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2.4 ここに戻った意味

「一体どうしたんだよ。急にアシェリー嬢に告白って、何で?」


 寮まで連れ戻されてウィルフレッドは、理解不能という表情で、テレンスから詰め寄られた。

 ウィルフレッドは伏し目がちに、自嘲的に小さく笑う。


「……分からない。本当に、どうかしてる」

「何だよ、お前……」


 テレンスは、ウィルフレッドの額にその手をあてて、くしゃりと前髪をかき上げた。


「そんな顔して、本気なのかよ」

「…………」

「……バカだな。何でアシェリー嬢なんだよ。よりにもよって、一番報われないやつじゃないか」


 テレンスはウィルフレッドからその手を離す。身動きすることもできないウィルフレッドに、大きく息をつく。


「セオドリック殿下の護衛の話は、無かったことになるかもな」

「……そうだな。悪い。お前の負担が増えることになる」

「それはいいけどさあ」


 テレンスはやれやれともう一度息をついた。そしてテレンスは、普段あまり見せない真面目な顔で、ウィルフレッドの肩を抱く。


「……ウィルフレッド、今はまだ無理かもしれないけどさ、できれば他の子を好きになれよ。つらいばっかりの恋なんて、するなよ」


 つらいばかり、じゃない。記憶の中では確かに、幸せな瞬間がいくつもあった。でもそれは、今の人生じゃない。


「オレは、お前に幸せになって欲しい。友達だから」


 テレンスが本気で心配してくれるのが伝わるから、ウィルフレッドは視線を上げて、ゆるくほほえむことしかできなかった。


「……ありがとう」


 結局、やはりテレンスが言ったように、セオドリックの護衛の任は解かれた。

 運命は、変わってしまった。皮肉にも、ウィルフレッドの告白によって。


 側についていなくても、セオドリックは目立つ。時折見かけたところセオドリックは、アシェリーやテレンス、他の学友達と穏やかに日々を過ごしていたが、かつてのようにシンシアと過ごすところをウィルフレッドは見ることがなかった。


 気になってウィルフレッドは、シンシアを一度学院内で探した。

 同じ学年であったシンシアは、確かに存在していた。かつてと変わらない柔らかく優しい笑顔を浮かべて、学友達と談笑している姿を見て、ウィルフレッドは心底ほっとした。もしも、彼女の運命が変わってしまっていて、万が一その命に何かあったのなら。そんな恐怖が頭をよぎって、不安だったのだ。

 セオドリックは、おそらくまだシンシアと出会っていない。これからのことも分からない。このままもう、ウィルフレッドは何も知ることはできないのかもしれない。


 ここに戻って半年が過ぎていた。ウィルフレッドは、最近は、積極的に聖騎士団の遠征に志願していた。本来、ウィルフレッドが王都に来た目的は、父に言われて聖騎士としての経験を積むことだ。

 それにもう、セオドリックとアシェリーが穏やかに日々を過ごしているなら、その邪魔にはなりたくなかった。それと同じくらい、いやもしかしたらそれ以上に、つらくて、二人の姿から目を背けたい気持ちもあった。


 今後の遠征計画の書類を見ている時、ウィルフレッドの手が止まる。

 王都から南に位置するティエル湖への遠征。周辺の村から、水棲魔獣の討伐が依頼されていた。

 この遠征には、覚えがあった。一度目の人生で、ウィルフレッドはこの遠征に参加していなかった。それでも記憶にある。目的の水棲魔獣の討伐はされたが、聖騎士ではなく、民間人の、しかも子供の犠牲があったからだ。


 その時ウィルフレッドは思った。未来を知っている自分が向かえば、運命を変えることができるかもしれないと。もし運命を変えることができたのなら、自分がここに戻った意味があるのかもしれない。


 多分そう思わなければ、ウィルフレッドは、このままこの場所で立っていられなかった。

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