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10:満月に狂う

 (あかつき)は文机の前に座って開け放った障子窓から月を眺めていた。瞬きを一つした後、障子窓から見える景色は分断されていた。月の光を一身に背負って、窓辺に腰かける終夜によって。


頭領(かしら)の脳内と一般常識は噛み合っていない様ですよ」

「旭が死んだ時間に満月楼の楼主が何をしていたのか。あれだけしっかりとした証拠があれば、主として何もしない訳にはいくまい」


 暁は文机に向き直り、挑発するように口元を緩めた。それを見た終夜はニコリと笑った。


「どうやら話も通じなくなったらしい。〝一任〟って言葉を世間一般の辞書で引いてみなよ」


 瞬きを一つして笑みを消した終夜は、暁に冷ややかな視線を注いでいる。


「しっかり忠告したはずだ。邪魔をするなら消すって」


 室内に流れた沈黙を遮ったのは、暁が鼻で笑った音だった。


「それで、今も首と身体が繋がっているという事は、今回に限っては見逃してもらえたという事でいいのかな、終夜」


 下手に出る様な言い方をする暁だが、そこに恐怖心は一片たりとも見えない。寧ろこの状況を楽しんでいるかのように、変わらず挑発的な笑顔を浮かべているだけだ。終夜はため息をついた後、ふてくされたように頬杖をついてそっぽを向いた。


「つまらないなァ。頭領の命乞いは傑作だと思ったのに。もっと怖がってくださいよ」

「今回の件については、お前の詰めが甘かったな」

「返す言葉もありませんね。こんな事になるなら、勿体ぶらないで殺しておけばよかったかな」


 そういった終夜は、窓の外で赤く燃えた光が飽和する吉原を眺めた。


「人でごった返したこんな場所じゃ、たかが殺し一つでも骨が折れる」

「こんな場所だからこそ、日陰者は深く根を張っていられる」


 暁はそういって煙管をふかす。その様子を終夜は興味なさげに見つめた。


「宵を逃がした事については想定外。俺の詰めの甘さが招いた結果だ。でも、悪い事ばかりじゃなかった。寧ろ俺は運がいい」


 暁は感心した様に短く声を漏らして口元に笑みを浮かべた。


「どいつもこいつもみーんな、あの男にご執心だ。満月で狂うのは、どうやら狼男だけじゃないらしい。まだ俺を楽しませてくれる」


 そういって再び吉原の街を見下ろした終夜は、ニヤリと笑った。


「だからさっさと若いモンに道を譲ったらどうですか。いつまでも這い上がった地位にしがみ付くのは見苦しいですよ」

「吉原に一切興味関心がないお前に、か」


 そう問いかけた暁に、終夜は首を傾げてニコリと笑った。


「でももう、俺しかいない。でしょ。じゃ、前向きに考えておいてくださいね」


 そういった終夜は、暁の返事も聞かずに窓から飛び降りた。静かになった部屋で、暁は喉元で笑った。


「本当に狂っているのは、一体誰だろうな」


 そう呟いて、また煙管を口に咥えた。

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