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BRAIN EATER(ブレイン・イーター)  作者: 芥子田摩周
序章
1/23

第1話 魔王の誕生①

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 遠い遠い、遥か昔の世界――

 長きに渡り続いてきた神々と悪魔の軍勢による戦争は、両者相討ちという形で終結した。

 神の消失により畏怖と信仰の対象を失った人間達であったが、彼らは自らの意思で立ち上がり、己の力で世界を切り拓いていった。

 やがて時は流れ、戦争と開拓の歴史が神話として語られるようになった頃――ひとつの物語が動き出す。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


紀元前3000年頃 ―レウス王国 ラバナ村―



 東には険しいオリエンス山脈、西を見れば切り立ったオクシデンス山脈。

 そびえ立つ二つの山脈が出会う山間地帯――

 王都から馬を飛ばしても10日ほど掛かる辺鄙へんぴでのどかな田舎村が、その日は珍しく沸いていた。


「ガランド様だ! 『大騎士』ガランド様が帰還されたぞ!!」


「あのやんちゃ坊主が、今や王国で3人しかいない騎士の頂点だもんねえ……本当に立派になったよ」

「ああ、しかも史上最年少のスピード出世だ! 後でサイン貰ってこようかなあ」


 自身に向けられる声援に右手を挙げて軽く会釈をしながら、まるでお祭り騒ぎのような村内を一歩一歩進んで行くガランド。人だかりは尚も大きくなっていく。



「見ろよ、あの海のような深い青色の瞳……!

吸い込まれそうな目の色だよなあ……くぅ~!しびれるぜ!!」


 人ごみの最前線でキラキラと目を輝かせる少年は、傍らの妹に興奮気味に話しかける。ところが妹は兄の声に返事をすることなく、じっとガランドを見つめたまま微動だにしない。


「……おーい、どうしたんだ? さては感動しすぎて声が出なくなったな?」


「ううん、そうじゃなくて、何ていうか騎士様の目が……すごく悲しそうだったから……」



 ガランドは周囲の声に控えめに応えながら、歩みを止めずに村の奥へと進んで行く。

 ――しばらくして比較的大きな一軒の家の前で立ち止まり、入口で待ち受ける髭と眼鏡の老人に導かれるようにしてその家の中へと入っていくのだった。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


「いやはや、今日帰って来るのは事前に知らせを貰っておったとはいえ、“大騎士様”がお供も付けずに来るとは思わなんだぞ、ガランドよ」


「はは、コッソリ帰ってきて村長と落ち着いて話をしたかったんですが……思った以上に騒がせてしまいました」


「ほっほっほ、今やお主は王国が誇る光の大騎士じゃ。皆が盛り上がるもの無理はあるまい」


 そう言って村長は口元を覆う白くて長いひげを撫で付けながら、ニコリと微笑む。

 しばらくの間、とりとめのない会話をしながらガヤガヤ賑わう窓の外を眺めていた村長だったが、ふいに眼鏡をキラリと光らせてガランドの方へ向き直る。


「さて、そろそろ話してもらえるかのう? 突然この田舎に帰ってきた理由を……」


「ああ、そうでした。もったいぶって言う程のことではないのですが――実は、ひと月ほどいとまをもらったんです。“調べもの”ついでに、久々に故郷の空気を吸いたいと思いまして」


「何と……王国守護の要である大騎士が、ひと月ものいとまを貰ったとな?――只事ではない。ワシは齢80になるが、そのようなことは前代未聞だ。いったい何があったのだ?」


 眼鏡の奥で目を見開きながら、村長は驚きの声を上げる。

 しばらく問いかけの返答を待っていたが、ガランドが話しづらそうに口をつぐんでしまったため、村長は一呼吸おいてから再び言葉を掛ける。


「もう一つ気になることがある……リゼの姿がないが、まさか連れて来なんだのか? あの子も久々に家族や村の皆と会いたがっているだろうに――」


 その言葉を遮るように声を絞り出すガランド。


「妻は――リゼは 死にました。もう、1年になります」



「な――何と、それは一体どういうことだ? あの活発な子が二十歳はたちそこそこの身空で逝くなど、俄かには信じられん……! 病だったのか……?」


 ガランドは口を真一文字に結び、悔しさを滲ませながら首を横に振る。


「――俺が、守れなかった」


「守れなかった……? 守れなかったとはどういうことじゃ!? 光の大騎士を以てして守れぬものなど――!」


 村長はハッとしたように自らの口を押さえて言葉を遮り、手を震わせながら目を閉じる。

 それから呼吸を整えるように、ゆっくりと息を吐きながらガランドに視線を向け、静かに口を開いた。


「すまぬ、ワシはお前たちを子供の頃から孫のように思ってきた故……つい、語気を荒げてしまった。――辛いだろうが、何があったのか詳しく話してくれんか」



「すみません村長……残念ですが、仔細を話すことはできないんです。

ただ、『教会』は……もはや――」


 その言葉を遮るようにして、ドンドンと荒々しく扉をノックする音が部屋に響き渡る。

 何事かと二人の視線が玄関に向いたその時、扉を乱暴に開け放ちながら一人の男が入って来るのであった。


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