3.4 一人じゃない
聖騎士団に入って半年が経ち、ウィルフレッドはこれまでの人生と同じように、聖騎士としての遠征にも参加するようになっていた。ただし二度目の人生とは違い、今回はセオドリックの護衛もあり、前ほど積極的に遠征に志願することはできなくなった。ティエル湖への遠征には、必ず行くつもりではいたが。
聖騎士としての任務と、学院内でのセオドリックの護衛の任務を両立させるため、毎回スケジュールの確認をテレンスとおこなう必要があった。
寮のラウンジで、次の任務の詳細が記された書類を見ていると、目の前でソファに深く腰掛けて足を組んでいたテレンスが、唐突に言った。
「ウィルフレッドってさ、アシェリー嬢のこと、好きだろ」
「…………」
ウィルフレッドは書類から視線を上げて、無言でテレンスを見つめた。テレンスは人懐っこい目で、にこりと笑った。
「あたり」
「……どうして」
今回ウィルフレッドは、アシェリーへの気持ちはギデオンとシンシア以外に打ち明けていない。当然、アシェリーに必要以上に接触もしていない。
「いや、見てれば分かるんだけど。時々、物凄く思いつめた目でアシェリー嬢のこと見てるし。無自覚?」
「…………」
「よりにもよって、アシェリー嬢か。一番報われないやつじゃないか」
かつてテレンスに言われた台詞と、同じだった。
「お前は何も言わないし、そのうち諦めるかもと思ってたけど、全然そんな風じゃないし」
テレンスはやれやれと息をついた。
「お前って、バカだな」
「……否定はしない」
「できれば他の子を好きになった方がいいと思うけど。お前、結構モテるし。オレの次くらいに」
「お前が人気があるというのも、今初めて聞いた」
「そこに反応する?」
ウィルフレッドが書類に視線を戻すと、テレンスがもう一度息をついた。
「お前、つらくないの?」
「……つらくても、どうせ諦められない」
「……バカだな、ほんと」
テレンスは呆れたように笑った。
「……でも、そう言うと思ってた。オレはセオドリック殿下のことも、お前のことも、一番近くで見てきたから分かるんだけどさあ」
テレンスの言葉に、ウィルフレッドは再び顔を上げる。テレンスは困ったというように、軽く肩をすくめた。
「セオドリック殿下とアシェリー嬢は、お互いを大切に思っていると思うよ。公務を執行するパートナーとして」
その人懐っこい目をいつしか真剣なものにして、テレンスは続けた。
「だけどお前は、理屈を飛び越えて、どうしようもなくアシェリー嬢が好きなんだ。だからオレも考えてしまう。アシェリー嬢にとって、幸せなのはどちらかなって」
「…………」
「オレにだって分からないんだ。でもお前は友達だし、幸せになってほしい。だからって、相手がアシェリー嬢じゃ、何にもしてあげられないけど」
テレンスは最後には再びいつもの表情に戻っていた。ウィルフレッドを心配し、幸せを願ってくれる気持ちが心を温かくする。テレンスは前の時だってそうだった。
「……テレンス」
「ん?」
「ありがとう」
「……言っただろ? 何もしてあげられないって」
「分かってる」
ウィルフレッドが笑みを浮かべると、テレンスはやはり呆れたように笑った。
ようやく分かった。一人じゃない。誰かの思いに、願いに、助けてもらってここにいる。




