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造花街・吉原の陰謀  作者: 野風まひる
吉原の厄災編
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1:プロローグ~造花街・吉原~

 二人を殺そう。


 ぽつりと浮かんだその考えに絡まって増幅したのは何とも形容しがたい感情だったが、至極簡単に言えば、憎しみだった。

 二人をこの手で殺す事でしかこの感情は収まらないと、本気でそう思った。それから真っ先に考えた事は、自分の後先や死体の処理方法ではない。どうすれば二人を確実に殺すことが出来るか。ただ、それだけだった。


 5年前の事だ。つまり、この花街に自分を売って、もう5年が経った。


 それまで社会は一方通行で進んでいた。IoT、AIの技術発展により、家電と呼ばれる物の全てがスマートフォン一つで野外から操作できる時代だ。女性の社会進出。男性の育児休暇率の著しい上昇。


 そんな中、日本を代表する大企業の社長が打ち立てたプロジェクトは、現代人が江戸と呼ぶ時代に栄えた花街を作る事だった。

 色を売る事が目的の街ではなく〝テーマパーク〟であると計画は進められたが、現代において色事の印象の強い花街を模造とはいえ再興しようとする動きに当初は批判の声が強かったようだ。そんな窮地をどう切り抜けたのかは知らないが、大型工場建設予定地だった場所にやがて一つの街が出来上がった。


 その場所の名は〝吉原〟。唯一の出入り口である大門を通ることでしか入る事の出来ない花街。


 設立されてから今まで、外国人観光客が選ぶ日本の観光地1位を取り続けている日本を代表する場所だ。テーマパークと銘打っているが、充実した施設と観光客が店に落とす金で何ら問題なく機能しているその場所は、一つの街として存在している。


 このご時世にデジタル機器の持ち込みに、和服以外での立ち入り一切禁止。デジタル化が加速し飽和する中でデジタルデトックスという言葉が生まれ、肌身離さず持っている事が当たり前になったスマートフォンを一時的に手放して、別世界に浸る感覚がウケたのかもしれない。


 ただし、観光客向けの派手で見てくれのいい造りは当然、歴史を忠実に後の世に残すという視点から見れば大失敗だった。著名な大学教授が当時、自身のチャンネルでこう言った。『三階以上の建物を当たり前に建てている時点で、それはないだろって話なんですよ。まあね、もう出来ちゃったモノにどうこう言っても仕方ないのでね。僕の感想は、所詮は〝造花の街〟って所ですね』と。


 それから吉原は、〝造花〟と〝花街〟をかけて〝造花街・吉原〟と呼ばれる事になる。

 しかし一種のエンターテインメントとして受け入れられた吉原の表舞台では、今日も観光客は恍惚として世界観に浸り、就職希望者は後を絶たない。


 このテーマパークには秘密がある。

 造花街を実質的に支配しているのは、裏の頭領と呼ばれる人物を主導者とした犯罪組織。

 白昼堂々舞台裏で行われる人身売買。

 売られてきた女たちは、遊女として客の相手をする。そして、決まり事を破った者は忽然と姿を消す。

 女たちを表と裏に区分しながらも、同じ空間に放り込んでいる吉原という場所が織りなす中毒性のある独特な雰囲気。

 そんな汚い世界が、テーマパーク吉原の裏側、本当の姿だ。


 しかし、明依にとってみれば外の世界の方がよほど残酷だった。両親が死んで引き取られた先の親戚夫婦は、幼い明依に関心を示さなかった。


 15歳の頃、ある出来事がきっかけでその親戚夫婦を殺そうと思い立つのだが、流れに抵抗する間もなく身を任せてたどり着いたのは、有名なテーマパーク。〝造花街・吉原〟だった。

 最終的に吉原の満月屋という妓楼にたどり着き、自分を売り、その金を手切れ金として渡す事で、親戚夫婦と外の世界と決別した。


 男性を相手にする仕事に不満がないとは言わない。しかし、拾ってくれた楼主と大切な友達が側にいる日々が続くなら、そんな不満なんてあってない様なものだ。

 過去がどうであれ自分が不幸だとは思わないし、これ以上の幸せを望むつもりもない。神様に願う機会があるなら迷わずに、どうかいつまでもこのままで。と、告げるだろう。


 だけどもし、その唯一の願いさえ叶わないなら、心底不幸な人生だと喚き散らすかもしれない。致死量の幸せが欲しくなるかもしれない。息も出来なくなるほど何かに依存するかもしれない。そしてきっと、神を呪いながら堕ちていく。


 地獄の最果てまで、真っ逆さまに。

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