しは考えて……。


「よいしょっと」


 おっさんかよ。彼はそう言って車に乗り込む。私の前ではこんな風に素の自分をさらけ出しているのに。


 ん?


「落ちたよ」


 古臭いカエルのキーホルダーのついた鍵が足元に落ちる。ちょいとまって、これって。


「アパートの鍵?」


「あ、うん」


「ちょっと見せて」


「なんでだよ。それ一応大事な物なんだけど」


「まー、鍵無くしたらはいれないよね」


「ううん、カエルの方。二つで一組みなんだけど。そんなことより、何か奢るよ」


「いいよ、この間も奢ってもらったし、私達もそろそろ関係終わらせないと……」


 何か引っかかる似てるけど、まさかね。


 彼の顔を覗き込むけど、興奮してそれどころでは無い感じだ。


「え、これみて? えっ、メール来たんだけど」


 メールの内容を見せてもらうと。一度、ご飯に誘ってくださいと好意的な内容だった。え……。せっかく作戦が上手くいったのに、私の胸がザワつく。いったいこの落ち着かない気持ちはなんなの……。

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