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幕間 シュンイチ氏に関する行動レポート 1

 ええっと、こういうことは初めてなのでちょっと勝手がわかりませんが、よろしくお願いします。

 直属の上司からは、思ったことを自由に書いて構わないとのことでしたので。

 やはり、時系列順で書き連ねていくのがいいでしょうか。

 清書は……まあ手の空いた時にでも。


 やはり最初は、シュンイチさんの魂をこの世界に連れてきた転生システムから説明するべきでしょうか。


 私も大雑把にしか知らないのですが、こことは違う世界の魂を膨大な魔力と引き換えにして引き寄せ、『素体』と呼ばれる体に降ろすことを、転生と呼ぶのだそうです。

 一見、神の御業のような奇跡にも思えるのですが、もちろん色々と制約があります。


 まず、人が内包する魔力では、全く量が足りません。もし無理に転生を行おうとすれば、たちまち魔力が枯渇して死んでしまうそうです。もちろん、転生そのものも失敗です。

 そのため、地脈に流れる膨大な魔力を王宮の中に建てた転生施設に溜め込み、必要な魔力量に達したところで転生の儀式を行うのだそうです。

 これを纏めて、転生システムと呼びます。

(ちなみに、王国の転生施設は大国に勝るとも劣らない規模と完成度を誇っているそうで、転生に失敗した事例は比較的少ないと聞いています。すごいですね)


 また、この世界の死んだ人の魂を呼び寄せることはできないそうです。

 理由は分かりません。今の転生システムが出来上がって結構な年月が経ったそうですが、研究はほとんど進んでいないようです。

 それこそ、神の思し召しというものかもしれません。


 さらに、転生システムで呼び寄せることができる魂にも制約があります。

 死んでもなお、もっと生きたいという強い意思のある魂しか、この世界に引き寄せることができないのです。

 この理由も、未だによく分かっていません。ひょっとしたら、本来魂というものがあの世に向かう運命だってことと関係があるのかもしれないです。


 そんなわけで、色々と条件が厳しい転生システムですが、最大の欠点が、転生する魂の素質を判別する方法がないということです。


 ……ちょっと誤解のある書き方ですね。一旦話を戻しましょう。


 一口に転生といっても、ただ「生きたい!」と思っている魂をむやみやたらに連れて来るわけにはいきません。

 そのやり方だと、良い人も悪い人も一緒くたに、この世界に転生させてしまうことになるからです。


 そんな問題を解消するために、とある昔の偉人が凄い魔法を作り上げました。

 その魔法とは――ああ、長すぎて正確に書ける自信がないです。なので単に、『トランスサーチ機能』と呼ぶことにしましょう。昔の偉人さん、ごめんなさい。

 トランスサーチ機能とは、この世界でも異世界でもあの世でもない、異空間を彷徨う魂が持つ記憶を読み取ることが可能となる、複数の魔法の総称だそうです。

 これによって、その魂が持つ記憶を覗いて、基本的な個人情報や生前の行いを知ることができるそうです。


 ……なんだか、犯罪の匂いがするのは気のせいでしょうか?

 ま、まあ、これはあくまでも報告書ですから、難しいことはこれを読むだろう偉い人にお任せすることにしましょう。そうしましょう。


 トランスサーチ機能がなかったころの転生の儀式は、それはもう大変物々しい雰囲気で行われていたそうです。

 過去に、極悪人で魔法の才能に恵まれた転生者が王宮の警備が緩んだ隙を狙って脱走、辺境の野盗を纏め上げて一大勢力を作り、王国転覆を企んだと記録が残っています。

 その時は、総力戦になりつつも辛くも撃退、その転生者は処刑されたそうですが、それ以降、まだまだ研究の途上だったトランスサーチ機能の完成が急ピッチで進められ、今に至ると言われています。


 そんなわけで、善人ばかりを転生者として選べるようになったまでは良かったのですが、あいにくその素質を見抜く方法は、未だに発見されていません。


 剣術、魔法、内政、商売、研究。


 正直、才能ある転生者は喉から手が出るほど欲しい人材なのです。

 というより、普通に大国ですら、慢性的な人材不足から脱却できていないのが実情です。

 むしろ、各国が転生の儀式を定期的に行っている一番の目的が、世界の違いに関わらず優秀な人材確保にあることは間違いないと思います。


 とはいえ、上にも書いた通り、転生システムは一種のギャンブルです。

 長い時間をかけて、王国の作物の生育に影響のない範囲で地脈から魔力を汲み上げ、専門の訓練を受けた何十人もの魔導士を用意して、トランスサーチ機能で異空間に漂う魂を調べ上げ、しかるべき日時に万全の受け入れ態勢を整えて儀式に臨む。

 しかも、その結果は運しだい。


 ……想像しただけで頭痛がしてきそうです。

 少なくとも、私には魔導士の才能がなくてよかったと心底思います。


 良くも悪くも、そういう気持ちが上司にバレていたんでしょうか。

 今回の儀式で転生者の御世話役を申し付けられた私は、ある意味で当たりを引くことになりました。


 その名前は、シュンイチさん。


 シュンイチさんには家名もあるようですが、基本的にそちらは呼びませんし、書類にも記しません。

 この世界の国々にとって家名を名乗るということは、それなりの身分にある証しです。

 王家、貴族、騎士。あとは、特別に家名を許された大商人や富農などでしょうか。

 過去には、転生者にも家名を名乗る権利を与えてはどうかという議論もあったそうですが、すぐに立ち消えになりました。

 歴史的に見ても、才能ある転生者の方なら、自然と実績を積んだ上でそれなりの身分に上がってくるものでしたし、ほとんどの転生者が家名を正式に名乗ることにあまりこだわらなかったことも大きいです。


 そんなわけで、素体に魂が降りてきて、二度目の人生を歩み始めたシュンイチさんの姿を見つけて近づこうとした時に、彼は突然その場で号泣して、暴れ出してしまいました。


 ――えええっ!?






 この報告書を書いている場所は、取り押さえるために気絶させられて手枷付きを嵌められたシュンイチさんが運ばれた、医務室のベッドの横です。


 神様、私、何か悪いことをしましたか?

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